6-3
やがて、少しずつ、ノルンはヴィクターと距離を置くようになった。
普通に接しているつもり。
彼にそう映っていればいい。
ただ、ノルンは普通に接しながらも、壁を作っていく。
見えない壁、見えない殻へ閉じこもるように。
両親が死んだ頃のように、再び。
その中でも、葛藤があった。
ヴィクターに真実を話すべきなのか。
それとも、このまま黙って貫くのか。
――誰かに大切にされて、こんなに辛い事は、残酷な事だ。
彼を嫌いではない、むしろ好きだ。
だからこそ、真実を知ってもらいたくない。
自分の前から離れていきそうで、恐ろしいのだ。
「……もう、何も失いたくない」
月明かりが照らす自分の部屋のベッドで、そう呟いた。
今だって鮮明に思い出す、あの日の事。
夜が来るたびに魔女が自分を奪いに来るのではと怯える。
「……ヴィクター」
一人の部屋で、彼の名を呼ぶ。
「……愛とは、こんなに苦しいものなの……?」
胸が押しつぶされそうになりながら、枕に顔をうずめて、涙を流した。
ずっと我慢していたものが、少しずつ崩れてゆく。
「……今すぐにでも、抱きしめて欲しいのに、叶わないなんて……」
あまりに残酷だ。
そう思いながら、涙を流しながら、やがてノルンは眠りについた。
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