束の間の日常
「はぁ、厄日だなぁ今日は、、、」
御影に遅刻を指摘され、慌てて用意したものの、家を出たのはその十分後。当然間に合うはずもなく、校門で待ち構えていた古風な体育教師の説教は、その後数時間に渡り続いた。
「おはよ、蓮人。」
「ん。どうした渚。」
朝から疲労困憊で伏せっていた僕は、後ろからの声に耳を傾けた。声をかけてきたのはクラスメイトの堀 渚。苗字一字で、名前も一字。合計二字の珍しい名前だ。クラスメイトであると同時に幼馴染で、女子に対してはたいてい人見知りする僕の、貴重な女友達だ。
「どうしたじゃないでしょ、もう。新学期早々遅刻してさぁ。」
「あー、、、説教ならよしてくれよ。もう一週間分食らった気分だ。」
「もー。それは蓮人が遅刻するからでしょ?」
「はいはい。」
返事をするため後ろを向いていた僕だったが、話題がめんどくさくなりそうだと考え、頭をかきながらまた机に伏せた。あ、そうそう。ここで彼女の説明をしておこう。
立ち位置的には、そうだな。クラスに一人はいただろう、こういう奴。
「ところでさぁ。蓮人。」
「ん?何?」
「なんか、三年の女子と一緒に家から出てきたらしいけど、何してんの?」
「っ!?」
そう。情報屋。
「いや、相手の同意があればいいんだろうけどさ、流石にまずいんじゃない?会って一日でってのは。」
そして勘違いしやすいという、情報屋にあるまじき性質を併せ持つ、、、なんでこんな奴が友人なんだろうか、、、
「バッ馬鹿!どこまで知ってる!?」
「ふっふーん。私の耳は千里先のアリの足音でさえも拾えるんだよ?」
「あのさぁ、渚。千里って何メートルだ?」
「???」
「意味わかってなかったのかよ!?」
こいつと話しているといつもの倍疲れる。御影のことも耳に入っているようだし、ここは早めに話題を切り替えるか。
「なぁ渚。先日不祥事が発覚した岡田先生だけど、、、」
「結局学校やめたんだって?知ってるよそれくらい。」
ぐ、くっそう、、、。
「それに話題を変えようとしてるのバレバレだよ?蓮人。」
「は?」
「蓮人は焦ると難しい言葉づかいをしだす、、、知ってた?」
「いや、特に意識はしてなかったけど、、、」
「さっきもさぁ、フショージとかハッカクとかさぁ、半分も理解できなかったよ。」
「全部中学生レベルの単語だけど!?」
半分も理解できなかった話題を先取りしてたのか、、、すごいなこいつ。
「さ、覚悟するんだな蓮人。本当のことを白状してもらおうか。」
「本当のことっていってもな。絶対信じないし、半分も聞かずに噂広めるだろお前。岡田先生の二の舞はごめんだぜ?」
「なぁんてね。嘘だよ蓮人。」
こちらの言葉を聞いた後、冷や汗を浮かべつつ正反対のことを言い出す渚。やはりそうか。岡田先生の誤報も、、、
「ん?自分に都合悪いこと言われたから今回は諦めるってか?分かりやすいなアンタ。」
「ま、蓮人はお得意さんだからねぇ。最後まで信じて見守っておくよ。」
「勘違いされてる気がするが、まぁ追及はしないどくよ。変に噂広められるよりはずっとマシだ。」
「ただ、蓮人。」
「何だ?」
先ほどのおちゃらけた様子とは一転、少し心配そうな顔でこちらを見る渚に、思わず振り向いてしまう。
「流石にまずいラインは知ってるよね?まずいからね?本当にまずいからね?」
「何を想像してんだよ!」