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確かに、ノルンが言ったように、恋人になったという事実を咎める人間は誰一人としていなかった。
しかし、それは一瞬にして広まり、ヴィクターが団員たちの元に帰ると、すでにその話題で持ち切りだった。
「おいヴィクター。お前、あの〝黄昏姫〟と付き合う事になったって本当か!?」
団員の一人が聞くと、全員と言っていいほどの団員たちがヴィクターに群がるように集まってくる。
「ちょ、ちょっと待て。なんで、お前らそれ……」
「もうお前、完全に有名人だぞ。〝黄昏姫〟とゼスティ騎士団の騎士団長が恋仲になったって話、城内どころか街まで届いてるって」
「……」
広まるのが早すぎる。
というか、よもや筒抜けの勢いで、ヴィクターは言葉を失った。
「おいおい。どうやってあの難攻不落のお姫様を落としたんだよ、お前」
「……難攻不落って……。城じゃあるまいし」
「いや、絶対的に心を開かないっていう、あのお姫様だぞ? なんだよ、毎日通ってるから? ……や、でもデニスのおっさんも通ってた事実はあるけど……」
「誰がおっさんだよ、誰が」
頭上から低い声が降って来た。
顔を上げると、少し不機嫌そうな顔をしたデニスがいた。
デニスはそのまま言う。
「俺はやましい事を考えて毎日姫様に仕えてたわけじゃねえよ。ヴィクターもそうだろ」
「あ、はい」
確かにやましい事を考えていたわけではない。
ただ、恋心は確かにあったけれど。
「それにここじゃ、恋仲になったところで誰も咎める事はない。だから俺は別にヴィクターを咎める事はしないし、今まで通り姫様に仕えてくれればいい。だが、今俺が怒っているのは、〝おっさん〟だと言われた事実だ」
その発言をした団員の頭を、げんこつで叩く。
「いでっ! すいませんって。全然悪気はないんですって!」
「悪意はなくとも発言は撤回しろ。……それに、俺が姫様と恋仲になったとしても、姫様と一回り年齢は違うんだ。犯罪ではないにしろ、妙な目で見られるだろうが」
そして、デニスはヴィクターを見た。
その瞳には、やはり凄味が残っていた。
「ヴィクター」
「はい」
「今まで通り、姫様に接しろ。いいな?」
「承知しました」
「じゃ、ヴィクターが姫様と結ばれた事に関しての話はゆっくり食事でもしながら聞こう。お前らは来るな。ヴィクター、俺についてこい」
「は、はい」
そう言って、デニスとヴィクターは団員たちをその場に置いて、部屋を出た。
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