第10話 お兄ちゃんVSダークエルフ
お兄ちゃんとアレクサが直接対面する。彼女は、お兄ちゃんとリリアンが戦っている間に服を着て、自分の防御力を高めていた。ブラジャーやパンティーも身に付け、万全の体制で戦いに臨む。しかし、ボーガンやナイフ、竪琴などの武器の類は、リリアンによって手の届かない場所へ移動させられていた。
遠目では見ていたようだが、改めて見るとダークエルフというのは相当美しいらしい。本物のエルフは少し傲慢な印象を受けるが、闇落ちしたダークエルフは孤独と苦悩に悩まされていた。その為、傲慢さの代わりに、悲しみという感情が彼女の美しさを際立たせているようだ。男なら、守ってあげたいと思うらしい。
「ほーう、ボーガンを向けて来た時は、怒りの表情だったようだが、今は哀愁が漂って美しいな……。銀髪のような髪も、脱いで露わになった素肌もお前の美しさを際立たせるアクセサリーとなっている。エルフには嫌われているようだが、悪に心が染まったわけではない。
その愛くるしい自らの心と身体を守る為に、本能が変化を促しているのだろう。その為に、魔力が増幅もするし、体が発光して綺麗な姿となるのだ。だが、お前の孤独も今日限りで終わりになる。俺が、ずっとお前のそばにいてやるのだから……」
お兄ちゃんは、アレクサに語りかけながら、さながらナイトのように近付く。あまりのスムーズな動きに翻弄され、彼女も私も身動き1つできない。そして、彼女の額と銀髪、頰へとキスを複数回繰り返しながら、徐々に唇を奪おうとしていた。それを受け入れていた彼女だが、唇までキスしようとするのに気付いて、手でそれを阻止する。
「くう、それ以上はさせないよ、このイケメン顔のクソ野郎。私を誘惑して、魅了で心を奪おうというつもりかい? 恐ろしいほどの手際の良さと熟練度だけど、むざむざと心を奪わせるつもりはない。手元には、棒くらいの武器しかないが、植物の魔法と組み合わせる事で、それなりに戦えるんだ。楽器さえ手にすれば、私にも勝機はある!」
アレクサの体は緑色の光に包まれ、目視がし辛い。お兄ちゃんの足が植物に絡め取られて、動くのが困難な状況に追い込まれていた。棒で殴るだけの単純な攻撃も、それなりの威力と機動力になっていた。
アレクサの狙いは、自分の楽器を手に入れて、逆にお兄ちゃんと私、リリアンを操る事だ。リリアンが腰を抜かして動けない今、彼女に楽器が手に渡るのは不味い。彼女は苦し紛れに棒を振るうが、お兄ちゃんは避けようともせずに立ち尽くしていた。
「ふん、アレクサは気丈な女だな。俺が丸腰だと思って、棒で殴りかかって来たか。だが、それも俺の狙いだ。棒による攻撃など、俺にとっては止まって見えるほど遅い。逆に、お前を抱き寄せる結果になってしまったぞ」
お兄ちゃんは、アレクサが棒を振り上げた頂点を狙い、背の高さの差を利用して素手で止める。振り下ろさなければ、棒による攻撃力などゼロに等しい。そのまま流れるように彼女を自分の懐に抱き寄せていた。棒を持っている手を引き寄せ、彼女がバランスを崩したところを支える。
「なんだと!? コイツ、思わぬ以上に強い。身体能力は並以下だが、私がどう動くかを予想しているかのような動きだ。まさか、私の筋肉の動きから行動を予測したというのか?」
「ふん、勇者は素早いモンスターをもねじ伏せねばならない。結果、相手がどう動くかを予測できるのだ。ついでに、相手モンスターの弱点も手に取るように分かる。勇者だけが持つ目『勇者の瞳といったところか」
お兄ちゃんは、彼女の腕をねじるようにして武器を落とさせる。武道の達人にもなれば、腕力などなくても大の男をねじ伏せる事も簡単だ。ましてや、相手は美人の女の子、腕力自体はお兄ちゃんとどっこいどっこいだろう。
「はあ、痛い……」
「俺の前には武器など役に立たないぞ。全ての攻撃を予測して止める事ができるのだ。キミの攻撃など、俺の前には裸で走り込んでくるようなものだ。なのに、俺ばかりが防具など着ているのは、不公平極まりないな。お互い裸になって話し合おう!」
お兄ちゃんはおもむろに服を脱ぎ始めて全裸になった。無防備を装っているようだが、女の子にとっては最強の防備を身に纏ったに等しい。私達は、お兄ちゃんを直視する事が困難になっていた。
「うわぁ、何脱いでいるんだ? 服を着ろ、この変態!」
「ふふ、照れるとはアレクサは可愛いな。だが、重要な交渉の時には、お互いに裸で話し合うという会議も検討されている。俺とキミが話し合うというのは、勇者とエルフ族の代表が話し合うという国際的に重要な会議となるわけだ。俺の誠意が少しは伝わったかな?」
武器もなく、お互いに素性をさらけ出して交渉するのは、外交の重要な方法の1つだ。幸い、今は私達しかいない。お兄ちゃんの交渉は、外交の面では、確かに利に適っているのだろう。だが、私の目から見たら、変態以外の何者でもなかった。
「さて、お互い裸になったところで、平等かつ、親密な関係になったという事だ。まずは、率直に言おう。俺はお前が気に入っている。お前が欲しい。俺の仲間にならないか? お前は、俺に為に力を貸してくれ、俺は、お前に女としての喜びを感じさせてやろう」
お兄ちゃんは、こう言って彼女を仲間に誘う。一応、言っておくが、アレクサは裸になどなってはいなかった。お兄ちゃんの目から見て、武器も防御もない状態だからそう言ったらしい。だが、アレクサは何を勘違いしたのか、脱ぎ始めた。
「ふん、私をエルフの代表だと!? 確かに、街には他にエルフがいない以上、そういう見方もできるか……。だが、あなただけが全裸というのも申し訳がない。全裸は無理だが、下着姿までなら無防備な姿を見せよう。武器が無い方が、あなたも安心できるでしょう?」
アレクサが服を脱いでいき、リリアンにも劣らない体が露わにされた。私は、なぜか女として負けた気になり、自分のオッパイを確認していた。水着を着ているから明らかだが、オッパイなど全く出ていなかった。チッパイという言葉が頭を過る。
「ふふ、エルフの体は熟知している。確か、ここの背中のくぼみをキミ達は、醜いと言って嫌っているようだな。人様に見せないように、そこだけは頑なに防御するという。そうされると、見たくなるのが男というものだ。さあ、見せてごらん、アレクサ」
「ああ、そこだけは……。他ならば、オッパイでもお尻でも見せてあげる。でも、そこだけは、誰にも見させたくない。頼むから、見逃してください。お願いします!」
アレクサは、背中の一点を隠すようにして移動していた。どうやら、そこが彼女が見られたくない場所らしい。しかし、お兄ちゃんは巧みに見ようと計画を巡らしていた。
「気に入った女の裸を見たいのは、男として当然の欲求だ。アレクサ、キミは自分で醜いと誤解しているだけで、本当はどんな女の子の背中よりも美しいかもしれないのだぞ。俺が検査してやると言っているのだ。せっかくの機会を拒否するのかい?」
お兄ちゃんにそう言われて、彼女は覚悟を決めたようだ。ゆっくりとブラジャーを外して、背中をお兄ちゃんに見させる。どうやら、本人でもちゃんと確認した事はないらしい。エルフ達にそう言われ続けて、自らそこを隠すようにしているだけで、男が好むかどうかは分からなかったらしい。背中を向けると、すり鉢状のヘコミがあった。
「自分でも、ちゃんと確認した事はないのだ。醜くても蔑まないでくれよ……」
「ふふ、人間とは違う形の背中だな。だが、醜いというのとは違うぞ。初めて見たからこそ、違和感を覚えるだけだ。見慣れてくれば、チャームポイントに見えてくるぞ。さて、感度はいかほどのものか?」
「感度?」
お兄ちゃんは、すり鉢状のヘコミに舌を這わせていく。ザラザラしているようだが、硬くはなく、ヒダのような突起物が整列するように並んでいた。指や舌で触るだけで変化するほど柔らかく、弾力もあり、心地の良い手触りだった。
「ああああああ、そこは、とても敏感なの。ダメ、そんな優しく舐め回さないで。私、おかしくなっちゃう……」
「ほう、どうやら、ここも感度が密集した性体感の器官らしいな。醜いと思うどころか、ますます可愛いと思い始めたぞ。さあ、可愛い喘ぎ声を聞かせておくれ」
「あああ、ダメ、こんな感覚、初めて……。会って間もない男性に、ここまで弄ばれるなんて……、恥だわ……。ああああああああ、もう何も考えられない……」
アレクサは、お兄ちゃんに舐められている内に痙攣してビック、ビックっと小刻みに動く。その後には、妖艶な表情をした彼女が、お兄ちゃんをじっと見つめていた。彼女もまた、お兄ちゃんによって心を虜にされてしまったらしい。
「はあ、はあ、はあ、好き……」
「ふふ、どうやら俺を意識してくれたようだな、嬉しいぞ。だが、これでお前の問題が解決するとは思っていない。まずは、あの人気のない喫茶店でコーヒーでも飲みながら、3人で会議する事にしよう。誰が悪いかを見極めなければ、問題は解決しない」
「良いけど、妾は脱がないわよ! たとえ、喫茶店の中だとしてもね!」
リリアンは、体をモジモジさせながらそう言う。どうやら、まだ耳を舐められたダメージが残っているらしい。興奮が冷めないが、頭はなんとか冷静さを取り戻していた。しかし、衣装自体がセクシーなだけに、あまり大して変わらない気がしていた。
「ふふ、それでも良いさ。お前がいなければ、正しい判断は下せない。もうじき、ジャクソンも疲れが取れて、ここまでやって来るだろう。奴に、このセクシーな乙女達の姿を見せたくはない。俺1人が楽しめれば、それで良いのだ」
お兄ちゃんは、アレクサとリリアンを連れて、店長の逃げた喫茶店に入る。エルフは女性が多い、その為、この店の内装もオシャレにデザインされていた。ゴーレムによって半壊されていた街も、見た目は綺麗なデザインだった事が見て取れる。
「マリアーンは、コーヒーを3人分淹れてくれ。俺とアレクサ、リリアンの分だ。お前は、自分で勝手に好きな物を作ると良い。そして、ジャクソンが万が一嗅ぎつけた場合を考えて、睡眠薬入りのミルクティーでも用意しておいてくれ。どうせ、この乙女達を見れば、興奮して鼻血を出してしまうだろう。医療措置だよ」
「はいはい、言われた通りにしますよ」
私は、お兄ちゃんの要求通りにコーヒーを3人分淹れ始めた。淹れている途中で、お兄ちゃんの方を見る。アレクサとリリアンを両肩に手を回して、酒場で男女がイチャつくように会話をしていた。私のやり場のない怒りが込み上げてきているのを感じた。
私の中のイライラが成長し始めていた。
お兄ちゃんを見るだけで、攻撃の衝動に駆られます。
どうしますか?
⓵『目障りなんだよ!』と言って、木刀で奴の喉を突く。
⓶『私も構って♡』と言って、可愛いポーズでおねだり。
⓷転けたフリをして、3人に熱いコーヒーをぶっかける。
私は⓷を選びたかったが、どう考えても彼女達2人は強い。
その為、とりあえずムカつくお兄ちゃんを本気で攻撃する⓵を選択する。
両隣は女の子達がいる。迂闊に避ける事はできない。
「マリアーン、なかなかの工夫だが、俺を倒すにはまだまだ工夫が足りないぜ」
お兄ちゃんは、私の突きをズラす事によって、木刀の一撃を避けていた。
彼の座っていたソファーに穴が開いたものの、彼自身と彼女達にダメージはない。
どうやら思い込みによって、無敵の防御法を身に付けてしまったらしい。




