給食兵器メシアガレオン
料理要素はほぼないです
メシアガレオンMk.Ⅲ
かつて全世界にまで及んだ戦争をわずか1週間のうちに終結させたロボットの名である。
その鋼刃はすべてを切り刻み、その火炎はあらゆるものを包み込んだという。
すべての争いが終わったのち、「究極兵器」と呼ばれたそのロボットがどこにいるのか、それは誰も知らない。
「OK、父さん。いったん状況を整理させてくれ」
「……? 構わないが……一体何が疑問なんだ?」
「まず俺は料理の修業のために留学していた。しかし戦争が起こって帰ってこられなくなった。そして、戦争が終わったのでようやく帰ってこられた。ここまでは大丈夫」
「ああ、本当に、よくぞ無事で帰ってきた……」
「落ち着いて、父さん。再会のハグは、一旦お預けだ。いいかい? 俺が修行していたのは父さんのレストランを継ぐためだ。だがどうだい? 帰って来てみれば、父さんは立派な後継者を見つけているじゃないか」
「後継……? ああ、ひょっとして彼のことを言っているのか?」
「久々にここのメニュー見ておったまげたよ! “料理長のお任せランチ”だって! 随分あいつのこと信頼してるみたいだな? でも俺はあんなのと同じ厨房に並ぶなんてゴメンだぜ」
「彼の何が不満なんだ? 人を見かけで判断してはいけないよ」
「だってこいつ……」
『当店シェフノ、メシアガレオンMk.Ⅲ、デス。イラッシャイマセー!』
「ロボットじゃん!!」
「それの何が問題なんだ? 彼の腕は確かだよ?」
「問題大ありだよ! こんな機械油に薄汚れた鉄の塊を厨房に入れるってだけでも……ナンセンス!有りえないのに! ましてやこいつが料理長だって!? 親父、しばらく会わない内にモーロクしちまったのか!?」
「そういうことか。それなら心配いらない。メシアガレオンはきちんと清潔に保ってある。ほら、保健所からもお墨付きだぞ?」
「だからぁっ……! そういう問題じゃ……、そういう問題じゃないんだよ!」
『当店シェフノ、メシアガレオンMk.Ⅲ、デス。イラッシャイマセー!』
「お前もそればっかり言ってないで何とか言えよ!」
『ハイ、ゴ命令シテクダサレバ……』
「急にしゃべるなぁ!ビックリするだろぉ!」
『ヒドイデス……』
「メシアガレオン、人間ってのはときに理不尽なものなのさ」
『ソノ情報ハ、インプット済ミ、デス』
「ロボットの癖にいっちょ前に人間のこと分かった気になってんじゃねえよ……」
『僭越ナガラ、オ坊チャマ、私ハ1週間ホドデスガ戦場ニイマシタ』
「……え? 戦場?」
「ソコデ嫌トイウホド見テキマシタ。人間ノ醜サ、愚カサ、卑シサ、ソシテ同時ニ美シサモ」
「戦場……ロボット……1週間……お前ってまさか……」
「そのまさかだよ。メシアガレオンこそが、先の戦争を終結させた究極兵器さ!」
『オ坊チャマ、コレカラ、ドウゾ、ヨロシク、オ願イ、シマス』
「脅しじゃねーか!」
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「どうだい? メシアガレオンの働きぶりは?」
「……ああ、手際もいいし、料理の腕も確かだ。細かい気配りもできる」
「そうか! それならメシアガレオンを……」
「そんな簡単に受け入れられるかぁ! もうわけ分かんねぇよ……。動くたびにキュイキュイ言ってんだよ!? 何だよメシアガレオンって!?」
『オーナー、オ坊チャマガ、コウオッシャルノモ、仕方ナイコトデス』
「メシアガレオン……でも……」
『オ坊チャマハ、私ノ料理ヲ食ベタコトハ、アリマセンデシタネ』
「あ? ……そういえばなかったな……」
『黙ッテ私ノ飯ヲ、食ッテクダサイ。話ハ、ソレカラデス』
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『サア、召シ上ガレ』
「どんな料理出してくるかと思えば……普通のペペロンチーノじゃねえか」
『御託ハ結構。黙ッテ食ッテクダサイ』
「けっ、言っとくけど俺の評価は辛口だぜ? ……どれどれ。……これは……!」
「ど、どうなんだ?」
「見た目だけじゃなくて味も普通じゃねえか……」
「えっ!? ……本当だ。ちょっとメシアガレオン!」
『ソレガ、私ガ、今ノ、オ坊チャマニ、オ出シデキル、最高ノ料理デス』
「……何の特徴もない、どこでも食えるようなしょーもない料理だよ。なのに……何でこんなに温けえんだ。カプサイシンの効能ってだけじゃ、ねえな」
「……! まさか……メシアガレオン……」
「……父さんが、レストランを開く前、初めて俺に作ってくれたのと、同じ味だ」
『ソノ通リデス。私トオーナー、ソシテ、オ坊チャマヲ繋ゲテクレタ味デス』
「俺達を……繋いだ……?」
「……実はな、お前が俺の料理を嬉しそうに食べてくれるのが嬉しくて、それで、諦めかけてたレストラン経営って夢が甦ってきたんだ。このレストランがなければ、俺達とメシアガレオンも出会うことはなかった。そういうことだよな?」
『ハイ、私ハ、オ二人ニ、出会テヨカッタト、思ッテイマス』
「お前……でも、どうやってこの味を……」
『オ坊チャマ。オーナーハ、常々オッシャッテ、イマシタ。アイツハ必ズ帰ッテクル。ダカラ、ソレマデ、ココノ厨房ヲ守ッテクレ、ト。デスノデ、過去カラ現在ニ、至ルマデノ、オーナーノ料理ノ、データハ、スベテインプット済ミ、デス』
「……参ったな。こんな料理出されたら……しゃーねえな。認めてやるよ、お前のこと」
『オ坊チャマ……!』
「ごちそうさん。うまかったぜ、“料理長”。……これからビシビシ鍛えてくれよ」
『……勿論デス。デモ、私ノ指導ハ、辛口デスヨ?』
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「でもよ、お前何で料理なんかしようと思ったんだよ?」
『機械ノ、私ニトッテ、味トハ単ナル成分デシカナイ』
「へぇ?」
『デスガ、人間ハ、ソレヲ口ニシテ、泣イタリ、笑ッタリ、興奮シタリ、センチニナッタリ……、料理ハ、機械ノ私ガ、人間ノ心ト繋ガレル、唯一ノ、手段ナノデス』
「……そっか。そりゃ敵わねえわ」
『……? ドウイウ意味デス?』
「俺がいずれお前を超えてやる!……って意味だよ!」
『……! ハイ! オトトイ来ヤガレ、デス!』
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「ていうかさ、1週間で戦争止めたってどんな手段使ったんだ?」
『……ソレハ、重要機密事項、デス』
「わ、忘れる! 忘れるから! その機関銃しまってくれ!」
『ト、イウノハ冗談デス』
「冗談かよ!」
『……戦地ニ赴イテ、飯ヲ、食ワセマシタ』
「……それだけ?」
『ソレダケデス』
「はぁ~……、すげえな。それもう、あれじゃん、料理人の究極形じゃん」
『私ハ、タダ、戦争デ苦シム人タチヲ、救イタカッタ、ダケデス』
「飯屋で救世主で召し上がれ……ってか。いい名前貰ったな」
『メシアガレオン……ソウイウ意味ダッタノデスカ……!』
「気づいてなかったのかよ! ……おっと、お客さんだぜ」
『デハ、オシャベリハ、コノ辺デ。仕事ニ、戻リマスカ』
「おう!」
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ここは、町のはずれの小さなレストラン。このレストランの看板シェフは、ちょっとだけ変わっている。でも、彼の料理はきっと与えてくれるだろう。都会のガレキに押しつぶされそうなあなたの心に――――
「一皿分の救済をあなたに……っと」
「父さん、それは?」
「このレストランの新しいキャッチコピー。いいだろ?」
「そうだな。あいつも喜ぶぜ」
そのロボットは
『食』を『給』するロボット
『食』を『究』めるロボット
そして、『食』で『救』うロボットだ。
『当店シェフノ、メシアガレオンMk.Ⅲ、デス。イラッシャイマセー!』
「なあ、メシアガレオン」
『ハイ、何デショウ?』
「“料理長のお任せランチ”ってどうやってメニュー決めてるんだ? あれお客さんによって全然違うの出してんじゃん?」
『オ客様ノ、舌ト脳波ノ状態カラ、ソノ人ガ今一番求メテイル味付ケヲ分析シ、店内ノ食材ノ在庫量ヲ計算シタ結果ト、照ラシ合ワセテ、決メテイマス』
「へぇ~……。それズルくね!?」
『…………ソノ、単語ニ、関スル、データ、ハ、インプット、サレテ、イマセン』
「都合悪い時だけロボットぶるな~!」