蓮人の力
「ところでさぁ、君が持ってた剣、今日は出せないの?」
話が一段落した後、再び湧き始めた魄を、手にした鉤爪状の武器ーーーなんだっけ。確かパンテールとかそういった名前立った気がする。ーーーで切り刻んでいく。御影には見られなかった、近接武器ならではの鮮やかさだ。そういえば御影はーーーあぁいた。味方に誤射しないよう、遠くで違う敵を相手にしてる。
「起きた時はなかったんですけどーーー。それって出す条件とかあるんですか?」
「うん?単純にイメージすればいいだけだけどーーーっていうか、昨夜を思い出せばいいんじゃないの?」
「はぁーーー。」
そう言われ、昨夜のあの瞬間を思い出そうとするけどーーー。やっぱりダメだ。特に何かをしていたようには思えない。っていうか、きっかけは御影だしなーーー。
「無理っぽい?」
「ーーーはい。」
「じゃぁ、どこかでそれを嫌がってる自分がいるんじゃないかな。ーーーっと!」
「うわっ。」
目の前で魄が血飛沫をあげ、息絶える。こちらにも返り血が飛んで気持ちが悪かったけど、それはやがて黒い霧となって本体とともに消え失せた。
「『それがあるのが当然』って考えるのがオレらの力だからさ、どっかで化物になるのをおそれてんじゃない?今の君の能力といい、さ。」
「つまり、今も僕はこの世界を信じてない。もっと言えば、まさに夢のように思ってるってわけですか。」
どれだけの傷を負おうと、認めない。ーーもとからそんなものはなかったと言いたげに発動するこの能力。御影が言うには、心の奥底やらなんやらが能力に関係してくると聞いたけど、、、それはあながち間違ってはいないのかも知れない。
「ま、そうなるかな。」
血飛沫の中、陽気な鼻唄を中断し、瞬火さんは
まだ夢の中、か。ーーー夢を壊された今じゃそれは最高級の皮肉だけど。とりあえず、自分の頬と抓ってみる。ーーーうん、痛い。夢じゃない。
「いっそ夢だったらいいのにーーー。」
同じ境遇の瞬火さんには聞こえないよう呟き、下を向く。
「あ、、、、え!?」
するとそこには、最初からそこにあったといっても信じられるほど、あまりにも普通に、
「朱肚ーーー。」
昨夜のその刀が、存在していたーー。
「んー。どうしたんだい井守クンーーーって!」
僕の間の抜けた声を聞いて、振り向いた瞬火さんも気付いたらしい。同じような声をあげ、その場に固まる。でも、なんだろう。ただ単純に驚いただけの僕とは少し違うようなーー!。少しオーバーというか、表情が引きつってるというか。
「やっぱり、か。
ーーーどうやら本当にいわくつきみたいだねぇ、その刀。」
「え?」
ゆっくりと眼を細める先輩。その姿に、思わず後ずさる。
そんな僕を、瞬火さんは一切気にせず、今度は眼を開き、いつもの薄い笑みを作った。
「知らない?寂しがり屋の幼子の憑いた真っ赤な刃の妖刀。ーーー朱肚っていうんだけどさ。」
「妖刀ってーーー。笑えない冗談をーー。」
こちらへじりじりと距離を詰めてくる瞬火さん。再度後退しそうになるけど、すんでのところで踏みとどまる。
「いんや、実際にあった話らしいよ?ここらでずっと語り継がれてる伝承なんだけどさぁ。」
「んー。語りたいモードですねぇ瞬火さん。いいですよー。大方の敵はやっときますから。」
「ありがと。」
いつの間にか傍に寄ってきた御影の申し出に、全く驚くことなく先輩は礼を口にした。先輩の表情もさっきとは打って変わり、得意げに語るその姿は何故か楽しそうだ。
「伝承って、ーーーこの刀がですか?」
「うん。やっぱり人の思念の集合体が魄だからさ、地方の伝説とかがもとになってるのも多いんだ。」
「へ、へぇ、、、」
歩を止めず、こちらへ近づいてくる姿に、僕は完全に気後れしてしまっている。
「だから一応マイナーなものまで調べてた時期があったんだけどーーーー。」
お互いの息がかかるくらいまで近づいて、彼はやっと足を止めた。
「朱肚ーーーその刀もそんな中の一つでさ、設定自体がかなり異質だったから今でもハッキリ覚えてるよ。」
「っ!?」
目の前から先輩が消えた。そう思ったら、彼は只腰を下ろしただけのようだ。ーーーそろそろ能力といい、今といい、、、臆病過ぎやしないだろうか。
「やー、蓮人君も構えない。そこに座って。
退屈しないよう、精一杯面白オカシク話してあげるから、さ。」
自分のルーツを知っといて損はないだろう?そう言った先輩の目は、買って貰ったオモチャを自慢したい、子供のそれに見えた。