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そして、今に至る。
確かに不名誉な事ではないし、光栄な事だ。
それは理解しているけれど、自分に務まるのか、未だに不安なのだ。
「デニス様は、私のところへ、よく相談に来られていたんですよ。そろそろ姫様の事を若い人間に任せようかと。そこで名前が挙がっていたのが、ヴィクター様でした。姫様に仕えるのをヴィクター様に託す時に、私に言いました。『彼は若いし、将来も有望。一番信頼して彼に託す』と。他の方は思いつかなかったそうです」
「……そんなに信頼されているのは、知りませんでした」
「それに、少しでも姫様の心を開いてくれるのではないか、と仰っておりました。ですが、それに関しては、私からヴィクター様にくれぐれも注意して頂きたい事があります」
「何でしょうか」
一呼吸置いて、グレイテルは告げた。
「姫様の事は、誰にも聞いてはいけません。特に生い立ち、過去の事です。姫様自身にも、私にも、この城の者にも、街の者にも」
「……誰にも、ですか?」
「はい。これは、姫様から直々に命を受けている事項です。ですから、何も聞かずに、何も考えず、姫様に接して頂きたいのです。一人の女性として、一国の姫として」
誰もが秘密にしたい事はある。
多分、その類だろう。
それは聞かれたくない事もあるし、話したくない事もあるだろう。
「わかりました」
ヴィクターは深く考えずに、グレイテルに答えた。
納得するように頷いて、言った。
「もし何かわからない事や、不安な事があればいつでも私のところに相談に来てください。後、姫様にお仕えする時も、構えずに普段通り振る舞ってくださって結構ですので」
そしてその日から、ヴィクターがノルンに仕える騎士としての日々が始まったのだった。
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