第9話 お兄ちゃんVSリリアン
お兄ちゃんは、リリアンの手を掴み、彼女がアレクサを生きたゴーレムにするのを阻止する。しかし、リリアンも腕力が強く、そう簡単には止められそうにない。
「何、ヤル気? このタイミングで現れたという事は、マリアーンちゃんの生着替えに見とれていたわね。この変態、妾の頭を傷付けた原因のコイツを倒さないと、妾の怒りが収まらないわ! 妹ちゃんは、生着替えで許してあげる。どの道、アレクサを従わせるには、薬でゴーレム化させる必要があるわ。素の状態では、ダークエルフを従える事はできない!」
「ふん、それは、俺がいない場合の話だ。俺が居れば、その薬など使わなくても従わせる事はできるさ。なんなら、試してみようか?」
「はん、面白い。妾をお前の虜にできたら、彼女をお前に任せようじゃないか。まあ、不可能だろうがな。伊達に、探偵をやっているわけではない。どんな依頼人でも、危険な情報を他人に話す事はないように、交渉術や魅了は効かぬぞ」
「ふふふ、それこそ、攻略の意欲をそそるというものだ。マリアーンのようなツンデレも可愛いが、リリアンはどんなタイプで俺を愛してくれるのかな?」
お兄ちゃんとリリアンは互いに数秒間見つめ合っていた。お互いの目の動きや表情から、どうやって攻めて来るかを予想しているようだ。まず、気持ちで負けたら、絶対に勝つ事はできない。止まっているように見えるが、上級者同士の探り合いが続いていた。
「ふん、私にキスをして、味覚によって魅了する気? 舌が入って来たところを噛み千切ってあげようかしら? 味覚が完全に消えても良いというのなら、私にキスする事を許可してあげるわ」
リリアンは、お兄ちゃんの顔が、ゆっくりと自分の顔に近付いている事を悟り、そう牽制する。確かに、舌や唇は、脳に比較的近い為、魅了するのに最適な部分の1つだが、彼女には効きそうもない。彼女の顔は本気だった。キスした場合は、どんな結果になるかも分からない。
「ふん、勇ましい女だな、気に入った。マリアーンには無い容赦なしのドSタイプのようだ。オッパイも、マリアーンがチッパイなのに対し、彼女は巨乳タイプのようだ。ぜひ、お前を我が妃の1人に加えたいものだ」
「ふふん、あなたごときでは無理よ。どう見ても豆腐メンタルの弱そうなモヤシ男だもの。妾のドSの前には、ただのゴミ男に成り下がるわ。なんなら、徹底的に精神を破壊して、あなたもアレクサ同様のゴーレムにしてあげましょうか? 文字通りのハーレム地獄に叩き落として差し上げるわ!」
お兄ちゃんは、見た目はそれなりにカッコいい。意気地がなく、ヘタレだからモテなかったが、自分に自信がある今なら男女問わずにモテるだろう。そうなると、恋愛爆発系の薬を投与された場合、どうなってしまうのか分からないほどだ。
(誰でも良いから恋をして、全員と関係を持ってしまうわ。そうなったら、私とのプロポーズとかも全部忘れて、ただのクソ野郎に成り下がってしまう。幾ら何でも、お兄ちゃんがそんな風になるのなんて嫌だ!)
私は、決死の思いで、お兄ちゃんとリリアンの中へ割って入ろうとする。私の考えを見抜いたかの如く、お兄ちゃんが近くにいる私にフッと笑いかけた。俺を心配しているのか? 大丈夫だ、と言う感じの笑顔だ。
「ふーん、妾との勝負の最中に、他の女に注意を払うとはな……。いくら妹とはいえ、妾以外の人物に目移りするのは気に食わん! 鞭で肉体的に傷付けて、妾のドM奴隷として生きて行くが良い!」
リリアンは、お兄ちゃんに向かって鞭を振るう。至近距離の攻撃だが、お兄ちゃんはその攻撃を木刀で受け止めていた。そして、鞭を木刀で絡めとり、彼女の手から引き離していた。鞭と木刀が宙を飛び、私の足元に落ちる。素早い彼女の手をあっさりと捕まえてしまった。両腕が捉えられ、彼女も驚きを隠せないでいた。
「ふふ、まるで猫のような女だな。俺にキスされたり、触られたりするのが怖いのか? だが、吐息がかかるまで近付いているにも関わらず、目を瞑らなかったのは敬服するぞ。このままでは、無防備になったところを一気に噛み付かれるだろうな……」
「ふん、良く分かっているじゃない。あなたもなかなかの男ね、あそこまで手際良く妾に触れらたのは初めてだわ。でも、まだ屈したわけではない。油断して近付いたら、一気に鼻を噛んでやるわよ!」
「だが、お前の弱点は知っている! 今のお前では、俺の敵ではないぞ」
お兄ちゃんは、リリアンの両手を引き寄せて、抱き付くような形になる。2人で抱き合ってキスをするのかと思っていた。だが、お兄ちゃんの頭は、彼女の顔の横を通り過ぎていった。狙いは、彼女の唇ではなく、形の良い耳だった。
「ふー、形の良い耳だな。お前の弱点は、音楽家としての才能を支える聴覚と、探偵を名乗るほどの読書家というところだ。そういう女の子には、言葉責めが効くらしいな。まずは、いやらしい音を立てながら、お前の耳を愛撫してやろう」
お兄ちゃんは、ぬちゃぬちゃ、という音を彼女にワザと聞かせるような攻撃をし始めていた。時折、耳にキスをしたり、甘噛みしたりして、彼女が興奮するような言葉を語る。私の胸に、殺意が沸き始めていた。
「ひゃああ、な、何、耳を舐めたの!? くう、この、皮膚を噛み切ってやる!」
「ふっ、ムダだ。俺のテクニックからは逃れられん。開いた口が閉じられぬように、感じさせてやるわ!」
お兄ちゃんは、彼女のうなじや首筋を舐め始めた。それに合わせて、彼女の色っぽい吐息が聞こえてくる。彼女の声が高くなる毎に、私の殺意も強くなって行く。木刀を握り締め、お兄ちゃんの頭に標準を合わせていた。
「はあ、はあああ、ダメ、気持ち良くなっちゃう……、ああ、興奮してきちゃダメなのに……。妾は、首筋が敏感なの、ダメ……、舌で優しく舐め回さないで……、あああ!」
「ふふ、興奮するお前も可愛いぞ。俺の舌で踊り狂うが良い」
リリアンが腰を抜かして、座り込んでいた。それでも、お兄ちゃんは彼女への攻撃を止めようとはしない。トドメを刺して、完全に彼女を自分の虜にするつもりなのだ。お兄ちゃんだけが立っているのを見て、私は攻撃のチャンスだと考えた。
「このクソ兄貴、良い加減にしろ!」
私は木刀でお兄ちゃんの背後を完全に捉えていた。しかし、後ろに目があるかの如く、一瞬にして避けられてしまう。追加攻撃をしようにも、木刀自体を止められては、上手く攻撃をヒットさせる事もできなかった。
「はっ、マリアーン、危ない、危ない……。もう少しで俺に傷が付けられるところだったぜ。このイケメン顔の勇者がな!」
「お兄ちゃんの顔がここまで憎たらしいと思ってのは、初めてだわ。美女を見かけるとたちまち口説く変態野郎に成り下がるとは……。絶対に許せない!」
「ふん、今マリアーンとやり合うつもりはない。お前は大切な妹にして、俺の妻になる女だ。だが、勇者ともなる者は、多くの美女を幸せにしなければならない。お姫様に、悲しい宿命を背負ったエルフの乙女、武器屋の娘も虜にして最高の武具を手に入れなければならないからな。
魔王を倒すには、それほどまでに多くの美女の助けが必要なのだ。別に、遊び半分で口説いているわけではない。俺は、いつも本気で告白して、彼女達が最高のレベルでいて欲しいと願っている。俺でなければなし得ない事だ!」
「くそっ、変な使命感を出し始めたわね?」
「ふん、変な使命感ではなく、勇者としては必須の責務だ。どれ、この悲しみに明け暮れたエルフの乙女を笑顔にして見せれば、マリアーンも俺の偉大さと凄さ、彼女達への必要度が認識できるだろう。では、エルフの乙女よ、バトルと行こうか?」
お兄ちゃんとアレクサとのバトルが開始された。彼女は、ゴーレムもナイフもボーガンもなく、切り札の竪琴も奪われた状態だ。後は、彼女の悲しみを取り除いてやるだけの状態だが、果たして興奮して怒りに満ちているダークエルフを薬も使わずに抑える事ができるのだろうか?
リリアンが色っぽい目で私を見つめている。
どうやら仲間になりたいようだ。
仲間にしてあげますか?
⓵耳を舐めて完全に奴隷化する。
⓶今ならキスできるからと、お兄ちゃんをけしかける。
⓷私とリリアン、2人で協力して、お兄ちゃんをボコボコにする。
私は当然⓷を選んで、お兄ちゃんをボコボコにする事を決意した。
多少頭にダメージを与えなければ、まともな人間になる事はないであろう。
ちなみに、リリアンは時々キッとお兄ちゃんを見つめる時があった。
そして、潤んだ瞳で私を見つめる。何かを欲しているような目だ。
どうやら私の恋のライバルになってしまったかもしれない!




