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7-8

「今日も、ですか」


「はい。申し訳ありません、ヴィクター様。昨日からまだ体調のほうがよくないのです。心配をおかけしたくないので、という姫様の意向で、今日も姫様とはお会い出来ません」


 そう言って、グレイテルはヴィクターに背を向けた。


「あの」


「……何か?」


 ヴィクターはグレイテルを引き止め、聞いた。


「姫様は、何かの病気でも、抱えていらっしゃるのですか?」


 その問いかけに、グレイテルはヴィクターに見えないように顔を強張らせた。

 それを悟られないように、ヴィクターに向き直って、言った。


「……最初に申し上げたはずです。姫様の事は、お答えできません」


「姫様に何を口止めされているんですか?」


 ヴィクターの口から不意に出た言葉。

 聞いてはいけない事だということぐらいわかっている。

 けれど、聞かずにはいらなれなかった。


「姫様は何を隠しているのですか。俺はただ、それが知りたいだけです」


「お答えできません」


 そう言って、グレイテルは踵を返す。


「グレイテルさん!」


 大声で引き止めようとした瞬間。


「ヴィクター、何をしている」


 聞き覚えのある低い声が、背後から聞こえた。

 振り返ってみると、立っていたのはデニスだった。


「……デニス団長」


「今日も姫様はお前にお会いになろうとしなかったんだろ? 速やかに自室へ帰れ」


「しかし……!」


「お前が姫様を心配する気持ちはよくわかる。だがな、姫様の事は聞くなと言ったはずだ。これ以上、お前が姫様の事を他人から詮索するようであれば、即刻、姫様の専属騎士としての仕事を辞めてもらう」


 睨みをきかせたその瞳は、その言葉通りの事をする、と物語っているようだった。

 ヴィクターは歯噛みして、振り絞るような声で言った。


「……わかりました。グレイテルさん、しつこくして、申し訳ありませんでした。また、明日来ます。失礼します」


 グレイテルに向け頭を下げ、ヴィクターはその場を後にした。

 納得がいったわけでは決してないし、そもそも納得はしていない。

 けれど、これ以上の詮索は、ノルンと会うことが出来なくなるということにも直結してくる事項だと思った。

 だからヴィクターは、これ以上の詮索を止めた。

 ノルンが何を隠しているのかわからない。

 けれど、彼女を心から愛している、離したくはないし、自分の行動で傷つけたくもない。

 知る事が出来ない。

 もどかしかった。

 少し肩を落としたように、自室へと戻ってゆくヴィクターの後姿を見送りながら、デニスはグレイテルに聞いた。


「姫様の様子は?」


「……目を、泣き腫らしておりました。この状態ではヴィクター様にはお会いできないと」


 目を伏せて、グレイテルが言う。


「どうして、魔女は姫様にこんな仕打ちをしたのでしょうか」


「呪いの事ですか?」


「ええ。涙を流せなかったのも、全て魔女のせいだと、私は思うのですよ。……幼くして、ご両親を目の前で亡くされているわけですから」


「……」


 デニスの脳裏に、あの日の惨状が甦る。

 血に塗れた部屋、亡くなった両親、それを呆然と見る、幼いノルン。

 涙を流さずに、事実だけを受け止めて生きてきた。

 もう少し気付くのが早ければ、助けられたかもしれないのに。

 それは、デニスがずっと抱えている後悔でもあった。


「姫様は仰っていたのですよ。……今日が自分の終わりであったら、最後にヴィクター様に会いたいと」


 愛すら知らなかった彼女に愛を教えたのは、ヴィクターであって。

 目を伏せて、デニスは言った。


「出来ることなら、会わせてやりたいんですよ、俺も。……でも、どこかで恐れている。お互いに苦しみあうのは、見たくはないですから」


「それは、ヴィクター様の上司であるからですか?」


「それもあります。しかし、何より、姫様の専属騎士としてあいつを指名したのは、俺ですから。あいつも後悔するでしょうが、俺のほうがきっと、後悔してしまうと思います」


 幸せにはなれないかもしれない。

 けれど、幸せになって欲しい。

 葛藤の狭間。


「――俺は姫様をお守りします。自らの命を賭けて」


 ふと口をついて出た決意。

 秘密を守り通せるという自信は、もうない。

 けれどお互い辛い思いをするぐらいならば、出来る限りは隠し通そう。

 そう告げた瞬間の出来事だった。

 城内が、急に騒がしくなったのだ。


「……グレイテルさん。姫様の傍に」


「デニス様。この騒ぎは……?」


 グレイテルにも覚えがあった。

 あの日と、似ているのだ。


「……魔女が、やって来たのかもしれません。姫様を、奪いに」


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