第12話 ダークエルフ達を救い出せ
私はコーヒーを淹れ直し、私のロイヤルミルクティーを再び用意する。実は、リリアンが飲んだ飲み物以外は、全てダメにしてしまっていた。ジャクソンの睡眠薬入りの飲み物も、カップを落としてダメになってしまっていた。
アレクサが掃除をして、こぼした飲み物やテーブルを元に戻してくれていた。お兄ちゃんとツルンデいる以外は、普通に良い子のようだ。多少気性は荒いが、慣れてくれば大して気にならなくなってきた。お兄ちゃんに比べれば、幾分かマシな性格だ。
「掃除をしてくださりありがとうございます」
「いえ、どうという事はないわ。ブレイク様の彼女になるんだもの。このくらいは、当然の事よ」
そういう彼女とは対照的に、お兄ちゃんはソファーに座り踏ん反り返っていた。
「ふっ、マリアーン、俺の為に愛を込めて、コーヒーを淹れてくれたのか?」
「そんな物は入ってません。機械的に淹れただけです」
「ふっ、お前の顔は、そうは言っていないように思うが……」
「なあ、そんな……」
私はお兄ちゃんにそう言われて、鏡で顔を見る。そこには、普段の私の顔が写っていた。普段から平常心を保つのは得意なはずだ。少しムッとしたような表情の私がいて、とても恋をしているようには感じられない。お兄ちゃんの方を見ると、私を見つめて笑っていた。
「むう、私をからかったのか……」
「マリアーンの表情は分からなくても、考えている事くらいは手に取るように分かるさ。さもなければ、お前の攻撃を避ける事は不可能だろう?」
私はそれを聞き、顔が赤くなってしまう。やはりお兄ちゃんが好きなのだ。ヘタレだったお兄ちゃんでも好きだったが、それが頼れるようになったら身を任せてみたくなるのが女という者だ。私はそれを必死で否定していたが、お兄ちゃんには見抜かれていた。
「そろそろ、本題に入りましょうか?」
新しく淹れたコーヒーを一口飲み、リリアンがそう語りかけてきた。気が付けば、かなりの時間が経過していた。お兄ちゃんと私のケンカは、イタズラに時間を浪費してしまう。それを見抜き、リリアンが率先して自分が抱えている事件の全貌を話し始めた。
「まずは、これを見て欲しいわ」
リリアンは、赤く光る綺麗な布をテーブルに乗せる。その布を見た瞬間、アレクサの表情が曇った。その布は、白い肌色に赤いルーン文字を浮かび上がらせ、悲しく光り続けていた。
どうやら、巷で売れているダークエルフの皮膚から鞣した物らしい。
「これが……、ダークエルフの皮膚から作った布なのね。綺麗だけど、悲しい光ね……」
「昔は、ダークエルフですら、数年に数える程度の頻度でしか見られなかったのに、今では都市部の商店などで度々見かけるようになっているわ。ある依頼主から、ダークエルフが増えている原因と、それを商売目的にしている連中を捕まえてくれるように頼まれたのよ。
それで、まずはダークエルフを探していたところ、アレクサのご主人が報告書に登って来たというわけ。なんらかの事柄に関わっているのではないかと調査したところで、彼女がゴーレムを奪って逃走したと聞き、妾から依頼を持ちかけたのよ。結果、今に至る」
リリアンの以来の話に、アレクサが応対していた。
「やはり、アイツは悪い奴の手先だったって事ね? 私がゴーレムを奪わなければ、私自身をどうにかして、こうした皮を手に入れようとしていたのかも……」
「または、別の用途かもね。あなたは、見た目もスタイルも中々のモノだし、『ゾンビの秘薬』を使って、恋愛爆発型のゴーレムに仕立て上げれば、数10万ルピア(1ルピア=100円)は稼いでくれるはずだと思うし……」
「くっそ、あの野郎!」
「とりあえずあなたのご主人様のところまで戻って、どんな計画があるか聞き出した方が良いのかもね。すでに、都市部の商店を散策するだけで、数10枚程度のダークエルフの皮膚に、子供のダークエルフが売られているのを見ているの。
誰かが、エルフ達を故意にダークエルフ化させて、何かを企んでいるとしか思えないわ。魔力を増幅させたダークエルフ軍団を作ろうとしているのか、それともビジネスでダークエルフを奴隷にしようとしているのか……。
いずれにしても、悲しくて、酷い事だと思うわ。誰かが止めないと、アレクサのように都市を破壊し始めるかもしれない。手負いのダークエルフほど恐ろしい者達もいないわ。己の全ての魔法と戦闘力を持って、容赦なく攻撃して来るからね」
「うう、不意を突いたから勝てたけど、ゴーレムを持って帰ったところで酷い目に遭うのは分かりきっているわ。奴は、私を生かしておく気はないはず……。奴のところへ帰っても、奴隷にされたあげく、数日後には殺されるのが落ちだわ。皮を剥がれるかも……」
「まあ、それが目的で、使えない魔法を習得されていたみたいだしね……。一応、訓練次第では、魔術師でも抹殺できる上級魔法を教えてあげても良いけど……。どうする? 妾の付き人になるという条件でなら、あなたを守ってあげなくもないけど……」
「うぐっ、良いのかしら? あなたにも命の危険が及ぶかもしれないわよ?」
「妾は、真面目に交渉している。お前は真面目で賢い。妾が親切心で教えた魔法を使って、妾を暗殺する事はあるまい。意外と義理と人情に溢れているようだからな。妾も王族の端くれだ。誰を信頼して、誰を疑うかの基本は心得ておるわ。アレクサならば、妾を殺しても良いと思っている。自分と同じくらい美しい女なら、嫉妬で殺されたと納得しよう」
「うぐっ、そんな事言われたら、暗殺し難くなったわね。でも、良いわ、交渉成立よ。いずれは、単独での行動も限界だと感じていた。エルフの仲間達から攻撃された時は、死のうかとさえ考えていたからね。
ダークエルフ達が私のように悲しい思いをしているというのなら、彼女達は私の家族だ。それを助け出すのに調査する仲間がいるのなら、願い叶ったりだし、私の孤独感も薄らぐかもしれないわ」
「では、王都の『レバノン』に戻るという事で良いな?」
「ああ、あんたがパートナーになってくれるというのなら、心強いかな? どの道、一度は負けて死にかけた身だ。もしも、あんたが私を裏切って殺そうとした時は、あんたと正々堂々と戦って殺してあげるよ。不意打ちや暗殺は、絶対にしない!」
「ふふ、良い付き人ができたようだな。生温い、言う事を聞くだけの付き人などいつ裏切られるかも分かったものじゃない。それなら、一度は戦い合った仲の方が、お互いに信頼関係も築けるだろう」
リリアンとアレクサは意気投合して、すでに目的の場所を決めていた。2人でダークエルフが急激に増えた理由と、ダークエルフを捉えたり、殺したりしている人物を探り当てるようだ。
「ふふ、目的地は、みんな同じようだな。俺がお前達2人を守ってやろう。都市部では犯罪も多い。男手がある方が何かと都合が良いだろう。俺とマリアーンも『レバノン』に同行してやるぞ!」
私とお兄ちゃんは蚊帳の外になっていたが、お兄ちゃんが彼らと一緒に同行する事を勝手に決めていた。まあ、同じ目的地だし、私も同意するしかない。リリアンとアレクサは、お兄ちゃんが一緒に来てくれるので、それぞれ喜びを表現していた。
「ふん、護衛なんて必要ないけど、女2人旅は絡んでくるウザい男も多いからね。1人くらい男がいる方が、ナンパの頻度が下がって動き易いかもね。でも、勘違いしないでよね。嬉しくて喜んでなんかいないんだから。仕方なく、一緒に同行してあげるだけなんだからね」
リリアンは、ツンデレ風の態度で対応する。お兄ちゃんが一緒に来てくれると聞いた時は、一瞬物凄い嬉しそうな笑顔を見せていた。笑顔で目を輝かせていたが、コホンと咳を鳴らして普通の対応をするように努めていた。
「いやーん、勇者様と一緒なの? なら、王都に着いたら家を買って結婚しませんか? 私、こう見えても商才があるんですよ。勇者様を働かせずに食べさせて行くくらいは、収入源が確保できるんですよ? 私で永久就職というのはどうですか?」
逆に、アレクサは終始和かな笑顔を見せて、お兄ちゃんにくっ付いてくる。お兄ちゃんの腕に自分の腕を絡めるふりをして、豊満な胸を押し付けて来た。お兄ちゃんもまんざらでもないらしく、不敵に笑っている。
最後の私は、さっさとお兄ちゃんを王都に送り届けて、早く家に帰りたいとか思い始めていた。お兄ちゃんに抱いていた恋心も、彼女達の出現によって一気に冷めてしまった。ある意味、賢者モードと言うのだろうか。
楽屋裏
リリアン役(姫野真槍18歳)
ツンデレで冷静な彼女だが、お兄ちゃんに密かに想いを寄せる演技をしている。
お兄ちゃんの演技次第によっては、オッパイを揉まれて感じたり、耳を舐められて甘い声を出すといった役どころだ。徐々に恋愛感情を抱いて行き、お兄ちゃんに迫って来る。
本来の彼女は、強気で自信に溢れている。
オッパイを揉まれたり、耳を舐められる事などあり得ない。
幾多の男達が彼女に力付くで迫ったが、全て返り討ちに遭っている。
そんな彼女が、私の前で賢者モードになっていた。
「はあ、本来ならば、12歳も歳上のオッさんと恋人関係になるなんてあり得ないのに、演技とはいえ惚れているフリをするのは疲れるわ。しかも、オッパイを揉まれたり、耳を舐められたりするっていうのに……。このお兄ちゃん役の俳優、私が本気になっちゃうかもとか思ってないわよね。ストーカーになられても迷惑なんだけど……」
アレクサ役(アルベルト・シルフィン16歳)
お兄ちゃんにベタ惚れして、セクシーな衣装で迫って来る女の子の役。
お兄ちゃんの手によって、内気だったエルフが大胆になって行くという設定。
外国人の美女という事もあって、脱ぎ役となる事が多い。
本来の彼女は、元々暗殺者であり、何人もの男達を暗殺して来た。
生きる為に仕方ないという事で許されているが、悲しい過去を持っている。
それでも、学校生活を満喫している真面目な学生で、成績も良い。
アルバイトとして雇われた彼女も、私の前で賢者モードになっていた。
「私、何やってるんだろう……。生きる為に必要だからってバイトを始めたけど、脱ぎ役と主人公に迫って来る大胆な美女役らしい。現実でも変な男に付き纏われて困っているのに、このオッさんが本気になったら困るんだけど……。私が好きなのは、同級生の剣さんなのよ……。勘違いされてないと良いけど……」
お兄ちゃん役(ブレイク35歳)
ただのナルシストのイケメン。
女の子に大した興味が無く、カッコイイ自分に酔っている。
マリアーンとは従兄妹にあたる。
演技は、ただカッコイイ自分を見せ付けているだけ。
マリアーン(8歳の子役)
初めての主役で興奮していたが、お兄ちゃん役の演技を見て、冷静さを取り戻した。
昔は、ブレイクと結婚すると言っていたが、彼の本性を知って考えを改める。
今では、乗り物でも一緒に乗りたくないほどの間柄。




