7-7
次の日、結局まともな睡眠がとれないまま、目を覚ましたノルン。
泣きすぎて、頭が重く、痛かった。
窓の外は昨日の雨が嘘のように、綺麗に晴れていた。
眩しい朝の光に目を細めながら、横になったまま、動かずにいた。
起き上がる元気もなかったし、多分今日もヴィクターに会える状態ではない。
心配はさせたくない。
困った顔も見たくはない。
会いたい、けれど、我慢をしよう。
そんな事を思いながら、窓の外を眺めていた。
「姫様。朝食をお持ちしました」
扉の向こうのグレイテルの言葉に返答しなかった。
グレイテルは気にせず、ノルンの部屋に入り、いつものように朝食をベッドの脇にあるチェストに置く。
ノルンの顔色、様子を窺うように、グレイテルは問いかけた。
「今日のヴィクター様との謁見は、どうされますか?」
昨日は会わなかった、あの精神状態では会えなかった。
今日は、こんな顔では会えない。
そう思って、ノルンはグレイテルに言った。
「……今日も、会いません。こんなに泣いた酷い顔でヴィクターに会ったら、きっと心配させてしまうから」
「そう、ですか。わかりました。ヴィクター様には、今日もお会いできないという事をお伝えしておきます」
力のないノルンの言葉に、グレイテルは不安を覚えた。
誰よりも重い運命を背負っている彼女。
愛することも、愛されることも出来ない。
彼女の事を考えると、胸が掴まれるような思いだった。
「……食事を置いておきます。また、取りに参ります」
きっと、そっとしておいたほうがいい。
そう思って、部屋を出ようとした瞬間だった。
「グレイテル」
ふと、ノルンに呼び止められる。
「どうされましたか?」
いきなりの事で驚いたが、いつも通りに彼女のもとへと戻る。
ノルンは窓の外を見たまま、言った。
「もし、今日が私の終わりだったら。……本当は、最後にヴィクターに会いたい」
震える声音、泣いているのか。
どんなに泣いても、止まらない。
グレイテルはそんなノルンに優しく声をかけた。
「きっと、ヴィクター様も同じですよ。……早く、姫様に会いたいと思われています」
そう言って、部屋を出た。
ノルンの辛い顔を見るのが、最も辛かった。
「……姫様は、何も悪くはないのに。魔女は、どうしてこんな仕打ちを……」
目を伏せて、誰にも聞こえないように呟いた。
全てを壊したのは、魔女だ。
彼女は、本当の幸せも愛も知らないまま、死んでいくのだと思うと、胸が苦しかった。
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