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エコー  作者: 日下真竹
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学校と怪談

 翌日、案の定体を冷やしてしまった僕は、朝方の体にいつもより酷いだるさを感じながら朝食を飲み込んで家を出た。僕の通っている学校は全校生徒が50人に満たない小規模なもので、欠席した生徒は他学年であろうとも簡単に特定することができてしまうのだった。特定されるのが嫌というのがだるい身体に鞭打って登校する理由の半分くらいで、もう半分は欠席した時に誰かが配布物を家に届けるために訪ねてくるのが嫌だったからだ。なんとなく体が冷えてだるいだけで、風邪をひいたわけではないのだと自分に言い聞かせて、機能は休暇を与えていた愛用の自転車にまたがる。

 まだ道路には乾ききっていない水溜りが散らばっており、流れ出した土で茶色くなっていた。昨日レインコートの女性と出会ったバス停もあっという間に通り過ぎる。ふと彼女の顔がうまく思い出せないことに気がついて奇妙に思ったが、暗かったせいだと気にしないことにした。親切にしてくれた人の顔を忘れてしまったことが少し心苦しかった。

 遅くもなく早くもない、学生のルーズな時間感覚で言えばかなり早いくらいの時刻に教室に入ると、僕と比べたら気味の悪いくらい元気のいい同級生たちが投げかけてくる挨拶に返事をしながら席に着いた。顔色の悪さをいち早く指摘してくる世話焼きな女子生徒なんかもいた。僕は別段クラスの人気者でもないし、その逆は僕の見る限りではこの学校にはいない。みんないいやつで、個性はあるはずだけど、学校という環境が生徒たちをひとつの集団にまとめあげているせいでかえって当たり障りのない印象に収まっていた。人間十人もいればグループが分かれていくものだと何かの本で読んだ気がするのだが、この学校の生徒たちにその傾向は薄かった。だから時々、親友はいますか、なんて類の質問にみんな揃ってつまづいて、まごまごするのがこの学校の特徴かもしれなかった。

 朝のホームルームが終わり、一時限目に使う教科書をカバンの中から選んでいると、教室のどこかからありがちな噂話についての会話が聞こえてきた。


「林の先にある家、前々から幽霊の噂とかあったけど、今度はどうもホンモノっぽいぜ」


「見た人がいっぱいいるんでしょ? 先生たちの中にも見た人がいるって」


 林といえば、あのバス停の近くの雑木林を指していうのがだいたいのことだった。数ヶ月に一回はあのあたりで変なものを見たという噂が立っては、一週間も持たずに消えていくのだ。今回は信ぴょう性のだしに大人たちの名前まで出されているが、当の大人たちは不審者かなにかだと考えて対応していることだろう。

 不思議なことなんてそんなにない。あるとしたら、人間の頭の中にこそあると僕は思う。これも何かの本で読んだ情報なのだけれど、ともかく僕はそういった怪奇現象に興味はなかった。それを肯定するとしたら、僕は既に巻き込まれているかもしれないということを頭の片隅に追いやっておいた。


 その日の授業が全て終わった頃には、また天気が傾きだしていた。昨日で退職することになった折りたたみ傘は今頃骨とビニールに分解されて、ゴミ捨て場で回収日を待っていることだろうし、今日は愛車と一緒に登校しているため。雨に降られてしまっては困る。今度こそ体調を崩しかねないし、二日連続で母に服を剥ぎ取られるという恥ずかしめを受けるのは勘弁して欲しい。風邪が悪化したとなれば、きっとそれだけで許してはくれないことだろう。

 クラスメイトとの別れの挨拶も程々に、愛車にまたがっていつもの道を急いだ。しかしいつもはあっという間に感じる帰り道も体のだるさを思い出したせいかなかなか進めず、あのバス停が見えたあたりで本降りになってしまった。

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