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9-3

「ノルン様! ご無事ですか!?」


 デニスの声が聞こえたのは、その直後だった。


「……姫様は、無事です。魔女の討伐も、完了しました」


 ヴィクターの声音が優れない。

 眼前に見えた少年に、デニスは言葉を失った。

 共に追いかけて来たグレイテルも、同じように言葉を失う。

 その少年に、二人は見覚えがあったからだ。


「……エルン、様……?」


 信じられない、というような声で、グレイテルが少年――ノルンの兄の名を呼ぶ。


「ヴィクター、これは、どういう……?」


 やっと出たデニスの言葉も、少し震えていた。


「……彼が、魔女であった、としか、私には申し上げる事が出来ません」


 目を伏せ、罪悪感に満ちた声で、ヴィクターは報告した。

 まだ理解出来ない。

 自分は〝魔女〟をこの目でしっかりと見て、それを〝殺した〟はず。

 なのに、眼前に倒れる少年は、ノルンの兄だ。


「デニスさん」


 ヴィクターの胸に抱かれ、自ら顔を上げ、デニスの目を見て、ノルンは言った。


「ヴィクターは、魔女を殺しました。……ですから、彼を責めないでください」


 それは、幼い頃、ノルンが両親を失ってから次の日、その事実を誰にも言わないでほしいと懇願した瞳と酷似していた。


「……ノルン様。私はそのような事は致しません。ヴィクターは〝魔女〟を討伐した。それは事実ですから、ヴィクターを咎めるような事は致しません。何より、ノルン様をお守りしたのですから、その必要もありません」


「……デニス団長」


「知ったんだろ? ヴィクター。姫様の全てを」


「……はい」


「お前は、姫様の過去を抱えて生きて行く覚悟はあるか?」


「……はい。もちろんです」


「なら、お前を咎める必要も何もない。……よくやったよ」


 褒められても、嬉しくはなかった。

 罪悪感だけが色濃く居残っている今のヴィクターには、どんな賛辞ですらも、嬉しく感じられなかった。


「……ここでは何ですから、お部屋へ」


 倒れ伏したノルンの兄を置いて、グレイテルは誘導するようにそう言った。

 ノルンはただ、兄の姿を悲しい瞳で見つめながら、小さな声で呟いた。


「……ごめんなさい、お兄様」


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