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離れていても心は…  作者: オクノ フミ
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2.後悔しないように

 結局…本当にオレはその後眠ってしまったらしい。気がついた時には、先に起きてシャワーを浴びたらしいジャスミンは、既に身支度を整えているようだった。オレは彼女に背を向けた姿勢のまま、目を開けずに眠ったフリを続ける。すると、ジャスミンの細くしなやかな手が、そっとオレの髪を撫で、その低めのセクシーな声で呟いたんだ。


 「ベク、アンタってホントにヒドイ人だよね。結局、アタシはアンタじゃなきゃダメだって、また思い知らされたじゃない。どうして、アンタじゃなきゃ本気で愛せないんだろう…。責任取りなさいよ、バカ。」


 そのまま何度か髪を撫で続けてから、そっとジャスミンは出て行った。ドアの閉まる音を確かめてから、オレはゆっくりと体を起こす。「返さなきゃいけない物だよね。」と言っていた合い鍵は、返されてはいなかった。


 さっきのジャスミンの言葉を思い返す。オレでなきゃダメって…。なら、何で出て行った?一緒にいる方が辛いってことなのか?わからない…。ジャスミンは何を考えているんだろう?


 その日から、オレは新たな悩みを抱えることになった。




 それから、1週間ほどして、次のアルバム制作とコンサートツアーの打ち合わせのために、久々メンバー全員が集まった。それぞれ始めたソロ仕事でも、みんなちゃんと成果を出して、それが落ち着いてきた人気の底上げにつながればいいな、と願っている。そのためにも、このアルバムもツアーも失敗はできない。さあ、気合入れてやらなきゃ!と思った。


 そんな休憩時間。何だかいつになくセナがオレに懐いてくる。


 「セナ、おまえ今日うっとうしいよ。何懐いてるんだよ?」

 「だって、ベク兄さん、寂しそうなんだもん。」

 「は?」


 そこでセナは、本当にビックリするぐらい大人っぽい顔でオレに話し出したんだ。


 「ベク兄さん、恋で悩んでるでしょ?オレね、わかるんだ。自分がず~っとそうだから。もう、何年だかわからないぐらいずっと…。」


 まさか、オレの様子に気づかれるなんて思いもしなかった。いつも本当にガキっぽくて、何をやらかすかわからないセナなのに、今のセナの顔は本当に大人の男の顔だった。


 「そんな僕が一つだけ決めてることがあるんだ。絶対、後悔だけはしないでおこうって。迷うこともいっぱいあって、その度どうしようってすごく考える。でも、結局最終的にはシンプルに僕がどうしたいか、で決めないと、結果が出た時に後悔するんだ。彼女のためにならないかもしれない、って、違う結論出して動いた時に、結果すごく後悔したから。僕が悩んでること、実はちゃんと彼女もわかってて、彼女は彼女なりに僕のために動こうとするんだよ。だけど、それがたぶん彼女の本当にしたかったことじゃなっかったってわかった時、僕、すごく自分の力のなさにガッカリした。好きな女の子に、思うとおりにさせてあげられないようなダメな男なんだ、ってさ。その時に、逆もそうなんだ、ってわかった。僕がそうしたい、って思って決めたことなら、結果ダメでも後悔しなくて済む。それで彼女も納得してくれる、ってね。…だからさ、ベク兄さんも自分が後悔しないようにしなきゃダメだよ。逃げたり、諦めたりが1番ダメ。ね?」


 そう言って、セナはオレをギュッとハグしてから、休憩に入った仲良しのインファの方へ行った。


 「これじゃどっちが兄さんだかわからないなぁ。」


 思わずオレは、そう口に出していた。今のセナの言葉は本当に胸に響いた。先ず、自分が後悔しないこと。オレは本当はどうしたいのか?その夜、帰宅してからオレは改めてそれを考えた。シンプルな答えを見つけ出すことができたんだ。




 その翌日、オレはジャスミンと共通の友人に連絡して、正直に状況を話し、今の連絡先を教えてもらった。すると、以前とそれは変わっていなかったんだ。


 「ベクが正直に話してくれたから言うけど、ジャスミン、ずっとベクからの連絡待ってたんだ。だから、番号もアドレスも変えられなかったの。…今度はジャスミンを泣かせないでよ。」


 予想もできない話だった。出て行く時に何の話し合いもなかったから、納得なんかできなかったけど、ジャスミンから出て行ったのだから、もうオレには愛想を尽かしているんだと思った。連絡なんかしちゃ迷惑なだけだと思ったから、アドレスも消した。それはすごく辛いことだったけど、ジャスミンのためには受け入れなきゃいけないことだと思ってた。それが裏目だったとは…。セナの言うとおり、自分の思ったとおりに動かないと、こうやって後悔することになるのか。今度は、間違わない。オレの心は決まってるのだから。オレは、話があるから時間を空けて欲しいという内容と、自分の今後1週間のスケジュールをジャスミンに送った。



 やっぱり仕事に忙殺される日々を送るオレ達のスケジュールを何とか合わせられたのは、結局10日後で、それも夜10時から…。しかもオレの方はほぼ大丈夫だが、ジャスミンの方は、もしかするともっと遅くなるかも、という綱渡りだ。それでも、そこで会わないと、ジャスミンの海外撮影が立て込んで、ひと月先まで会えない可能性が高いから、何時になっても待っているから、と約束した。


 だって、こんな精神状態のまま宙ぶらりんはキツイ。仕事中はさすがに没頭しているからそんなことはないけれど、帰宅してあれこれ考え出すとキリがなくて。どうやって話したら、オレの気持ちがちゃんと伝わるんだろうとか、結果ダメだった時、本当に後悔しないで済むのか、とか。これだけ今でも本気で好きだと気づいてしまった気持ちを、なだめることなんかできるんだろうか?


 そんな風にプライベートで悩み続けるオレは、見るからにやつれていたらしくて、心配したメンバーが事務所に話して、オレに強制オフを取らせたんだ。それが、ちょうどジャスミンとの約束の日だった。


 仕事をしていた方が気が紛れるのに、と思っていたけど、いざ朝目が覚めて今日がオフだと言うことに改めて気づくと、何だか開き直りの心境になった。オレがいくらジタバタしても、結局はジャスミンが決めること。拒まれたら、忘れられるまで1人で想い続けていればいいじゃないか、って。これまでだってそうだった。同じことなんだ、ってね。だから、久々、仕事以外の好きな音楽を聴いて、観たかった映画のDVDもやっと観られて、心からオフを楽しめた。




 約束の夜10時をほんの少し過ぎたところで、玄関の開く音がした。ジャスミンが来たんだ。玄関で出迎えると、何だかジャスミンの方がすごく緊張しているのがわかった。


 「ゴメン、呼び出したりして。でも、どうしてもちゃんと会って話したかったんだ。」

 「うん。この間も一方的だったものね。アタシの方こそゴメンナサイ。」


 そんな一言二言を交わし、ジャスミンが中に入ったところで、まだカギを掛けていなかったドアが突然開けられた。オレも驚いたが、振り向いたジャスミンはもっと驚いた。


 「リョウ、どうして…。」


 そこに立っていたのは、ジャスミンの新しい彼氏・リョウだったのだ。



 

 次話をもって、このエピソードは完結です。突然現れたジャスミンの今カレ・リョウ。果たしてどんな展開でハッピーエンドに向かうのか?


 よろしかったら、またお付き合いくださいね。

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