第2話 剣王ジャクソン登場!
助けた女性がお礼を言ってきた。見た所若く、お兄ちゃんより10歳ほど歳下と思われる。
若いなりにも発育は良く、オッパイはCカップくらいありそうだ。ケープを頭に被った黒髪ショートの村娘といった風貌だ。
「助けてくださり、ありがとうございます。スライムに襲われていたら、家も私もボコボコになっておりました。なんと、お礼を言ったら良いか……」
「いえいえ、近くにいたので助けただけですよ。それに、俺と同じ村に住んでいるお姉さんという事は、俺の恋人になる可能性も高い女性ですからね。俺の活躍を期待させて、ずっと俺のことを待たせるというのも、勇者の楽しみの1つです」
「ええ、いきなりそんな事を言われても困ります。でも、あなたに助けられた命である事は明白……。分かりました、あなたの恋人になり、勇者様が帰って来るのを健気に待っております。そして、温かい料理でおもてなし致します!」
お兄ちゃんは、いきなり女性を口説き始めた。命を助けられた女性に選択肢など与えられない。一瞬にして、この村で生活するには困らないメイド風の恋人ができたのだ。帰って来るなり、温かいご飯とお風呂、宿まで提供してくれそうだった。
「早速泊まっていってください。それほど凄いおもてなしはできませんが、私が作った素朴な料理などが堪能する事ができます。そして、危険な旅をする勇者様なら、子孫を残す事も大切でしょう。私が、あなたの子孫を……」
話がヤバイ雰囲気になってきたので、私が止める。確かに、勇者の冒険というのは危険だ。いつ死ぬかも分からぬ戦闘の日々、子孫を残す事も大切な事だろう。だが、お兄ちゃんはまだ13歳、到底そういう行為が許される年齢ではない。
「わああああ、私達は、これから冒険の旅に出る所なんです。服も乾いたようだし、あなたの所でゆっくりしている時間はありません。私とお兄ちゃんが帰ってきた時に、温かいおもてなしを期待しています。では、さようなら!」
私は、お兄ちゃんを彼女から引き離そうとする。いくら同じ街の出身とはいえ、そう簡単にお兄ちゃんの恋人を許して貯まるか。彼女に期待させるような事を言って期待させるのも残酷なので、キッパリ諦めるようにさせた。
「お兄ちゃんは、いずれはお城へ行って兵士になるの! そこのお姫様に仕えるのが目標なんだからね。あなたの好意は嬉しいけれど、結婚する機会も恋人になる機会もないのよ」
「そうですか……。そうですよね、お城のお姫様は美しいと聞きますし、私ごときが勇者様の子供を産めるわけがありませんよね。現実を思い知りました。でも、勇者様が帰って来た時は、私の全てを駆使してもてなしたいと思います」
彼女は少し憂に沈んだ顔をしていた。美人で働き者らしい村娘だ。平凡な男性と結婚して、普通の幸せを手に入れた方がいいだろう。旅立つ私達の為に弁当を渡してくれたりと、本当に親切な女性だった。
「お気を付けて行ってくださいませ」
「憂に沈んでいる顔も綺麗だが、笑顔のキミとお別れしなかったな。お互いにまだ若い。いろいろな苦労をして、もっと成長しようじゃないか。俺は、最高に可愛くなったキミを攫いに行くよ。妻としての実力を磨いて待っていてくれ」
お兄ちゃんは、女性の手を取り、優しく甲にキスしてこう言った。女性は再び笑顔を取り戻して、興奮しながら喜んでいた。この状態だと、本気で数年くらい待っているだろう。私は、お兄ちゃんを叱る。
「ちょっと、何根拠のない告白をしているのよ! 次に会えない可能性だって高いのよ! 期待して何年も待っていたら、行き遅れちゃうかもしれないじゃない。私がせっかく彼女の希望をへし折ったっていうのに……」
「ふん、マリアーン、俺が冒険で死ぬ可能性があると思っているのか? 俺が死ぬ事などあり得ない。絶対に彼女を攫いに行き、俺の妻にしてあげるさ! 」
お兄ちゃんのプロポーズに、女性はこう返した。
「楽しみにその時を待っておりますね!」
はにかんだ笑顔を見せて、お兄ちゃんを誘惑して来ていた。そして、決心したようにお兄ちゃんのホッペにキスをした。本気でお兄ちゃんを狙っている。お兄ちゃんが帰って来なければ、行き遅れるのは決定かもしれない。
「お兄ちゃん、罪な事をして……。あの子、数年くらいは、お兄ちゃんの帰りを待っているよ。他の人と結婚する可能性だってあるのに、人の気を引くなんて残酷だよ」
「ふん、マリアーンは無知だな。勇者ともなれば、多くの女性と結婚できるんだぞ。王以上の存在なのだ。正妃だけでなく、側室も必要になって来るだろう。今の内に相手を決めておいた方が、結婚もスムーズに行くだろう?」
「うわぁ、最低……」
お兄ちゃんはやはりおかしくなっていた。自分の実力のほどを知れば、マトモな性格に戻ってくれるだろう。私がそう思っている矢先に、お兄ちゃんと叔父さんが最低な会話を喋り出していた。
「どうやら良い情報を貰ったな。お姫様は美しいらしい。確認しておいて損はない」
「おっ、次のターゲットは、お姫様ですか? 儂もお供致しましょう。困っているところを助ければ、お姫様と恋人関係になる可能性も高いですからね。 儂も、勇者様には悪いですが、本気で狙いに行きますよ!」
「ふっ、俺を差し置いて、お姫様と相思相愛になれると思うな!
逆に、俺とお姫様のラブラブっぷりを目に焼き付けるが良いわ!
どちらが先にお姫様を攻略できるか、勝負だ!」
「ふっ、ライバルがいなくては張り合いもない。望むところです。だが、お姫様とのラブラブっぷりを見せ付けられるのはあなたですよ。今のうちに覚悟をしておいた方が身の為ですよ。本気で好きになった後に、 儂の物になるのはキツ過ぎるだろうからな」
「俺のように若くて逞しい男を好むのが、世の常だ。お前は、俺と共にいても、女を奪われるだけの存在なのだぞ」
「いやいや、お姫様というのは、頼れる男性に弱い。そして、年上の男性に強い恋愛感情を抱く傾向にあるのだ。父親が忙しくて構ってくれないから、その欲求を他の男性に求めるのだ。つまり、 儂の方が圧倒的な有利に立っていると言ってもいい!」
「ふん、その常識や理屈さえも覆すほどの強さと魅力を持っているのが、俺だ。同い年のメイドさんと恋をする方が無難だとは思うぞ。俺が姫と仲良くなった暁には、お前に合いそうなメイドを派遣してやろう。彼女の玄人による最上級のテクニックを味わうが良い!」
スライムを倒して安堵した私だが、突如出現した旅の叔父さんに関心を持つ。私達と同じように、女性を助けようと現れた所を見ると、それほど悪い人物ではなさそうだ。実力もありそうだし、興味が湧く。
「あなたは、何者なんですか? 見た感じ、腕の立つ旅人のようですが……。得体の知れない人物と一緒に旅をする事はできません。まずは、素性を明かしてください」
叔父さんが話す代わりに、お兄ちゃんが話す。会ったばかりなのに、仲の良い友達のようだ。最強と思い込むと、人付き合いまで自信に満ちるものなのだろうか?
「決まっている、このタイミングで出会うという事は、最強格の剣王といった所だろう。俺と形式上は互角の実力を持っているが、最後まで戦い合う事はない。他の者からして見たら、俺が急激に強くなったのは彼のおかげと見られるだろうなぁ。
実際には、全然俺の方が最強だが、心の弱い者は理由を付けたがる。俺が最強に急成長したのは、彼がいたからなんだと勝手に納得するだろう。モンスターでさえ、無名で最強の俺に負けるよりは、有名な剣客の弟子とした方が納得して死ねるだろう」
「 儂の名前は、ジャクソンだ。まあ、そんなところだ。 儂を差し置いて最強という事には納得できないが、 儂の素性を一目で見抜くとは素晴らしい! 弟子にはしたくないが、ライバルとしては認めてやろう。 まあ、儂の方が強いがな!」
私は、強い奴らはこんな性格なのかとガッカリする。まあ、自分を最強と思っていなければ、危険なモンスターや魔王に挑む勇気は湧いてこないだろう。そう思うと、その性格から危険に飛び込んで行き、死線をギリギリかい潜って来た事が分かる。
「そうだ、マリアーン、お前の師匠になってもらってはどうだ? 俺では、手加減してしまうし、お前が傷付くのは怖い。だが、剣の腕だけを極めたこの男なら、指導力だけは俺より上かもしれない!」
「ふっ、野郎との特訓などクソ詰まらないが、相手がお嬢ちゃんなら大歓迎だ。見た目はまだまだ若いが、金髪のロングに美しい顔立ち、成長を楽しみにできるだろう。
女として成熟する17歳くらいまで特訓して、 儂好みの美女に育てば……」
叔父さんの目が嫌らしく私を見つめる。どうやら女として見られているようだ。今のところ、手を出す気は無いようだが、10年後あたりにまで考えているらしい。ドン引きの展開だが、剣の腕だけは確からしい。
「うーん、確かに、私もまだまだ弱いから強くならなきゃいけないんだけど……。
彼とお兄ちゃんが交代で相手してくれるというのなら、その話をお願いするよ!」
私には、お兄ちゃんを鍛えるという使命もある。私だけが強くなっても意味はないのだ。私も強くなり、お兄ちゃんも実力が付かなければ、お城の兵士になれない。数年くらいならば、叔父さんの特訓を受けても良いという気になっていた。
「ほーう、マリアーンは欲張りな奴だ。剣王だけでなく、最強の俺にも特訓を受けたいとは……。将来は、有望な女性剣士になれるだろうな。俺に次ぐ剣客にしてあげよう!」
「ふん、ヤル気があって宜しい! 女性で強い剣士とか、萌えるからな。その最強に強くなった体を、 儂だけが堪能できるというのも燃える! 手取り足取り教えてやるから心配しなくても大丈夫だぞ!」
こうして、私は名目上2人の弟子になった。所々ヤバい単語が聞こえてくるが、奴らより強くなって逃げなければ……、という緊張感が出てくる。剣技では、今のところ最弱なのだ。多くの実践を経て、強くなるしかない。
私達は、街を出て、両側に野原が広がる道を進んで行く。馬車も馬も無いため、徒歩の旅になるが、次の街までの道が遠い。普通の人が徒歩で辿り着ける場所に、一軒の小屋が建てられていた。今日は、ここを宿にするしかない。
『旅人ならば、誰でも小屋の中にある物を利用してくれて構いません。ただし、夜には注意してください。危険なモンスターが出るかもしれませんから……。小屋管理者のエルフィーより』
こんな立て札が掛けられていた。カギは掛かっておらず、内側から閂で侵入者を防ぐ構造のようだ。火を焚く道具と、簡単な毛布が支給されていた。食材を持ち寄れば、食事を作る事はできる。
「これじゃあ、お風呂は無理かな……。簡単な料理と寝床は確保したけど……。
冒険の旅だし、体が汚れるくらいは仕方ないのかな?」
私は、荷物を置きながらそう言った。すると、お兄ちゃんと叔父さんの様子がおかしい。怒り狂ったような様子で私の肩を掴んでこう言って来た。私は、圧倒されて、何も言えなくなる。
「馬鹿野郎、女の子なんだぞ! 一日身嗜み(みだしなみ)を怠って、怠け癖が付いたらどうする? 俺達の萌えポイントの1つだということを忘れるな! オッパイはなくても、背中を洗って欲しいと思っている叔父さんがいっぱいいる事を忘れるな!」
「ああ、お父さん達はな、可愛い娘に体を洗ってもらう事を切望しているんだ。せめて、この物語では、妹兼娘役のお前がサービスしなくてどうする? 色気ある雰囲気で儂達の背中を流す事、これも立派な修行の1つなんだぞ!」
「はあ……」
「よし、俺達でお風呂を用意しよう! 俺とオッさんが手分けして作業をすれば、マリアーンが食事を準備している時間でなんとか完成するはずだ。マリアーンは、俺達と一緒にお風呂に入って、背中を流してくれれば良い!」
「ああ、難しい仕事だが、 儂達ならできるだろう。3人でゆっくり入れる温泉を作ってやろうじゃないか! マリーちゃん、食事を作って待っていてくれ!」
「はあ……」
お兄ちゃんと叔父さんは、物凄い勢いで家から出て行った。私は1人、家の中で食事の準備をしていた。だが、すでに私の近くにはモンスターがいたのだ。ゴブリンが家の外から私を眺めて、侵入する隙を伺っていた。
ジャクソン(45歳)が私を見つめて来た。
仲間になりたそうだ。
仲間にしてあげますか?
⓵寄るんじゃねぇ!と言って、木刀で殴る。
⓶私、オッさんは嫌いなの、という冷たい目で見つめ返す。
⓷ここにお兄ちゃんがいます、彼を好きにしてください!
私は⓶を選んだ。
だが、いずれの場合にも、なんだかんだで仲間になって来るだろう。
⓷の場合は、死闘が始まる!
どちらが勝つか分からないが、勝っても負けてもお互いに得はない。