新しい家族が出来ました
それはとある冬の日。
あっという間の冬休みが終わって、学年最後の期末試験が終わった頃の出来事。
「なあ百合、家族……欲しくないか?」
いつものように朝起きて、菓子パン食べてコンビニでお弁当買ってから学校へ。学校が終わったらスーパーでお惣菜を買って帰宅。お米だけ炊いてお風呂掃除してあとはまったりむふふタイム。
そう、それはなんの変哲もない、このままずっと繰り返し続いていくだろうと思っていた中で、ある日珍しく夕方に帰って来たお父さんがぽつりと私に呟くように尋ねてきたのだ。
その時の私は慌てた。
お父さんの発言に、ではなくて急に帰って来た事に。
だってリビングのテレビ占領して、乙女のむふふタイムだったんだもの。
せめてもの救いは、日常では絶対聞けないような甘囁きはすでに言い終えていて、男親に見せるにはかなり恥ずかしいドキドキスチルを隠すように選択項目が出ていた事だろうか。
「会って欲しい人達がいるんだが……その、百合の意見を尊重したいから、会ってもらうだけ会ってもらっても良いか?」
えー何それ面倒くさい。
心の声をしっかり押し隠して笑顔付きで了解した私はなんて親思いなんだろう。
それからそれから。
了承して、私の気が変わらないうちにと思ったのか、のんびり屋さんなお父さんにしてはとっても迅速に物事が進んでいった。
むしろ、顔合わせが引っ越しと同じ日ってどうなんだろう。アリなの? いや、なしでしょ。
新しい家は、なんと一軒家。しかも新築。二階建ての庭付きだ。
朝八時に動きやすい格好で家に集合して自己紹介。
どれだけ天気がよくても、三月はやっぱり肌寒い。
引っ越しの作業だしと思ってGパンにタートルネック、キャラクター物のパーカー……肩まで伸びてる黒髪はそのまま。うん。もうちょっと身だしなみに気を付けた方が良かったかもしれない。
そう、思わず自分の服装を気にしてしまうくらいには、なんていうか新しい家族は凄かった。
「初めまして、百合ちゃん……って呼んでも良いかしら。この子は菖蒲。百合ちゃんの一つ上よ。ふふ。二人とも花の名前だなんて、素敵な偶然ね」
新しいお義母さんは、そう言って艶やかに微笑んだ。
笑った、ではなく微笑んだ、だ。
なんていうか、同じ性別の私ですらドキっとしてしまうくらいに素敵な微笑で、真っ赤に彩られた唇が魅力的でついつい目がそっちにいってしまう。
だから、次の衝撃に備える事が出来なかったのだ。
「僕も百合ちゃんって呼んで良いかな? 宜しくね」
新しい義母さんは百七十後半のお父さんと並んでもおかしくないくらいに長身で、すらっとしてて、でも出る所は出てて。
パンツスーツ姿が素敵すぎて、そんなのばっかりに目が行っていたから、お義母さんの後ろから聞こえてきたなんとも言えないイケメンボイスに私の腰は一気に砕けた。
「は、はひ!」
返事にならない返事を直立不動で返す。
うう、眩しすぎて辛い。穴があったら入りたい。
お義母さんの後ろからひょっこり出てきたお兄ちゃんになるその人は、なんていうか……イケメン、その一言で済ますにはもったいないくらいのイケメンだった。
お義母さんとそう変わらない身長。つまり百七十は超えてるはず。
さらさらのナチュラルショートの黒髪に、切れ長なのにすこしだけ垂れ目だから、柔らかい印象を与える真っすぐな目。
乙女ゲームで例えるならあれだ。正統派の王子様。
ゲームのパッケージとかで、にこやかに微笑みながらセンター飾ってそうなイケメン。
女王様みたいに艶やかなお義母さん。
正統派王子様みたいなお兄ちゃん。
小学校低学年の時に、お母さんは家を出て行った。
そこから男手一つで育ててくれたお父さんに、春が来た。
私の新しい家族は、なんていうか初対面だけど、まだ中身とか分からないけれど……眩しすぎて近寄りたくない。
ああ、はやく会話終わらないかな。引っ越し屋さん来ないかな。
ただただその時の私は、なんだか眩しすぎてお家に帰りたくて仕方なくなった。
や、うん。今いるのが新しいお家なんだけど。
私の部屋はどれですか……早く引きこもりたい。