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私女子だけどお兄ちゃんの方が上でした

「おお」


 炊きたての白米、ナスのお漬物、ごぼうのお味噌汁、サバの味噌煮込み、ほうれん草のお浸し、あとなんかよくわかんないけど人参とピーマンのきんぴらっぽいもの。

 食卓に並ぶ品々に、思わず感嘆の声が漏れた。


 兄に手を引かれるようにして帰宅してから一時間ちょっと。

 その短時間でこれだけの美味しそうな料理が作れるとか……女子だ。女子力高い女子もどきが私の目の前にいる。


「あれ? 百合ちゃん、何か苦手なものでもあった?」

「いえ、ないです。えっと、いただきます」


 ぱくりとナスのお漬物を口にいれる。

 おお! なんだこれ! なんかワサビが効いてて美味しい! ご飯が進む! むしろ、このほかほかのご飯はなんですか……早炊きしてたよね!? なのになんで良い感じなの? 私が炊くのと全然違う! 

 恐る恐るお味噌汁を口にすれば、なんかもうあとは無言で食べた。

 美味しい料理目の前にしておしゃべりするとか、無理。

 しゃべる暇があったら口にかき込む事優先するわ。


 お手伝いを申し出た私をやんわりと止めた兄に心の中でグッジョブを送る。

 それと同時に、ちょっとだけどす黒いモノが心の中で広がった。


 これまで、夕飯を作っていたのは私だ。

 お父さんと二人の時は惣菜メインだった。そもそも料理本なんてもってないし、携帯で料理サイト検索するなんて面倒で……私の料理はだいたい煮るか炒めるの二択で、魚はお刺身を買ってくるだけだった気がする。だって捌けないし。焼いた後の洗いモノ面倒だし……そんな理由で揚げ物なんかもスーパーの物しか買ってこなかった。

 うん、この兄ならきっと魚を捌くのも揚げ物も自分でやるんだろう。


「御馳走様でした」


 ふう、と満足の溜息を吐けばベストなタイミングであったかいお茶が出てくる。

 うん。私、性別は女だけどいろいろと完敗してるよね……まあ美味しかったから良いけど。


「お兄ちゃんありがとう。えっと、洗い物は私がします」


 御馳走になったのだ。面倒くさいけど洗い物は私が引き受けるべきだろう。

 そう思って皿を下げようと立ち上がったら、やんわりとした笑顔で止められた。

 イケメンに笑顔を向けられるとどうしたら良いのか分からなくなるけど、美人に向けられると口元がニヤけて変顔になるのはなんでだろうか。


「何も聞かないの?」


 椅子から立ち上がった私と、まだ座ったままのお兄ちゃん。

 自然な形で、お兄ちゃんは上目遣いをしているかのように私を見上げる。破壊力でかいなあ、おい。


 じっと私の目線がお兄ちゃんの胸にある二つのメロンに向かっているのを感じたらしい。

 うん、照れたようにはにかまないでもらえないかな……変態の気分が分かったかもしれない。


 いや、そうでなくて。

 はて?


「やっぱりお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんって呼んだ方が……?」

「いえ、そうじゃなくてね? こう、いろいろ突っ込んだりとか」

「突っ込む……?」


 イケメンなお兄ちゃんは美人なお姉ちゃんでしたー?

 一人で二倍美味しいのでは?


「えーっと、目の保養的にイケメンと美人が楽しめてラッキー……?」


 思ったままを口にしてしまったらしい。

 一瞬あって思って手で口を押さえたけど、お兄ちゃんはぽかんとして……一拍遅れて笑いだした。

 私の残念な思考回路に笑うしかなかったんだろう。

 いやいやいや、まだ笑うの? お腹抱えて笑うとかどんだけ? しかも涙目までなってるし!


 なんとなく恥ずかしくて、むうっと頬を膨らませて怒ってますアピールをして再び椅子に座れば、お兄ちゃんはごめんねってコロコロ笑いながらお茶を入れ直してくれた。

 お、お茶じゃ懐柔なんて……お茶と一緒にお茶菓子も出てきた。おう、これって和菓子じゃん! 中身あんこじゃん!


 テンションが上がったのが分かったんだろう。

 更に笑いだしたお兄ちゃんをじと目で見てから、もういいやって無視して茶菓子を食べる。


「あのね、僕、綺麗なのとか可愛いのが大好きなの。見るのも、自分がなるのも」


 じっと見つめてくるお兄ちゃんに、それで? と首をかしげて問えば、ちょっとだけ逡巡してから真っすぐと私を見てきた。


「気持ち悪くないの?」

「その顔で気持ち悪いだったら、私なんてお外出歩けないレベルですが」


 何失礼な事言ってるんだ。

 そう思ってじとっと睨みつけてやれば、やっぱりお兄ちゃんは嬉しそうにふんわりと笑う。


「百合ちゃんは良い子だねえ」


 百合ちゃんはアホの子だねえ。

 副音声が聞こえた気がしたけれど、きっと私の被害妄想なんだろう。


「今までは母さんと二人きりだったし、家の中とか遠出する時だけだったんだけど」

「じゃあ今まで通りで良いんじゃないです?」


 思った事をそのまま口にすれば、やっぱりお兄ちゃんは面白そうに笑う。

 美女がころころと幸せそうに笑うのは見てて気持ちの良いものだけど、その対象が自分ってなるとなんだか複雑だ。


「ねえ百合ちゃん、僕達仲良く出来るかな?」


 にっこりと無邪気に差し出された手に、一拍遅れてその手を握り返す。

 お兄ちゃんがわたしのむふふタイムを邪魔しない限り、良好な関係は築けるはず。

 今まで通り適度な関係で良いと思う。


「良かった! ありがとう!」


 ぐいっと引かれてテーブルを挟んだ状態で抱きしめられる。

 ぐえっと乙女にあるまじき声が出たけれど、私のお腹のぜい肉が机に押し付けられて大変な事になっていたので、それどころではない。

 離して欲しくて身動きするけど、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて諦める。

 イケメンだから許されるけど、ブサメンがやったらセクハラだ。


「これからも宜しくね!」


 ちゅ、という軽いリップ音に頭が真っ白になる。

 へ?

 あ?

 は?


 拘束が解かれると同時に頬に手を当てる。

 今、何が起きた?


「そうだ。ご飯気に入ってくれたみたいだし、これからは僕が作るよ。家事好きなんだ」


 いやいやいや! 待て。 ストップ! たんま!

 そんなさらっと流さないで。

 今乙女の頬になにされやがりました?


「明日は何が食べたい? なんでも作ってあげる」


 眩しいばかりの笑顔で尋ねられ、一瞬にしてさっきの夕食が思い出される。

 スーパーの総菜や外食では味わえないあったかい料理。

 家族の為に作られた手作り。

 それはもう何年も食べていない極上の料理だ。


「た、炊き込みご飯」


 文句を言おうと開いた口からは、全く違う言葉が生まれた。

 それでもって、お兄ちゃんがあんまりにも無邪気に笑うから、一気に毒気が抜けてしまって……まあ今のお兄ちゃんはお姉ちゃんだし、女の子のスキンシップの一つなんだろう。

 そう、納得することにした。



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