回想
僕があの暗闇で見た葬式。
やはりあれは、過去にあったものだそうだ。そうだ、というのは、「他人」として見ていた朱肚の記憶を、まだ僕の頭が自分の記憶として処理できていないだけでーーーまぁ、きっそそれもそのうち同化してくるんだろう。
あぁ、そう。朱肚の正体についてだけれど、僕が抱いた初印象である、「昔の僕まんまの姿だ」というのはあながち間違いでもなかった。
外見の通り、5.6歳の頃、幼い僕にとって耐え難い悲しみがあったらしい。それが、あの葬式。何を隠そう、我が母の、葬式。
そんな人生におけるビックイベント、忘れていたなんて恥ずかしい。そんな言葉は、思い出した今だからこそ言えるんだろうけど、恥ずかしながら、未だ、完全に思い出せた訳ではない。
例えば、『死因』とか。他にも色々とあるのだろうけど、まずこれだけはどうやっても思い出せない。仕方がないから朱肚なんかにも聞いたりしたけど、「そのうち分かる。」そう言われたっきりだった。
あとは、何を話すべきだろうか。
え?悲しくないかって?そりゃぁ、悲しいよ。朱肚に言ったように、最悪の気分だ。
けれど。
泣き叫ぶような衝動は、今の僕にはない。これについてはなんの説明もなかったのだけれど、きっと僕はこうだろうと仮定する。
朱肚が、全部持っていってくれたんだと。
いや、そんな綺麗事でもないのかもしれないのだけれど。
『悲しみ』に出会い、今にも崩壊しそうな心が、無意識に必要な部分だけを切り取って、護って出来た今の僕。対して、言い方は乱暴だけれど、余った部分、切れ端が、『朱肚』として、陰から僕を守り続けてくれたんじゃないか。
まぁ、あくまでも仮定であって、本人に確認しようにも「どうせ俺は余るものですよ」何て言って拗ねてしまうのが関の山だろうから、確認まではしないけれど。
ってあれ?妖刀としての朱肚は、瞬火さんも知っていた気が?まぁ、さっきの仮定と一緒に機会があれば聞いてみることにしよう。
ーーーーーーーーー
「といった、感じじゃないですかね。」
そんなことを言って、僕は話を締めくくっり、二人の反応を伺う。
「何て言うか...重大な発見をしたようで、まだ何か隠れてる感じだねぇ。」
「まぁ、そんなこったろうと思ってましたけど。」
何だろうか。二人の反応が微妙だ。
「ま、やっとスタートラインに立てたってことさ。蓮人クンの場合、そんな簡単に事が進むなんざ思ってなかったからねぇ。」
あろうことか、そんなことまで言い始める。
「ちょ、ちょっと!もう解決したってことで良いんじゃないですか?ってか、もうこれ以上の面倒事は御免ですよ、僕。」
突っかかるように捲し立てる僕を、嗜めるように御影が口を開く。
「気持ちは解りますけど、第一段階をクリアってだけで、物事が進む状況じゃ無いんですよ。」
「第一段階って...」
「ところでさ、蓮人クン。」
「はい?」
「魄がオレ等を襲う理由って何だと思う?」
「さ、さぁ?」
咄嗟の質問だったために、ろくに考えもせずに答えるけど、どうやら瞬火さんはあまり答えを求めていなかったようだ。
例えるなら、文章を始めの、問題提起ってとこだろうか。
「これはあくまでオレの推測なんだけれどさ。」
そう言って、瞬火さんは言葉を紡ぐ。
「魄の目には、オレ等が食材として写っている。そうだろう?」
「ま、まぁ。ホントに不愉快ですけど、そうなりますね。」
僕の相づちに瞬火先輩はニヤリとし、続ける。
「だとしたらさ、今のこの状況は、彼等にとって食材の調理なんじゃないかな。」
「は?」
「いやぁ、あくまで人間と同じような思考を持っていると仮定するとしたら、だけど。」
人間が料理に嗜好を凝らすように、彼等も複雑美味なな『夢』を求めて、調理しているんじゃないか。
そんなようなことを、瞬火先輩は言った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。母さんは、その『調理』の為に死んだって言うんですか!?」
「今のところは解らないけどね。ただ、ここに来た者。連日報道されてる行方不明や脳死患者の多くがここで『悲しみ』を感じ、魄の口の中へ消えていった。」
「そんな...」
狼狽える僕に、コロッと口調を変えた瞬火さんが、優しい声をかける。
「ま、それを逆に考えてみようよ。」
「はい?」
「オレ等がーーホントに言い得て妙だけど、『不味く』なれば、彼等はもう襲ってこないってことだろう?」
「でも、どうやってーーー」
「なぁに、至極簡単なことさ。」
悲しみを知り、打ち克つ。そして、なんら一般人と変わらない思考を持てば彼等にとってオレ等を襲う理由はなくなる。
だから
「君にもその奥底に隠れてる何かをさらけ出さしてもらうよ。例え、泣いて嫌がってもね。」
大分遅れました!ついでにTwitter始めました。Onisohで探せば出てくると思います。(こんなのでフォローしてくれる人がいるのかどうか...)