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第15話 お兄ちゃんの神速の剣技

私とお兄ちゃんは、リリアンに案内されて、決闘場である『エルフィン』の王城まで連れて来られた。反対側はボロボロになっているが、私達がいる場所は綺麗なお城の風景が目に飛び込んで来た。まるで、空中庭園を思わせる素晴らしい景色だ。その景色に見入っていると、お兄ちゃんがとんでもない事を言い出した。


「ほーう、俺の戦闘に、この舞台を選ぶとはな……。この綺麗に管理されていた庭園が、俺の美技によって荒廃してしまうのは残念だが、それも仕方ないだろう。マリアーンには、この景色よりも素晴らしい俺の美技でメロメロにしてやるよ。足腰立たないくらいに、俺の事だけを考えさせてやる。かかって来い!」


「お兄ちゃん、木刀で城壁を崩せると思うの? 普通に、銅剣のクリティカルヒットでさえ、城壁を崩す事は不可能だよ? 城壁を崩すくらいの剣となると、鉄剣以上じゃないと……。でも、お兄ちゃんには無理だよね……」


私は、自分の方が腕力が強い事で得意になっていた。お兄ちゃんでは、鉄剣を素振りする事もできまい。ジャクソンを倒した時は、相手が無抵抗だったから倒せただけなのだ。そのくらいの動作を見抜けない私ではない。


「ふん、マリアーンは神速を見た事がないから、俺がジャクソンを卑怯な手で倒したと思っているのだろう。俺を見る目が、見下した感じになっているからな。だが、残念だな。俺は、実力でジャクソンを倒したのだ。それをお前の目の前で見せて証明してやろう」


お兄ちゃんは、突然私に近付き、アゴをクイっと上げて見つめて来た。キスをするような感じになり、私はドキドキする。悔しいけれど、強引な感じのお兄ちゃんに惹かれている事は確かだ。だが、その目は、私1人を見つめていて欲しい。


「お兄ちゃん、約束して……。私が勝ったら、他の人にちょっかいを出さないで欲しいの。

私は、やっぱりお兄ちゃんが好き。リリアンにも、アレクサにも、ラブラブして欲しくない。私とお兄ちゃんが結婚できると分かったら、すぐにでも結婚して良いから……」


私がそう言うと、お兄ちゃんは私を抱きしめて来た。暖かい昔のお兄ちゃんに戻ったような懐かしい感じだった。頼りなくて、ヘタレなお兄ちゃんだったけど、私が困っていると抱きしめて慰めてくれたのだ。私は、守られているような気がして安心感を得ていた。


「可愛いよ、マリアーン。俺も、お前だけを女の子として見ていた。分かった、お前が勝てたら、お前以外には手を出さないと誓おう。もちろん、お前が勝てたらの話だけどな。お前が負けた場合は、俺の行動には口出ししないでもらおうか!」


一瞬お兄ちゃんは優しい感じになったが、すぐに元のお兄ちゃんに戻っていた。30代までモテなかったのに、急に女の子に囲まれた事による反動なのだろうか? 木刀を構えて、本気で攻撃してくる気のようだ。こちらも、一切手加減をする気はない。


「さて、本気を出すのも忍びないな。50%で戦ってやろう。それくらいが、俺とお前が互角に戦えるかもしれないラインだ。大切なお前を傷付けるつもりが毛頭ないからな」


「ふん、余裕ぶってる暇があるのかしら、こちらから……」


私は、お兄ちゃんの懐まで飛び込んで、木刀の突きを繰り出そうとして近付く。お兄ちゃんが攻撃できるであろう範囲に近付いた時、どんよりとした恐怖を感じ取っていた。初めて抱く死闘の雰囲気に、私は完全に緊張していた。手のひらが汗をかき、木刀を持つ手がカタカタと震える。半分涙目になり、それでも戦いを続けようと奮闘する。


「ほう、さすがだな。神速の剣技に反応しているか……。ならば、体に傷を付けずに勝負を終わらせる事ができるな。喰らえ、俺の50パーセントだ!」


お兄ちゃんは、虚空を5回ほど突いた。私には直接届かない攻撃だが、ハッキリと目で見切る事ができる。こんな攻撃ならば、私でも対応できるとホッとしていた。すると、背後で爆発するようなけたたましい音が鳴り響いていた。


「なに、なにが起こったの?」


私は振り向いて、後ろを見る。すると、私の背後にあった建物が無残に崩れ去っていた。私の形に無傷な部分が残されており、それ以外は虚空の彼方へ粉々に砕け散って飛んで行った。私は、「まさか!」と思いお兄ちゃんの顔を見る。そこには、不敵に笑う彼の姿が映し出されていた。


「どうした、マリアーン? 戦闘は継続中だぞ。早く俺を打ち倒さないと、庭園が崩壊してしまうぜ? それに、お前自身も当たれば無事では済まないだろうな。ジャクソンの時もそうだった。俺は、6パーセント程度の力で攻撃しただけだが、彼には致命傷だった。


今のは、マリアーンを傷付けないようにして、500回ほど突きを繰り出しただけだ。その証拠に、見るがいい。俺の木刀が剣技に耐えて切れなくなったようだ。この通り、無残に砕け散っている。力が強過ぎるというのも困りものだな……」


お兄ちゃんはそう言って、木刀を見せ付けてきた。まだ形を保っているだろうと思って見ていると、すぐにボロっと木刀が崩れ去り、束の部分だけがお兄ちゃんの持っていたところだけ残されていた。


私はそれを見て、絶望を感じていた。もしも、その実力が本当ならば、私がお兄ちゃんに勝てる可能性はない。敗北を受け入れようと俯いていると、お兄ちゃんがこう言い出してきた。木刀の束を地面に投げ捨てる。


「勝てるわけがない……。何よ、あの破壊力は……」


私はお兄ちゃんの攻撃力に絶望して、膝をついてボーゼンとしていた。その化け物とかしたお兄ちゃんは、高笑いを浮かべて私に近付いてくる。


「はっはっはっ、俺の力が分かったか? とはいえ、俺も危なかった。木刀が剣技に耐え切れず折れるとはな……。だが、お前の心を折る事はできた。ふっ、俺に敗北の2文字などない!」


お兄ちゃんは、ゆっくりと私に近付いて来た。汗が額から頬を伝ってアゴにまで流れる。そして、2滴ほど滴り落ちていた。私に勝ち目などない、そう思って諦めかける。


「マリアーンちゃん、チャンスよ! お兄ちゃんと化した魔王は、武器も持たず丸腰の状態よ。コイツが全ての黒幕であり、ダークエルフを誘惑して戦力とさせていた魔王なのよ。でも、今はスピードとハッタリだけのクソ野郎となっている。木刀の一撃で倒せるわ!」


リリアンはそう言って、私を励ましてきた。えっという表情をして、お兄ちゃんを見つめる。その顔には、今までに見たこともないような邪悪な笑みが浮かべられていた。


「あなたが、魔王!? 勇者とか言っていたのは、嘘だったの!?」


「はっはっはっ、マリアーン、勇者がなぜ魔王に戦いを挑むか知っているのか? 魔王の新しい体となり、自分の家に帰るからに他ならない。ついでに、危険な勢力はお姫様を誘惑したりして、恋愛関係に発展させて国を安全に統治するのだ。


問題だったのは、近くにいたお前が妹だった事だ。今までのケースは、俺が乗っ取った体の男には、恋人や妻がいた。俺の妃であるリリアンも自然に乗っ取ることができたのだ。


だが、今回のケースでは、妹のお前はフォードアウトして、俺と結婚する可能性の高いお姫様が、リリアンの体として選ばれた。一つの障害として、ずっとマリアーンに警戒を張っていたのだ。お前が俺の女になれば、全ての問題は解決していたのだが、ここに来てリリアン姫に裏切られるとは……」


お兄ちゃんの姿をした魔王は、リリアンを見つめる。2人の間には、特別な関係があるようだ。


「本来は、あなたの娘だったのよ。それが、いつの間にか妻にされて、長い時間を共に生かされていた。もう、ここらが潮時なのかもね。妾がマリアーンちゃんを欲するのも、本来は彼女が妾の体になる予定だったからよ。細胞や道徳的に見て、体が拒絶したのでしょう。妾は、あなたがダークエルフを戦力に使う事も知っているわ。


あなたが『エルフィン』に来たのも、そこにダークエルフを量産して、皮膚を剥がす工場があるからでしょう? 表向きは、ダークエルフを毛嫌いするエルフ達だけど、裏では気に入らない者をダークエルフ化させて狩っていたのよ。


あなたの作り出したシステムによってね。あのアレクサも、いずれは皮を剥ぐつもりで近付いたんでしょう? ゴーレムを所有していた魔王こそが、本当の元の姿のあなたなのよ!」


「はっはっはっ、転生時に記憶は消滅するが、まさかそこまでの悪だったとは……。まあ、マリアーンのお兄ちゃんを殺したのは俺だから、今さら正義の味方面する気もないけどな……。


お前こそ、可愛い女の子を内側から食い破って来た気分はどうだ? レズとか言って、本当はマリアーンの体を求めていたんだろう? 彼女の体こそが、本当にお前が本気になれるオリジナルの体だからな!」


「ふふ、それが嫌になったから、ダークエルフを救ったりしていたのよ。でも、まさか、あなたが搾取するシステムを作っているとは思わなかったわ。あなたは、そろそろ倒されるべきよ。どうせ、人間の体で安心しきって訓練もしていないでしょう?


スピードは速くても、防御力はクソ雑魚のままよ。さっきの剣技もマリアーンちゃんの意欲を挫くのが目的だったわ。爆薬を使って、ただ周囲の建物を破壊しただけよ。木刀がない今、マリアーンちゃんなら倒せるわ!」


「ちっ、リリアン、バラしてしまったな。仕方ない、一番の障害になるであろうマリアーンを殺しておくか。俺がお兄ちゃんから変化した事にも気付かなかった雑魚だ。素手でも十分に勝てる!」


魔王は、私を足蹴にして、木刀を拾い上げる。対して痛くもないダメージにより、私は目を覚ましていた。ジャクソンに持たせていた真剣を手に取り、魔王に向かって行く。


「あんたが、お兄ちゃんを殺したの? 絶対に許さない!」


「ふん、実際に、お兄ちゃんを殺したのはマリアーン、お前自身だ。俺は、生きる気力のない人間の男だけを乗っ取る事ができる。妹に負けて、死にたくなったのだろう。全く、可哀想な男だよ」


「うう、お兄ちゃんを返せ!」


私は、渾身の力で彼に斬り付ける。彼は、消えたように攻撃を高速で避けていた。


「バカめ! 真剣など、俺の前には無力だ。一撃一撃は弱いが、光速で繰り出される俺の剣技を喰らえ!」


真剣を持っている私に対し、魔王の方がはるかに速い。私は攻撃を受けそうになるが、ジャクソンが盾となって私を守ってくれた。


「コイツ、死に損ないのはずが……」


「本当に死に損ないは、あなたよ! 妹のせいにして、自分の行いを正当化するとは、とんだヘタレがいた者ね。もう、終わりよ、死になさい!」


魔王の動きが一瞬止まった瞬間、鋭い鞭が彼の動きを止めていた。それに、アレクサの植物も絡み付いている。動きの取れなくなった魔王など、ただの人間でしかない。

私は、そのチャンスを生かし、魔王の頭を木刀で殴った。


「元のお兄ちゃんに戻れ!」


魔王は、頭から地面に叩きつけられ、意識を失う。本当に、一撃で倒してしまった。スピードとわずかな力のみで戦って来た魔王だが、その致命的な訓練不足が仇となっていた。


「くっくっく、まさか、小娘が俺をここまで追い込むとわな……。気に入った。俺の城まで向かって来い。そうしたら、お兄ちゃんを元に戻してやるよ。俺の妻になって、一緒に世界を征服しよう!」


魔王は起き上がり、お兄ちゃんの体でそう言ってきた。その目には、本気の想いがこもっており、真剣になった事がわかる。「早くお兄ちゃんを返しなさい!」と言おうとしたが、言葉が出て来なかった。代わりに出てきたのは、こんな言葉で自分でもビックリする。


「私も、好きだった……。良いよ、お城まで一緒に行ってあげる。でも、みんなを幸せにするためなんだからね!」


こうして、魔王の科学魔法によりモンスターと化した私は、女王としてこの国を乗っ取ってしまったのだ。配下には、お姫様のリリアンとダークエルフのアレクサを従えて、魔王を手玉にとって生活している。数十年間、この国には争いが起きなくなっていた。

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