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7-2

 それは、今朝の事だった。

 グレイテルがノルンの部屋に、いつものように朝食を届けた際に、異変に気付いた。

 ノルンは、声を出さずに泣いていた。


「姫様! どうされたのですか?」


 グレイテルは突然の事に驚いて、すぐさまノルンの傍に駆け寄った。

 ノルンが泣いている姿を見た事がなかったグレイテルは、動揺していた。

 ノルンは小さな声で、言った。


「……悪い夢を、見たの。怖い夢だった」


 ノルンの声音は怯えるような、そんな声をしていた。

 グレイテルは、聞いてはいけないような気がしながらも、夢の内容を聞いてみる事にした。


「姫様。……もし、差支えがなければ、その夢の内容を、教えては頂けませんか?」


 俯いたまま少し黙って、ノルンは口を開いた。


「……崖があって、その崖の先に、私が立っているの」


「それは、姫様がその崖の先のもう一人の姫様を見ていた、ということですか?」


「……そう。それで」


 少し辛そうに、一呼吸あけて、ノルンは言った。


「その崖から、崖の先に立っていた私が言うの。感情も失ったような声で」


 その言葉さえ鮮明に覚えていた。


「〝もうすぐここに船が来て、私を迎えに来る。私の終着点へと連れて行ってくれる〟。崖の先の私はそう言って、もう行かなくちゃと、最後に言ったの。そして、私の目の前で、私が身を投じたの。崖の下の、海に」


 グレイテルは、言葉が出なかった。

 それはあまりに残酷な夢。

 聞いた事を、後悔した。


「……申し訳ありません、姫様。辛い夢の内容を、不謹慎にも聞いてしまって」


「いいの。……それで、私、思ったの。もうすぐ、魔女が迎えに来るんだって」


「姫様……」


「ねぇ、グレイテル。私、恐ろしいの。ヴィクターに愛されてるのが、少しわかるようになったの。ヴィクターの言葉に、胸が痛くなって。……ヴィクターは悪くないのに、私はヴィクターを同じように愛す事も恐ろしくて。人を愛せない苦しみを、今凄く感じてる」


 ノルンは、胸の内を吐露した。

 グレイテルに縋るように。

 何も出来ないのを知っていても、聞いてほしかったから。


「私がいるから、いけないの? あの日、魔女が私の事をすぐにでも殺してくれればよかったのに……」


「姫様。いけません、自らを責めるのは。……私にも姫様の苦しみはわかっているつもりですが、これ以上だとは思いませんでした。それでも、姫様には生きて欲しいのです。一人の人間として、ヴィクター様と共に。少なくとも私はそう思っています」


「グレイテル……」


 そして、グレイテルはノルンにこう言った。


「今日は、ヴィクター様との謁見はなしにしましょう。……そのような状況でお会いしても、姫様が辛くなるだけですから。ヴィクター様には体調が優れないのでと理由をつけておきます。今日は、何かあったらすぐに私をお呼びください。デニス様にも私の方から一応お話をしておきますから」


 グレイテルは優しくノルンを抱きしめて。


「姫様は、一人ではありません。姫様は、決していなくなりません。私はそう、信じています」


 そう言った。

 ノルンは、幼い頃に母に抱きしめられたような感覚に陥りながら、必ずしも一人ではない事に、少し安心した。


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