第3話 お兄ちゃんのプロポーズ
お兄ちゃんとジャクソンが、お風呂の準備をしに行ったので、私は1人で夕食を作っていた。昼間にあった女性が、ハムと卵をくれたので、パンを使った簡単な料理を作る事にした。
「では、昼間に入手した美味しそう(・・・・・)なハムと卵を使ってサンドウィッチとコーンスープを作ります。後は、簡単なサラダを用意して……。美味しい夕食が出来ました!」
私が料理を作り終えると、何かを落とす物音がする。お兄ちゃんもジャクソンもいないはずだ。という事は、モンスターの可能性がある。私は、忍び足で部屋の扉の所まで移動した。モンスターが入って来た場合、不意打ちで倒す狙いがある。
「扉の後ろの横に隠れて、相手が油断した所を狙う。ちょっと卑怯だけど、どんなモンスターか分からないからね。実力では、相手が上の可能性もあるし……」
私が隠れていると、ぎいっという音がして扉が開く。モンスターは、集団のようで複数の足音が聞こえる。おそらく1人が扉を開け、残りの奴らが安全を確認しだい突入する気だ。
1匹のモンスターが、私が攻撃できる位置まで近付いてくる。
(もうちょっと、後2歩くらい……)
私が覚悟を決めて、木刀を握ると、ダダダダっという駆け込むような音が聞こえて来た。さっきのにじみ寄るような足音よりも数段怖い。得体の知れない化け物が、私の部屋に駆け込んで来たのだ。
「いやあああああ、来ないで!」
「ぐあああああああ……」
攻撃がヒットし、部屋の中へ駆け込んで来た者は倒れていた。不意打ちを食らったのか、完璧なまでに気絶していた。顔から血を流し、かなりのダメージを受けている事が分かる。その人物は、ジャクソンであり、私が想像していたような者ではなかった。
「叔父さん、気絶しただけか……。それとも、人間に変化して油断を誘うモンスターかしら? それほどのモンスターが、こんな所にいるかどうかは知らないけど……」
しばらく叔父さんをベッドに寝かせて安静にさせていると、お兄ちゃんが現れた。どうやら2人でお風呂を作っていたようだが、私を呼びに来たジャクソンが帰ってこない為、心配になって見に来たらしい。
「どうした、マリアーン? お風呂の準備はできているのだ。まずは、歩いて疲れただろう。一緒にお風呂に入って、背中を洗い合おうじゃないか!」
「お兄ちゃん、私が叔父さんを殴って気絶させちゃった。どうしよう?」
「ほう、凄いな、マリアーン。さすがは、俺の妹だ。まさか、いきなり剣王を倒すとは……。誇る事はあっても、悲しむ事ではない。奴は、お前を如何わしい目で見ていた。少しくらいのダメージを与えた方が彼の為にもなるだろう。さあ、お風呂へ行こう!」
「そんな、でも、叔父さんを放ってはいけないよ……」
「いや、剣王たる者が、村娘に倒されたのだ。恥ずかしくてしばらく起きて来れんのだろう。剣士に恥をかかせてはダメだ。俺とお前がいなくなれば、1人で自分の無力さと未熟さを嘆くであろう。しばらくそっとしておいてやるのだ」
「そういうもんなのかな?」
私は、叔父さんをベッドの上に置き去りにして、お兄ちゃんと共にお風呂へ行く。
傍らには、私の作ったサンドウィッチとスープを置いておいた。愛情とは行かないまでも、弟子が師匠を思うくらいには感情を込めて作っている。
「気が付いたら食べてください。怪我をさせてすいませんでした。モンスターが近くにいると感じたので、気を張っていたのですが、まさかあなただったとは……。実力とか気にせず、少しゆっくりして居てください」
私はそう言い残して、お風呂へ向かって行く。2人の功績があって初めてできたお風呂なのだ。お風呂の様子を見て、彼が本当に凄い人物であることを思い知らされた。
お兄ちゃんが案内した先には、天然の温泉らしき物が出現していたのである。
「うおおおお、凄い! 屋外にあるお風呂なんて初めて。しかも、外から見えないように、ちゃんと壁まで作ってあるよ。それに、脱衣所まで……」
「ああ、凄いだろう? この近くの山頂に、天然の温泉が湧いていたので、サイフォンを使って、ここまで温泉を引いて来たのだ。農業には、山頂にある湖から農村まで、高低差を利用して水を移動させる技術が開発されている。
その技術を温泉に利用しただけだ。これで、いつでも温泉に入る事が可能になった。さあ、マリアーン、裸になって兄妹水入らずで温め合おうじゃないか!」
お兄ちゃんはそう言って、私の目の前で裸になった。華奢な体だが、男を表すような逞ましい部分はハッキリと目立っていた。私は思わず目を逸らして、男らしいお兄ちゃんから目を背けていた。
「うおおお、何脱いでんだ! 妹の前なんだよ、せめてタオルで隠してよ!」
「ははは、照れているのか? まあ、無理もない、世界一カッコイイ男の前だからな。乙女として恥じらうのも仕方ない。だが、これしきの事で照れていては、モンスターと戦う事など難しぞ。早く服を脱いで入って来いよ!」
「うーん、ここで恥ずかしがるのもアレか……。幸い、叔父さんは倒れて寝ている。お兄ちゃんと2人っきりなら、恥ずかしがる理由はないよね。一応、タオルで隠して一緒に入れば見えないし……」
先に入って行ったお兄ちゃんを見て、私も決心した。服を脱ぎ、生まれたままの姿でお風呂場に入って行く。タオルで前だけは隠し、お気に入りのお風呂セットを持参して戦いに挑む。念の為の木刀も手に持っていた。
「お兄ちゃん、まずは背中を洗うよ。だから、お兄ちゃんの体を洗い終わったら、私の背中も洗ってよね。それと、髪の毛も……。長いと洗い難いんだから……」
先に、体を洗っていたお兄ちゃんの元へ駆け寄る。いつもはお母さんと一緒に入るのだが、今日からはお兄ちゃんと一緒なのだ。背中はともかく、髪を洗うのは慣れていないと難しい。他の人に頼らなければ、しっかりとは洗えないでいた。
「ふふ、マリアーンの綺麗な髪を、遂に触る事ができる。いつもは、お母さんと一緒に入っていて、俺には触れられない聖域だった事で少なからず嫉妬していた。絹のような滑らかな髪質だ。本当に惚れ惚れする……」
お兄ちゃんは、私の髪を愛おしむように優しく撫でる。男の子には無い、長い髪とキメ細かな髪質を触りたかったようだ。確かに、女の子の髪の毛は手入れ次第によって、男の子には得られない触感を生み出している。
「お兄ちゃん、今日は変だよ? 」
「変かもしれないな。マリアーンの可愛さに惚れたのかもしれない! そんなマリアーンも、後4年もすれば、他の男と結婚するんだろう。魔王がいて、危険な世の中なんだ。男は18歳、女は13歳くらいで結婚する」
「うん、ずっとお兄ちゃんと一緒にいたいけど、最長でも7年くらいが限界だね。それを超えると、行き遅れちゃうって言われるもん。仕方ないよ……」
「ああ、お前を他の男になんて嫁がせたくはない! どうだ、マリアーン、俺の嫁にならないか? 絶対に幸せにしてやるから……」
「ダメだよ、お兄ちゃん。私だって、お兄ちゃんのお嫁さんになろうと思った事は何十回もあるよ。でも、私達は兄妹なんだよ。結婚なんてできないよ」
「そうか、なら、俺達が兄妹じゃなければ、マリアーンは俺と結婚を考えてくれると言うのだな? 俺とお前は年齢が離れ過ぎている、おそらく兄妹ではないと予想できる。
お城には、遺伝子学を研究している魔術師がいる。最近は、科学に力を入れているので、化学魔術師と呼ばれているが……。そこへ行って、俺達が本当の兄妹じゃないと分かったら、俺と結婚してください。マリアーン、絶対幸せにするし、大切にするよ!」
お兄ちゃんは、私の髪の毛にキスをして、そうプロポーズして来た。髪を甘噛みし、肌と肌が接触する。私は、女としての感情が溢れ出していた。お兄ちゃんと一緒に結婚して、幸せになりたいと切望していた。
「はい……、私をお兄ちゃんの物にしてください。あっ、本当の兄妹じゃなければの話だよ! 従兄妹とか、片親同士の連れ子とか……。可能性は低いんじゃない? 私とお兄ちゃん、金髪だし、見た目はそっくりだし……」
「ふん、全ての可能性を探らず、早々と諦めるのはもったいないじゃないか。こんな可愛い妹がずっと一緒にいてくれるんだ。死に物狂いでも俺の女にしたいと思うのは、生物の基本だと思うが……」
「お兄ちゃん、私の事を可愛いって、言った……。いや、まだ萌えるのは早いか……。
ふん、本当に結ばれても良い関係ならね!」
私は、お兄ちゃんを軽く突き放す。私達の関係が明らかになるまでは、恋愛感情を持つわけにはいかない。可能性は低いが、私達が結婚できる可能性もあるようなのだ。こんな戦乱に等しい世の中なのだ。別の家の子を養子にしていてもおかしくはない。
「お兄ちゃん、結婚とかプロローグは置いておいて、私に体を洗わせてよ。お兄ちゃんの体を洗い終わったら、私が今度は体を洗ってもらうんだから……」
私は、タオルで自分の胸を隠しながら近付く。8歳の女の子だから、胸がなくて当然なのだが、愛する男の前ではあまり見せたくないものだった。もう少し大きくなり、自分に自信が持てるのなら、お兄ちゃんのように全裸でも迫れるのだが……。
「ふん、マリアーン、緊張しなくても良い。さあ、存分に俺の体を隅から隅まで洗うが良い。遠慮する必要はないぞ! 」
「うおおおお、背中、背中だけ洗うから……。前は見えないように隠してよ!」
「ふふ、マリアーン、その反応を見るのも俺の楽しみの1つなのだ。まあ、そろそろ体も冷えてきたし、大人しくお前の指示に従うとするか。さあ、愛するお兄ちゃんの背中を洗うが良い!」
「うわ、ヘタレていた時は小さく感じたけど、自信たっぷりの時は大きく見えるよ」
私は、お兄ちゃんの背中を念入りに洗う。1人の女性を実力で助けたのだ。思っていたよりも筋肉があり、男らしさを感じる。女性のようなしなやかな体で、色も白く綺麗だと感じていた。
「洗い終わったよ、お兄ちゃん。今度はお兄ちゃんの番ね。言っておくけど、髪の毛と背中以外を触ったら許さないんだからね!」
私はそう言って、お兄ちゃんに無防備な背中を晒した。すると、案の定お兄ちゃんはオッパイを触って来た。今までの自信たっぷりの態度と、女性を口説くスキルを持っているだけに、予想通りといったところだ。
「ほーう、どう許さないというんだい? 小ぶりでまだ大きくないが、形と色の良いオッパイだ。夫となる俺が揉んで、お前を魅力的な女にしてやろう!」
「ふわぁ、させないわよ! いくらお兄ちゃんが思い込みで強くなったとはいえ、腕力は私の方が上よ! 木刀もあるんだから、触るんじゃない!」
私は、木刀を手に取り、お兄ちゃんに一撃を入れようとする。しかし、彼に片手で止められてしまった。剣を振る前に一瞬止めた事で、2本の指を挟むような形で止められた。そのまま流れるように、頬っぺたにキスされる。
「うわああああああああ、何すんのよ! 頬っぺたにキスしたの?」
「ふふ、唇の方が好みだったかな? マリアーンがあんまり可愛いからつい手が出てしまった。怒った顔も、驚いた顔も可愛いよ、マリアーン!」
お兄ちゃんは、挑発するように自分の唇に指を当てる。私からのキスをねだっているらしい。その手には乗らない。私とお兄ちゃんはまだ兄妹なのだ。私は恋愛感情を押し殺して、気丈に振る舞っていた。
「何、馬鹿なこと言ってるのよ。ほら、体が冷えちゃうんだから、早く背中を洗ってよね。髪は、ある程度1人で洗えるから良いけど……」
「おっと、マリアーンの体に触れられる機会を失うところだったようだな。分かった、もうからかわないでおこう。しっかり洗ってやるからな」
お兄ちゃんは、私の体を慈しむように大切に洗う。髪や背中を傷付けないように丁寧に洗ってくれた。今までは、弱くて頼りなく、私が守ってあげなきゃいけないと思っていたが、対等な関係になれたようだ。それが変に心地良い。
「ありがとう、お兄ちゃん。私もしばらくしたら湯船に浸かりに行くから、先に入って待っていて」
私は髪をまとめ上げて、タオルで髪を覆うように巻く。うなじが見えて、多少色っぽい感じを出している。他の人がいたらこんなに大胆になれないが、お兄ちゃんと2人きりなら裸を見られても大丈夫になっていた。
「ああ、早めに入って来いよ。俺の特製露天風呂だ。天国へ行く気分を味あわせてあげるよ、マリアーン」
「はいはい、ちょっと待ってなさいよ!」
私が体を洗い、湯で泡を洗い流していると、フッと人影が目に付いた。それは、叔父さんらしい風貌をしていたが、ジャクソンではない。ゴブリンという鬼のツノが生えている亜人族が、全裸の私の前に姿を現したのである。
【マリアーンのモンスター情報】
ゴブリン
1匹ならば大した脅威でもない。顔がイカつく、人間と同じくらいの大きさをしている。盗みや強盗、強姦などの犯罪をする為、人間からは恐れられている。滅多に殺人はしないが、好みの金属を身に付けていたりすると襲って来る。
ボスがいる場合にのみ、集団で行動してチームプレイをする。美しい女性に目がなく、そうした人物との結婚関係や子供を欲しいと望む。人間とコミニュケーションを取れるが、人間の方が相手をしない事が多い。
危険度 最低ランク(集団化した場合のみ危険)
見た目 黄緑色の皮膚をした人間、頭にツノがある。
有効な攻撃 木刀で殴って気絶させる。
ゴブリンが私を見つめて来た。
いきなり仲間になりたそうだ。
仲間にしてあげますか?
⓵寄るんじゃない! と鬼神の表情で攻撃する。
⓶害はなさそうなので、放置プレイ。
⓷お前、パンとジュース買って来いよ!
私が⓷を選ぶと、ジャクソンにあげたはずのサンドイッチとスープを持って来てくれた。ジャクソンは、死んでいるかもしれない。
⓵を選ぶと、SMプレイだと思って、仲間が群がるようにしてやって来るぞ。
⓶を選ぶと、私を見て興奮し出す。しかし、何もしない。