御影凛という人物~客観~
「ふぅむ。つまりあいつらは、夢を喰うバクみたいなモンで、今僕を喰うために襲っていたと。」
「『バク』ではなく『魄』です。」
「あーはいはい。そんなことも言ってたね……。」
傍から見ると、イタいというか、カワイソウというか・・・。そんな会話なのだけれど、既に目の前で起こっている出来事なだけに否定もできない。
「はい。そこで現れたアナタサマですよ。私らと同じで、何かしら訳アリのようですけど。」
女が、興味津々にこちらを見やる。
「別に。何を求めてるか知らないけれど、探ったところで何も出ないし、つまらないだけだよ。」
ん、私ら?ってことは他にも人がいるのか。ってか、訳アリってなんのことだろう。疑問はつきないけれど、取り敢えず話の腰を折らないよう、適当に合わせておくことにした。
「では、この世界の絡繰りはわかってきたところで……自己紹介、してませんでしたよね?結構重要なんじゃないですか?」
正論だ。流石に敬語を不使用という縛りは慣れてきたものの、名前が分からないんじゃ同じくらいに話しにくい。いや、敬語を使わないのも今でも結構心苦しかったりするのだけれけど。
「じゃー僕から――――」
「私はですね!この世界に放り込まれし第二の使途、御影 凛です!」
何というか、その後、その第二の使途の立ち位置やらなんやら、面倒くさそうな設定を説明し始めたから、カワイソウな人を見る目で見てやったのだけれど、すっかり自分に酔ってしまった彼女は気づいてないようだ。どから取り敢えず、『第二の使途ってことはやっぱ最初の一人がいるのかー』といった、割りと重要そうなことを考えていた。
「貴方はなんて言うんですか?女子に先に名乗らせるのはマナー違反でしょう。」
やっと説明が終わったらしい。彼女ーー御影凛が、僅かに息を切らせて言う。
こっちから言おうとしたじゃんかよ、といった突っ込みはしない。
突っ込む気力もない。取り敢えず、スルーの方向で行く。
「あー、えと、蓮人。井守 蓮人だ。」
「へー、、、ダサい名前ですねぇ。」
「うっせぇよ。」
もっと他にも変わったとか珍しいとか言い方あったろうに。呆れやら憤りやらで立とうとした瞬間。
「おっと、危ないですよっと。」
素早い動きで放たれた矢が、僕の頬をかする。後ろでズブリ。と嫌な音がし、すぐに怪物の咆哮で打ち消された。
「無防備すぎですよー。もっと周りを見ないと。」
「あ、あぁ。ありがと。」
こちらは半腰もまま、表情も固まってしまった。
「ま、話はここまでにしましょうかね。これ以上は危険ですから。」
「あ、じゃぁ僕はどっかに隠れとくよ。」
「え?」
「は?」
先程の怒りに満ちたような声ではなく、本当に疑問に感じているような声。
「いやぁ、働いて貰わないと。ここに安全地帯なんて皆無ですし。」
「それにしたって、、、武器ないんだぜ?素手で戦えってか?」
「あ、そうでしたねー。」
「おいおい、、、」
なんなんだこいつは。どこか抜けてるというか、、、あれだ。変人って奴。
一方、御影の方はうんうんと暫く頷いている。どうやら何か考えているようだ。
「そうでしたねー。いやー、忘れてました。そうか、じゃあ。
選んでください。」
そう言って腕を振るったかと思うと、御影の手元から、無数の――――。
本当に、多種多様の、さまざまな武器が、
こちらに向かって、飛んできた。
「うわ!?うわわわわ!?」
さっきの矢のように、辺り一帯に武器が刺さる。慌てて避けながら捌くうちに、無事な右手が何かずっしりとした質量のものを掴んでいることに気付いた。
「あー、そーいや片腕ないんでしたねー。いやー、すみません。」
御影はこちらが怪我人ということを忘れていたようで、頭を掻きながらこちらに振り向いた。
「おろ?」
振り向く途中で動きが止まった。その視線の先は、僕の右腕だ。正確に言うと、僕が今掴んでいるモノ。
「あっれー?そんなの投げましたっけ?」
日本刀というか大太刀というか・・・。奇妙なその刀は、あまりにも普通に、僕の右手に存在していた。