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ゲームの世界

「いやぁ、やっぱムズイな」

 起き上がり一番に漏れた言葉がそれであった。

 レビューなどでは聞いていたが、まさかこれほどとは思ってもみなかった。

 自分なら余裕で攻略できるし大丈夫だ。などとのたまいこの世界に飛び込んだ自分をブン殴ってやりたい気分である。

「でも、それがいいんだよな」

 ひとりごとを呟きながら頷く様は非常に滑稽であろうが気にしない。

 横になっていたベッドから起き上がり、先ほど強打されたはずの頭部を確認する。

 思いっきり殴られたのにも関わらず傷痕などは一切ない。血が流れた形跡もありはしない。

 それもそのはず、ここはデータによって作られた仮想の世界なのだから怪我など負いようがないのだ。


 しかし、本当にこれがゲームの世界がにわかには信じられない気持ちもある。

 右手を持ち上げジッと眺める。手の皺まで細かく刻まれた手のひらを見ても、関心のため息しか出てこない。

「ホント、技術の進歩ってスゲーんだなぁ」

 様々な角度に腕や手首を動かし眺めるが、現実とそん色のない質感には毎度違和感すら覚える。目を凝らせば産毛までみえてきそうだ。

 しかし、やはりゲームなのだなと実感することも当然ある。

「感触や痛覚までは現実通り、とはいかないか」

 両の掌を力いっぱいに打ち付けても手がヒリヒリと痛むようなことはない。

 掌も筋肉や脂肪といった柔らかさがなく、マネキンを触ったときのような硬さだけが残るのだ。

「……しょーもな」

 誰も居ない部屋でくだらない遊びをやっているということに苦い笑みが浮かんでくる。

 腰かけていたベッドから立ち上がり、小さく声をあげながら伸びをする。

 現実ではない身体をほぐし、仮想世界でありながら体調を確認する。

 ……先ほどの戦闘による後遺症はないようだ。初戦から敗北したことよる精神的なものは除いて。

 立ち上がると、すぐ目の前にある扉を開き外に出る。


 石造りの家屋が立ち並ぶ街道。幌付きの馬車が大きな通りを横切る、いかにもファンタジー世界が目の前に広がっていた。

 簡素な布生地の衣服をまとう人もいれば、金属のプレートを胸当てに張り付けた簡素な鎧を着用した兵士のような人物も居る。

 自分もその世界のひとりとして存在できるということがいまだに信じられない。

「こんにちは。調子はいかがですか?」

「さっきまでダンジョンにいたんですけどね。ボコボコにされました」

 部屋を出たところで声をかけられた。

 その人はガイドサポート職員のヒロさんだった。自分がこの世界に来た時も色々と案内をしてもらった覚えがある。

 完全なノンプレイヤーキャラクターとは違い、最初にこの世界に訪れたプレイヤーたちを誘導するべく運営が配置したサポート役らしい。

 といっても、今の主な仕事はゲームの愚痴に付き合う事になっているそうだが。

「そうでしょう? ダンジョンにひとりで挑むのはオススメしませんよ」

「最初は様子見ですから。本気で攻略するときは誰かと行きますよ」

 確かに難しかった。アクション性の高いゲームで、一人称視点で動かなければならないというのは想像以上に苦痛である。

 勿論、労力的な面も考えれば一緒に同行きる人間がいるほうが良いだろう。

 とはいっても、一緒に行ける相手に心当たりがないのが問題なんだけどな。


「そうですね。もし良ければ、この近くにいるプレイヤーさんをお調べしましょうか?」

 考え込むオレの姿を見て、ヒロさんはそんな提案を持ち掛けてくれた。

 知り合いがいるわけでもない自分にとってはありがたい言葉である。

「そんなこともできるんですか」

「そのためのサポート職員ですから」

 自慢げに語るヒロさん。仕事着らしいエプロンのポケットからタブレットを取り出すと、タッチパネルに指を走らてせていく。

 しかし、あまりこの辺りに他のプレイヤーがいないのか難航しているようであった。

 検索条件を変更しているのか度々タブレットを操作しては画面をにらみつける。というのを繰り返している。


「お」

 考えこむような表情を崩してヒロさんが声を漏らした。誰か見つかったのだろうか。

「この方なら安心して任せられますね」

 ヒロさんが太鼓判を押す人物か……。一体どんな人物なのだろうか。

「それは頼もしいな。どんな方です?」

「かなりのベテランの方ですね。ベータテストのころから始められている方で、面倒見も良い方とは聞いていますね」

「え、ちょ……。待ってくださいよ! そんな人に頼っちゃっていいんですか?」

 なんというかコチラ側が申し訳なくなる。そんな人物を自分のような初心者の世話にあてがってよい物なのだろうか?


「話は聞かせていただきました。私は全然構いませんよ」

 慌てふためくなか、ふんわりとした優しい女性の声が飛び込んでくる。というか、いつのまにこんな近くまで来ていたのだろう。

 その女性、というか少女はひどく特徴的な格好をしていた。

 世界観の趣旨とはややかけ離れたであろうファンシーでフリルが施されたメイド服に身を包み、小柄な背丈とほぼ長さの変わらない大きな剣を背負っている。

「よろしくお願いしますね」

「あ、こちらこそ! よろしくお願いします」

 手伝ってくれる気満々のようだ。さすがに断るのも忍びないので、ありがたく頼らせていただこう。

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