少年朱肚
「えぇと、どういうことですかね。」
戸惑ったように薄い笑みを浮かべる御影。だけど、その表情は彼女のメッセージを的確に伝えていた。
なんの冗談だ? と。
直訳するならばこんな感じだろうか。いや、テレパシー能力なんてないし、以心伝心なんてものがあるほどの仲じゃない。けれど、内包されたメッセージを隠すには、あまりにその笑顔は攻撃的すぎた。
ごくり
と、少年は生唾を飲む。彼も、その笑顔の裏の殺気に気付いたらしい。僅かにその身を震わせつつ、それでも目線を外すことなく、言葉を吐いた。
「妖刀朱肚。さっきあんたらの話題に上がってたろ?説明は不要だと思うけど。」
というかこいつ、敬語使わないのな。随分と小さいようだから仕方無いといえば仕方ないんだけれど。―――――いや、それだけじゃない?この子供の話し方に僕は、歳不相応な何か重いものを感じた。僕が抱いたそんな疑問を知ってか知らずか、それでも余計な気遣いのない話し方を御影は気に入ったようだ。かすかな警戒心はそのままだけれど、随分とその表情は和らでいる。
「そして、蓮人がここで手にした力。・・・って、この言い回しは痛いか。」
そんなことを言いながら、彼は話を僕に振った。
「えっ?」
完全に聞き手にまわっていた僕から発せられたのは、そんな情けない声だった。少年(朱肚?)の視線につられ、先輩方の目もこちらを向く。
「まぁ、そんなこったろうとは思ってましたけど・・・。」
「は?どういうことだよ。」
「だって、その刀自体、蓮人さんが使ってたじゃないですか。」
「まぁ、そうだけどさ・・・。」
さも当然。といった様子で言ってくる御影だけど、何故僕がそれを持ってたかがわからないわけで・・・。
「な~んか、いわくつきみたいだよねぇ、その刀、そして君は。」
瞬火さんが、ちらりと品定めするように僕を見て、まぁ、ここにいる時点で何かしら狂っちゃってるんだけど。と続けた。
「先輩。どういうことで――――」
「どうもこうも、お前が原因だろうが、蓮人。」
不思議そうに尋ねる僕に冷たい声が浴びせられた。
「えぇと・・・朱肚君・・・で、いいのかな?」
なんだろう、僕、この子に嫌われてる?とりあえず、一方的に悪意を向けられていてはどうしようもないから、フレンドリーに話し掛けてみる。
「随分と他人行儀じゃないか、蓮人。」
「へ?」
だから、何でこの子はこんなこんな厳しいの?
「もしかして、『自分には一切関係ない。今の状況がわけわからない』とか、思ってないか?」
挑発するように僕の声真似をしつつ言う朱肚。むかつくけど、その声真似がうまくてさらにイラっとした。・・・というか、地声自体が小さいころの僕の声にそっくりなのだけれど。
「まぁ、仕方ないってことなのか?俺自身が原因といえば原因だしな。」
「あの、イライラしてるのはわかりますけど、もう少し簡単に言えません?」
完全に黙りこくってしまった僕の代わりに、御影が口を開いた。
「なに、簡単さ。これひとつで終わる。」
少し不機嫌そうに歩み寄ってきた彼は、僕の額に指を突きつけて―――――
「――――――ッ!?」
何だ?これは・・・。情報が記憶が、流れ込んで――――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
頭痛が、全身に広がっていく。あらゆる苦痛を詰め込んだそれに、僕の意識は余りに容易く、暗転した。