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2.出会い

 ノルンとヴィクターの出会いは、彼女に仕える騎士として選ばれた瞬間だった。

 ヴィクターが騎士団に入団したのは、二十歳の頃。

 生まれながらの剣の才能を認められ、騎士団指折りの剣使い(ソードマスター)だった。

 そして、入団して一年、二十一歳にして騎士団長に選ばれ、同時にノルン専属の騎士としても選ばれた。



 その日、ノルンとの初対面の日。

 ヴィクター自身、彼女の事をよく知らなかった。

 このイソレイド城の姫であるという事と、〝黄昏姫〟の名で呼ばれている事だけ。

 彼女の世話係だと言うグレイテルという女性に連れられ、なぜか謁見するのは彼女の部屋だと聞いた。

 グレイテルは四十代の女性で、世話係という肩書きからか、ロングのメイド服を着用している。

 聞くところによると、メイド長で、この城にいて長いのだと言う。


「どうしてノルン姫のお部屋で? 通常はそうではないですよね?」


「はい。通常でしたら、王室できちんと謁見をなさいますが、姫様はお部屋からあまり出たがらないので。なので、お部屋でと、姫様ご本人からの希望です」


 それを聞いて、変わり者の姫なのだろうか、と一抹の不安がよぎったのは事実だった。

 グレイテルはある部屋の前で止まった。

 習ってヴィクターも止まる。

 何の変哲もない、普通の部屋の扉。


「姫様。お連れしました。入りますよ」


 ノックをしてグレイテルがそう言うと、扉の向こうからの返答はない。

 返答がないにも関わらず、慣れたようにグレイテルは扉を開く。

 部屋は広く、天蓋付きの淡いブルーのアイアンベッドに、猫足のクリーム色のチェスト。

 大きな窓にはレースのドレスのような真っ白なカーテン、天井にはシャンデリア。

 窓際にあるチェストと同色同型の角型スツールとデスクがあり、そのチェストの上にはベッドランプも兼ねていると思われる鈴蘭の形をしたランプが置いてある。

 そのスツールに、ノルンは座っていた。

 こちらには一切目もくれず、窓の外を眺めていた。

 淡い金色のストレートのミディアムヘア。

 真っ白な肌、腕回りと背中が編み上げになっている白いロングドレスに身を包み、しばらくしてからこちらを見る。

 青く澄んだ瞳、射抜くような視線ではなく、ただぼんやりとこちらを見るような瞳で、ヴィクターを見た。


「姫様。彼が本日より姫様専属の騎士になられる方です」


「ゼスティ騎士団所属、騎士団長ヴィクターです。本日より、姫様専属の騎士として配属されましたので、ご挨拶に参りました」


 恭しく頭を垂れると、ノルンは小さな声で言った。


「……私はノルンと言います。私は、堅苦しいのは少し苦手です。どうぞ、普通になさってください」


「ですが、私は姫様をお守りする立場。無礼な発言など許されません」


「……顔を上げてください。グレイテル、この方にも、色々とお手伝いをしてください」


「かしこまりました」


「ヴィクターさん、と申されました、よね?」


「はい」


 青い瞳と漆黒の瞳が交わる。


 ――儚い、瞳。


 顔を上げたヴィクターがその瞳を見た感想がそれだった。

 穏やかな海のような青、それでいて、どこか儚く見えた。

 一方のノルンもヴィクターの瞳を見て思った。

 真っ暗な闇、吸い込まれてしまいそうな、誰もが畏怖するような、瞳。

 だけど、それは恐ろしくはなかった。


 ――しっかりと意思を持った、瞳。


 ノルンが感じたのは、そんなイメージだった。

 互いの瞳が交わったまま、ノルンは言った。


「……よろしく、お願いしますね」


 言葉に詰まったのは、別の何かを告げようとして、やめたから。

 ノルンは自分の事を言おうと思って悩んだものの、彼には黙っておこう、と思ったからだ。

 余計な心配や迷惑をかけたくなかったからだ。

 一国の姫として、生きている以上は。


「かしこまりました。我が身が朽ち果てようとも、姫様をお守りいたします」


 しっかりとした口調で、ヴィクターはノルンに告げた。

 ノルンが言葉に詰まった事さえ、気づかないまま。


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