第4話 VSゴブリン、野原での死闘
私は、ゴブリンを見て驚き、叫び声を上げる。しかし、ビビり過ぎて声が出て来ない。
「うわあああ、ゴ、ゴ……」
「なんだ、マリアーン、ゴキブリが怖いのか? 仕方ない、管理者達を呼ぼうか。おーい、スタッフ!」
お兄ちゃんが呼ぶと、もじもじしながら恥ずかしがっているゴブリン達が現れた。私の裸姿をチラ見しながら、顔を赤くしている。本来、敵モンスターであるはずのゴブリンが、お兄ちゃんの手足のように動いていた。
「うおおおおお、ちょっと、呼ばないでよ! 湯船に浸かるから、待って!」
私は逃げるようにして、ゴブリン達から身を隠すようにお湯に浸かった。湯の温度はちょうど良く、気持ち良いと感じる。しかし、ゴブリン達は温泉を囲むように整列する。数としては、10人ほどが集まっていた。お兄ちゃんは、そのゴブリン達に指示を出す。
「で、要件って何だい、マリアーン? 彼らは、ここの宿の管理人と化した。マッサージでも、簡単な料理でも、ハウスキーピングでも、何なりと告げるが良い。まあ、彼らはオスなだけに、多少エッチな目で見てくることは許してやって欲しいが……」
「ここ、無人の宿だよね? いつの間に、ゴブリン達が管理する事になったの?」
「ふっ、ついさっきの事だ! お前がサンドウィッチを作っている間に、俺達が露天風呂を作れた経緯を話そうじゃないか!」
お兄ちゃんは、私に経緯を話し始めた。その隙に、ゴブリン達がお湯の中に入ってくる。お兄ちゃんは、全く動揺する事なく、私に話を聞くように強要して来た。ものの数分で、ゴブリン達と混浴するという異様な空間が出来上がっていた。
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私がサンドウィッチを作り始めた頃、お兄ちゃんは野原でゴブリン達に遭遇していた。邪悪な笑みを浮かべ、金品を強奪する気満々のようだ。それぞれ棍棒などの武器を片手に持ち、お兄ちゃんとジャクソンに襲いかかる。
「ほーう、儂と戦うつもりか? 身の程知らずのモンスター共が……。お前らの相手をしているのが誰かを分からせてやる!」
「待て、ジャクソン! 確かに、俺やお前がマトモに戦えば、奴らは一瞬にして屍と化すだろう。だが、それでは面白くも何ともない。俺に考えがある、任せてくれないか?」
「ゴブリンと交渉する気か? ムダだ、油断をすれば、お前が死ぬだけだぞ!」
「ふん、奴らも生きるために必死なのだ。それに、俺ならば、奴らが何億いおうが相手にすらならない。結果の決まり切った勝負をするより、結果の分からない交渉をする方が面白いではないか。では、ゴブリンよ、心して聞くが良い」
ジャクソンとゴブリン達は、喉を鳴らして話を聞く。お兄ちゃんは、彼らの顔色を見て、勝利を確信していた。
「俺とジャクソンは、ここに露天風呂を作る事にした。ゴブリンよ、この意味が理解できるか? つまり、この無人の宿に女性が集まりやすい、露天風呂が誕生する事になるのだ。一般の凡人では、温泉をどこから引っ張って来るんだとか、設備が足りないのにできるわけないよ、と言う意見で頓挫するだろう。
だが、農業のスキルのある俺ならば、山頂にある温泉のお湯をここまで引く事が可能だ。かつて、人々は水を求めて争い合っていた。死者が出るレベルにまで発展することもしばしばだった。だが、機械の力を使わずとも、遠くの山から水を引いて来ることは可能なのだ! 方法を知りたいか?」
ゴブリンは真剣な顔付きになり、俺の話に食い入るように聞き入っていた。美女が集まる宿になる。これだけで、ゴブリンにとっては夢の世界なのだ。ゴブリンの生活する区域に来る女は、美人でも腕の立つ剣士か、歳も幼い女ばかりだ。
幼女を攫って仲良くなっても、親や兄弟達に見付かって殺されてしまう危険が高かった。集団で、見付けた女達を奪い合うのが彼らの生殖行動なのだ。そこには、愛も喜びもない、ただの強姦行為だ。
ゴブリンにも良心はある。抱いた女の子が死にそうな顔で悲しむ姿を見るのは、ゴブリン達の心を傷付けていた。人間のように、お互いを理解し合った上で愛し合いたい。これが彼らのささやかな夢だったのである。
「本当に、オイラ達の周りに美女が寄って来るのか? 言っておくが、オイラ達は美女と相思相愛になって結婚したいんだ。その後、ずっと愛し合って行きたい。生殖行為の為にしかたないとはいえ、女の子が泣くのは見たくないんだ。会うだけじゃダメだぞ、相思相愛にならないと……」
「安心しろ! お前達が自分の顔に自信を持っていないことは知っている。そこも対策を考えて来た。露天風呂とお前達を目当てにして来た客ならば、相思相愛になって結婚する未来も十分に可能だと思う。モンスターの夢を叶えるのも、勇者の仕事の1つだ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお! オイラ達は何をしたら良い? なんでも可能な事はする。教えてください、勇者先生!」
ゴブリンは超乗り気になり、お兄ちゃんの手足と化した。もはや危険なモンスターではない、ただのエロい人間のオスと化していた。当然、ジャクソンも彼らに協力する。ウンウンと頷き、彼らの悲痛な思いを1人の漢として理解していた。
「分担作業により個々の協力が重要だ。俺は、山頂まで行って、温泉源からサイフォンを用いる事により、ここまでお湯を引いて来る。ロウソクのロウを塗った布を、丸めて筒状にすれば、楽にここまでお湯を移動させる事ができるのだ。
お前達は、2班に分かれる。A班は、露天風呂となる場所を整地して、水が溜まりやすいようにならしておけ。そして、岩を囲むように配置して入り易い露天風呂を作るんだ。監督であるジャクソンの指示に良く従え!
そして、B班は、脱衣場と周囲から見えないように囲いを作るんだ。露天風呂には、雨が入るこまないように屋根も設ける。女性は、外から見えるのは嫌がるが、混浴においてはすんなり受け入れてくれる。試してみようか?」
「どうやって? 近くには女の子も……」
「それが居るんだな! 俺の妹で、嫁候補の1人でもある美少女が……。いきなりナイスバディと向き合っても緊張するだろう。8歳のまだ成熟していない体なら、お前達も興味があるし、見慣れているだろう。
金髪ロングの女の子でお触りは厳禁だが、混浴で一緒に風呂に入るだけなら許可しよう。彼女が嫌がらなければ、お前達も少しは俺の言葉を信じるし、自分に自信も持てるはずだ」
「うおおおおおおおおお、チッパイ、来た! 大好物ですよ! それ以上大きくなっては欲しくないと望むほど、触れてはいけない美少女感がとてもそそりますよね。あの人を蔑むような目が美しいとさえ感じますよ!」
「ふっ、しかも妹はツンデレ属性がある。村人だからそこまで傲慢にならないしな。お前達が入って来ても、恥ずかしがって強がれないだろう。そこまで行けば、お前達も多少は自信がつくだろう。後は、少しのコツでモテモテになれる!」
「少しのコツ!?」
「それは、おいおい話そうじゃないか。まずは、数分間で露天風呂を完成させるんだ! マリアーンを待たせては行けない!」
こうして、俺とジャクソン、ゴブリン達によって、マリアーンがサンドウィッチを作リ終える時には、露天風呂が完成していた。そこから、ジャクソンの悲劇が始まるのである。お兄ちゃんは、続けて物語を話し始めた。
「そろそろ露天風呂が完成しただ……。美少女を読んで来た方がいいでねぇか?」
「オイラ、女の子が料理しているところ見たいだよ! 新婚さんみたいでワクワクするだ」
ぞろぞろとゴブリン達は私のいる小屋に近付いて来ていた。ほぼ10人全員が素早く小屋の周りを囲み始めていた。気配の消し方も学んでおらず、足音が鳴る。私が警戒し始めたのもその頃だった。
「儂が行く! マリアーンの裸にエプロン姿を見て良いのは、儂だけのはずだ!」
剣王の名は伊達ではない。ジャクソンは、一瞬にしてゴブリン達を追い抜いて行く。そして、目にも留まらぬ早業で扉をあけて、マリアーンの元に向かっていた。だが、彼女の全裸を想像し、年甲斐もなく鼻血を噴き出させていたのだ。
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「どうやら、マリアーンのわずかに女となっていた裸に興奮したらしい。そろそろ胸も膨らみ始める頃だろう。ジャクソンには、少々刺激が強過ぎたらしい。どうだ、このロリコン殺しめ!」
お兄ちゃんは、私の頰を意地悪な顔でつんつんと突く。ジャクソンが勝手に出血多量で死のうが、ゴブリンに襲われて死のうがどうでも良いが、私が木刀で殴り倒したわけではなかった。せめて、私が彼を実力で倒せるようになるまで生きていて欲しい。
「そっか、私がジャクソンを木刀で倒したわけじゃないんだ。残念……」
「さすがに、ジャクソンは、剣王と呼ばれるだけの腕はある。一端の小娘に剣技で負けるわけはないぜ! まあ、悩殺には勝てなかったようだが……」
「ふーん、じゃあ、お兄ちゃんはどうなのかな? 私の全裸で悩殺されちゃう?」
私は、お湯の中で挑発的なポーズを取る。オッパイを隠し、お兄ちゃんの足に自分の足を絡め始めていた。ゴブリン達のオーという歓声が上がる。見えてはいないが、ほんのり赤くなり始めた私の肌に興奮しているようだ。
「マリアーンの体は、俺の物だ。悩殺されるわけがない。逆に、お前を悩殺させてやろうか?」
お兄ちゃんは、私を捕まえて、顔を近付けて来た。私の首筋の汗から頰に付いている汗までを優しく舐める。私は、ああ……、という変な声を出していた。私が女の一面を見せると、掴んでいた私の腕を放した。彼は納得したように笑う。
「マリアーン、俺は常に捕食者なのだ。あまり油断をしていると、心も体も食べてしまうぞ。注意しておくことだな!」
吸血鬼に血を吸われたかのごとく、私は動けなくなっていた。心臓が熱い。お兄ちゃんのオレ様的な態度に、私はドキドキしていた。それは私だけではない。本来は女の子が大好きなゴブリンでさえ、お兄ちゃんの魅力にうっとりしていた。
「オイラもあんなふうに女の子とイチャラブしたいだ。強気な態度で女の子を押し倒してみたいだよ……」
「馬鹿、アレは貴族にしかできない高等テクニックだぞ。お前は、恥じらいながら手紙とプレゼントを渡す攻撃で満足しておけ。下手に強気に出ると、駆除の対象になってしまうだよ」
お兄ちゃんを褒めるゴブリンの言葉を聞きながら、私は己を恥じていた。私は女として隙だらけのようだ。このままでは、お兄ちゃんに弄られて、数日間でただの女に成り下がることだろう。血の繋がりをハッキリさせるまでは、許してはいけない感情だった。
「お兄ちゃんには迂闊に近付かない! 結婚できるという保証があるまでは、絶対に好きになったりしないんだから……。一緒に寝るのも、ダメだよ……」
今までは当たり前だった事さえ、今のお兄ちゃんとでは平常心でできなくなっていた。手が触れる、顔が近付くだけで、マトモに歩けないほど緊張するのだ。本気で彼を愛してしまったら、もう歯止めが効かなくなってしまう。
私がお兄ちゃんがお風呂から上がるのを見ていると、今度はジャクソンが現れた。自分の意思でお風呂に来たというよりは、ゴブリンの介護サービスで来たという感じだ。事務的に体を洗われ、お湯に浸からされる。どうやら、まだ意識は戻っていないようだ。
「ふう、ジャクソンが居て良かった。お兄ちゃんと2人きりなら、お父さんやお母さんに申し訳ない関係になってたかもしれない。まあ、危険が増している気がするけど……」
気の失ったジャクソンと一緒にお湯に浸かり、ゴブリン達とも一緒にお湯に浸かる。今のお兄ちゃんよりは心が安らげると安心していた。ゴブリンの顔はそれなりに怖いが、見慣れてくると愛着が湧く。
「ふーん、こうして見ると、ゴブリンも可愛く見えるよ。人を襲わなければ、大した脅威ではないからね。真面目だし、一緒に生活していけるかもね……」
「良く気が付いたな、マリアーン。それこそが、ゴブリン達が嫁を手に入れる最短ルートだ!」
「うわあああああ、どういう事なの?」
お兄ちゃんは、トイレに行っていただけだった。私の独り言を聞き取り、ゴブリン達に説明し始めた。もう逆上せそうなので、そろそろ解放して欲しいのだが……。私は頭に冷水を被り、逆上せるのを防ぐ。こんな所で倒れたら、何をされるかわからない。
「ふふふ、まずは、これを見てくれ。この宿の広告をこのように改造して見た。フレンドリーかつ可愛いをアピールしたポスターだ。ゴブリンは怖い、汚い、危険という概念を取り除けば、一瞬にしてモテキャラに変身する」
お兄ちゃんが作ったポスターには、可愛いゴブリンのイラストが描いてあった。本物は少し怖いが、このポスターを見た後だと、可愛くて抱きしめたくなるゆるキャラに変化していた。これが視覚を使った錯覚効果という奴だ。
そこには、『真面目で、働き者な、ゴブリン達が、しっかりサービス致します。露天風呂、マッサージ、お食事、全てに彼らが応えます。少し疲れて休みたい時は、純粋な彼らで癒されてください』という言葉と、ゴブリンのイラストが描かれていた。
「うわぁ、可愛い……。ちょっと抱きしめたいかも……」
「おおおおおおおお、マリアーンちゃんでも効いている。という事は、他の女の子ならイチコロだな!」
「オイラ達にもついに春が訪れるんだ!」
ゴブリン達はお祭り騒ぎになり、宴会が始まる。それでもサービスはしっかりとしてくれた。本当に、真面目で勤勉なモンスターだ。金さえ稼げて、勤勉ならば、多少顔がブサイクでも好きになってくれる女の子はいるだろう。
私は、宿を出る所で彼らにエールを送った。お兄ちゃんと私は手を繋ぎ、ゆっくりと次の街へ向かい始めた。握っている手が凄く熱い。ジャクソンだけが、私達を冷やかな目で見つめていた。私の裸も見れなくて、つまらなかったようだ。
一匹のゴブリンが私を見つめて来た。
仲間になりたそうだ。
仲間にしてあげますか?
⓵さっきチッパイとか言ったわね? と言って凄む。
⓶あなたには、いつか良いお嫁さんが見付かるわ! と心にもない事を言う。
⓷私の裸を見たんだから、有り金全部寄越せ! という。
私は⓷を選び、旅の資金を手に入れた。
これで豪遊する事ができるぞ!
その日、食料が尽きたゴブリンが、仲間のゴブリンを食事として調理した。
遊びでも強盗のような真似は止めよう。
本当に警察がやって来ますよ!
⓵を選ぶと、ブラジャーを支給される。
⓶を選ぶと、イケメンゴブリンに成長する。