少年
「「・・・。」」
僕と瞬火先輩。二人の視線が、じっとりと御影に向く。
「そんな目ぇしないでくださいよ。いきゃぁいいんでしょ、行けば。」
「やれやれ・・・・」溜息をつきながら、声のした方へ御影が歩いていく。僕らもそれに続いた。
「ここ、でしたっけ?」
「声がした方向はここだったと思うけど・・・、あちゃー滅茶苦茶じゃん。どうすんの、これ。」
瞬火さんが飛んで行った(と思われた)宮殿は、中央部分から綺麗に崩れ、元の荘厳さが見事に失われてしまっていた。
ーーーさっき声を聞いた限りだと、「いてぇっ!」って言ってたけど、それだけで済むレベルかな、これ。
「ま、とりあえず私ひとりじゃ無理ですから、手伝ってくださいよ。」
よいしょ。と力を込める彼女は、明らかに人力では動かすことすら不可能であろう瓦礫を持ち上げている。
まぁ、ここ自体空想の産物だから、ある程度は無茶できるんだろうけど・・・。にしたって異常な光景だ。でも、まぁ、もう慣れた。とりあえず、溜息をつきつつも、近くの手軽な瓦礫から運び出そう。
そして――――――
「おーい。蓮人君。こいつじゃないのかい?」
そう言って瞬火さんが瓦礫の中を指さす。瓦礫がどかされ、できた何もない空間に、黒服の少年が倒れている。見た目は、五、六歳だろうか。どうやら、先程叫んだあとは、すぐに気絶してしまったみたいだ。
ーーわだから、気絶で済むようなパンチじゃなかったと思うけどなぁ。
「ーーーんぅ」
そんなことを思っていると、微かに声をあげて、子供が目覚めた。
「やぁ、うちの仲間が悪かったねぇ。怪我はないかい?」
瞬火さんが、人懐っこい笑顔を浮かべ、少年に話しかける。
「あれ?俺、どうなってーーーッ!」
先程のパンチで、直前の記憶が吹き飛んでしまったらしい。まだ残っているであろう痛みに、彼は顔を歪めながら体を起こした。
「いやぁ、うちの仲間が悪いねぇ。」
「瞬火さんが避けたのが悪いんでしょうが。」
先程の怒りが蘇ったらしい。御影がこきりと首を鳴らして言う。
「はい怒らない怒らない。ほら、この子怯えてるじゃない。」
瞬火さんがなだめるが、その効果は全くないようだ。・・・というか、寧ろ怒らせようとしているようにも見える。
「とりあえず、名乗ってもらいましょうか。呼び方がわからないんじゃ不便ですし。」
怒りを紛らわせるためか、御影は唐突に話題を変え、『あの日』ーーーといっても、昨夜だけれど。僕に質問したように、名を問う。
「もっと心を開いてからじゃないか?っていうか、それ以前に事故だったとはいえ殴ったことへの謝罪とか・・・。」
僕の反論に御影は「仕方ないですねぇ。」と溜息をつき、言葉を切り出そうとしてーーー
「朱肚。」
黒服の少年が、御影の言葉を遮った。そして、言った。
彼自身の名を。
「さっき、アンタらの話してた、妖刀、朱肚だ。」