第7話 都市『エルフィン』を滅ぼした人物
ボーガンを構えている危険人物に対して、リリアンは強気に話し始める。私は、ボーガンを突きつけられて呆然としていたが、彼女にとっては大した脅威でもないらしい。戦闘を耐え抜いて来た自信によるのか、注意を払いつつも怖気付いてはいなかった。
「なるほど、あなたの正体が分かったわ。実は、妾は帝国御用達の探偵でもあってね。ゴーレムを奪われた科学者から依頼を受けていたの。弟子の1人が裏切って、ゴーレムを奪い去ったと泣きついて来たわ。彼が示した犯人リストには、あなたの名前はなかったけど、密かにゴーレムを操る術をマスターしていたようね。
ダークエルフの『アレクサ』さん。奴隷同然で拾ってきた召使が、わずか数日で自慢のゴーレムを手足のように操れるなんて、依頼主もビックリなわけよね。科学の知識も無い、掃除と料理だけ学んでいたはずなのに、いつの間にゴーレムを操れるようになったのかしら? それが、あなたの本当の切り札というわけね?」
リリアンが犯人の名前を名指しすると、奴はフードを取って素顔を見せる。もはや逃げる気は無い、彼女を殺すか、自分が死ぬかの戦闘へと発展していた。その姿は、白い皮膚に、黒い模様の刻まれた美女であり、白いロングヘアーが棚引いていた。エルフ族を捨てた事による呪いのせいで、本来は白い肌に、金髪のロングヘアーが変色したものであった。
黒い模様は、邪悪な心を宿してしまった事を意味する。感情が制御し難くなり、一気に感情が爆発するのだ。その時、黒い模様は、使う魔法によって色合いを変化させる。一部のコレクターは、その色合いを好んでおり、色を残したまま殺して皮を剥ぐという。わざわざ人間がエルフに化けて、ムリやりダークエルフにする輩もいるという。
彼女の場合はどうなのか分からないが、とにかく人間とエルフを恨んでいる事には間違いない。その黒い皮膚の色が、彼女が激昂しているにも関わらず、黒い模様のままだった。彼女は魔法が使えない年齢の時からダークエルフになったはぐれ者らしい。それでは、人間の目からは価値も無く、見逃されているようだ。
「ふーん、魔法も使えないダークエルフさんでしたか。それでは、依頼主があなたに同情するのも、油断するのも理解できますね。これから魔法を教えて、色合いが良くなった時を見計らって殺すつもりだったのかしら? それを見越して、何らかの方法でゴーレムを奪って逃げたという感じかしらね」
「ふん、名推理だよ、美しい探偵さん。緑色に文字の浮かび上がった皮膚は数少ないとか言われて、ひたすら植物を操る魔法を習得させられたよ。もちろん、あいつに逆らって逃げ出さないように、実用的では無い変な魔法ばかりさ。それで、逃げ出す為にゴーレムを奪ったのさ」
「この都市を滅ぼしている所を見ると、ここへ来た目的は復讐といった所かしら? 親や親族から見放されて、自暴自棄になってしまったのね。幼い子供のダークエルフなら、そういう動機で復讐しに来ることはあり得るわね」
「いや、私がここに訪れたのは、自分の出生と親の顔が知りたかっただけさ。自分がなぜダークエルフとなったのかも良く覚えてはいない。親から事情を聞ければ良いと思ってきたが、奴らが狂ったように攻撃して来た。思わず、ゴーレムをけしかけてしまったよ。エルフ達に取っては、ダークエルフになるのは死んでも避けたい恥辱らしいな……」
「良い事を教えてあげるわ。必ずしもダークエルフが悪いとは限らない。感情という制限を外して、ムリやり魔力を増幅する方法なの。親族や仲間から離れて、1人で生きていく事を選んだ証とも言われているわ。
もちろん、普通のエルフ達にして見たら、親族から除け者にされて、同族同士の結婚は不可能となる愚かな行為だけどね。それでも復讐の為、魔力増幅の為に選ぶ者も少なからずいるわ。あなた1人というわけではない。
自暴自棄に陥っていないのなら、ゴーレムを引っ込めて、師匠の元に返す事ね。伝統魔法の基本が学べたという事は、努力次第では様々な技術を習得する事が可能よ。それに、別種族との結婚なら意外と人気が高いし……」
「冗談じゃない! 私をゴミみたいに捨てたあげく、なんの説明も何に攻撃して来るような奴らよ。もしも、私がゴーレムを操っていなければ、死んでいたのは私の方よ。ムカつく、許せないのよ、全滅させてやる!」
ダークエルフのアレクサは、感情が激昂して、憎しみに満ちた邪悪な顔をしていた。本来は美しいエルフの顔が、怒りによって夜叉へと変化していた。肌に刻まれた黒い文字は、鈍い光を放っている。しかし、リリアンは冷静に対応していた。
「やれやれ、やはり戦闘をしなければ収まらないか……。自分の死期を悟り、絶望して、初めて彼女を止める事が出来るのよ。歴代のダークエルフは、全て死ぬまで全力で戦って敵を打ち破っていた。だが、死ぬ瞬間だけは、感情が収まり、元の姿に戻っていたという。
魔法を使う事によって、光る文字を残した皮膚を得るには、彼女を即死させなければならない。興奮状態のまま死ねば、色鮮やかな文字の浮かび上がった皮膚が採取できるという。生きて連れ帰れなさそうな場合は、彼女をそのように殺せと言われている。さて、どうしようかな?」
リリアンは、バトルを楽しむように笑っていた。相対するアレクサは、本気で攻撃して来ており、わずかな隙でもあれば、一気に全力で攻撃して来ているようだった。使えないと言っていた伝統魔法さえ駆使して、彼女を足止めする。
魔法には、大きく分けて2つあり、科学魔法と伝統魔法だ。科学魔法は、科学を勉強して理論を理解できれば、状況次第で誰にでも使える事ができるようになるタイプの魔法だ。システムさえ作ってしまえば、私でも簡単に魔法を使うことができる。
しかし、伝統魔法は違う。火、水、風、土、草、光、闇と呼ばれる属性の魔法を、術者の魔力によって放出するのだ。まず、魔力と呼ばれる物の存在を感知できない限りは、使える可能性さえ分からないのだ。
「私の魔法は使えなかった。だが、それも昔の話だ。今では、ボーガンと組み合わせる事により、ここまで強力な武器となっている。私を舐めたら、美しい探偵さんでも一撃で殺してあげるわ。綺麗な体のまま、毒薬で生きた屍と呼ばれるゾンビのようなゴーレムにするわ」
「ちっ、やはり人間を生きたゴーレムにする『ゾンビの秘薬』も奪い去っていたか。あれは、相当危険な薬物だから、本当に言う事を聞かない奴隷だけに使うようにアドバイスしてたのに……。まさか、服用させたりしていないわよね?」
アレクサは、懐から謎の毒物を取り出す。瓶の中に入っているが、紙で包まれていて手で触る事さえ無いように徹底管理されている。どうやら精神を破壊させて、人間が主人の命令だけを聞くゴーレムとなるらしい。精神は死んでいるけど、体は生きているので『ゾンビの秘薬』と呼ばれているらしい。
「安心しなさい。コレを使うのは、あなた達が初めてとなるわ。男をゾンビ化しても意味ないものね。美人の探偵さんや美少女を奴隷にしてこそ、人体のゴーレムにする価値があるのよ。世界中から男達が、あなた達の体を求めてやって来るでしょうね。
言っておくけど、この『ゾンビの秘薬』は、ただ命令を聞いて動くだけではないの。いくつもの種類が存在する。あなた達の精神をそのままにさせて、体だけ命令を聞かせる事もできるの。コレを『肉体精神分裂型』と呼んでいるわ。
他にも、恋愛感情だけを爆発的に飛躍させ、男達の命令をなんでも聞くようにさせる『恋愛爆発型』というのもあるわ。死ぬまで男を求め続けて、複数の男性と死ぬまで恋を続けるが良いわ。あなた方には、後者の方が理想的かしらね?」
アレクサは、魔法によって、リリアンと私の周囲に植物を一気に繁らせる。私は移動していないから効果はないが、戦闘を仕掛けていたリリアンには、足止めをさせる効果が出ていた。足が絡め取られ立ち止まった所を、アレクサのボーガンが標準を合わせていた。
【マリアーンのモンスター情報】
ダークエルフ
本来は、清らかな乙女であるはずのエルフが闇落ちした姿。
白い肌に、黒いルーン文字が浮かび上がる。意味は、今の所分かっていない。
髪の毛は、老婆のような白髪に……。エルフ達からは嫌われている。
基本的に集団で生息する事はない。エルフ達とは断絶された状態。
感情の起伏により、魔力が増幅して、強力な魔法が使えるようになる。
体力自体はないが、訓練によって剣や弓などの達人になりやすい。
危険度 Cクラス(基本は普通の人間と変わらない)
見た目 美しい女性のエルフだが、髪の毛が白く変わり、白い肌に黒い文字が浮かび上がる。エルフにとっては、恥辱の証とされている。
有効な攻撃 剣による接近戦には弱いとされている。