10.黄昏姫と騎士
その日を境に、ノルンはヴィクターに愛される事が辛くなくなった。
胸も痛くはない、何もなかったように。
ヴィクターも最初こそは遠慮気味だったが、今では自然にノルンに触れることも出来る。
何より、ノルンはヴィクターと生きて行くと決めたのだ。
お互いに、それがいいと思った。
「ノルン」
「何? ヴィクター」
ふと、ヴィクターはこんな事を問いかける。
「俺の事を、憎んでいる? 目の前で、君のお兄さんを殺した事を」
ずっと気になっていた。
ノルンは自分を恨んでいるのではないか、と。
すると、こんな返答が返って来た。
「いいえ。私は、ヴィクターを全然憎んでも、恨んでもいません」
「……本当に?」
「気にしていたのですか?」
「それはするよ。……あまりにも償いきれない事をしてしまったんだから」
「でも、ヴィクターは、私の傍にずっといてくれると、約束してくれた。ですよね?」
確かに。
恋人になった時に、ノルンは言った。
――私に、何があっても。ずっと傍に、居てくれますか?
それに「必ず」と答えたのはヴィクターだ。
「ですから、いいのです。……それに、もし呪いが解けていなかった、としても。私は、あなたに愛されて死ぬのなら、本望です」
「……ノルン……」
「ヴィクター、愛しています。私をずっと、ずっと愛し続けてください。私も、ヴィクターを愛し続けます」
そう言ったノルンの表情は、不思議と笑顔で。
――ノルンの笑顔を、初めて見た。
ヴィクターは少し驚きながら、嬉しくなった。
やっと、笑ってくれた。
そう思って。
「俺も、ノルンを愛し続けるよ。――愛してる」
そう言って、抱きしめてノルンの唇に口づけた。
不思議と自然に身体が動いて、自然な動きで。
だけど、ノルンもそれを自然に受け入れていた。
ノルンはそれを自然に受け入れながら、思った。
――いつかまた、魔女が私を迎えに来るのかもしれない。きっと、その時は。
また、ヴィクターが自分を守ってくれる。
それに、自分は永劫、彼のものだから。
誰にも奪わせない。
自分も、彼も。
心に強くそう秘めて。
「――愛してる、ヴィクター」
そう言って、ノルンからもう一度、彼にキスをした。
<了>
二作目の投稿です。
中々上手く進まず、色々悔いが残る感じになっているので、修正をかけながら、頭を切り替えて次の作品も書いて行こうと思ってます。
ここまで読んで頂いてどうもありがとうございました。




