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4-3

「ノルン様。ヴィクターです。失礼します」


 ノルンに仕えて一ヶ月。

 少しずつノルンと謁見する事も慣れたヴィクターは、入室も慣れたように、一言告げてから部屋に入る。

 ノルンはいつもと変わらずに、窓際のスツールに腰掛けていた。

 その傍にはいつも通り、ヴィクターが座るように用意されたスツールがある。


「失礼します」


 そう言って、傍のスツールに腰掛ける。

 ノルンは、一連の行動をするヴィクターをじっと見つめていた。

 腰掛け終わった後も、ヴィクターの顔をじっと見つめていた。


「ノルン様。……俺の顔に何か、ついてますか?」


「いいえ」


「……ええと、では、どうしてそんなに、俺の顔をじっと見つめられているのですか?」


「駄目ですか?」


「いいえ、駄目というわけではありませんが。……そんなに見つめられると、その、照れます」


 普段ならこんな事はないのに、ヴィクターは思った。

 今日のノルンはいつもと違う。

 いつもなら窓の外にすぐ視線を戻してしまうのに、今日はそんな素振りも見せない。

 ただじっと、ヴィクターの顔を見つめている。

 さすがのヴィクターも黙ってしまうし、同時にノルンを見つめてしまう。

 心拍数が上がるのがわかるし、平常心でいられるはずがない。

 ただ、ヴィクターを見つめているノルンが考えている事は全くわからない。

 一方のノルンは、ヴィクターを見つめながらグレイテルに言われた事を思い出していた。


 ――ヴィクター様が好きで、恋をしていらっしゃるのです。


 毎日彼に会いたいと焦がれる気持ちも。

 彼と話している時に心が満たされる感じも。

 彼に見つめられて心拍数が上がる事も。


 ――私は、ヴィクターさんが、好きなんだ。


 けれど、それを伝える術が見つからなかった。

 多分、口に出して告白すればいいのだろうけれど、言葉が浮かばない。

 ノルンは、ヴィクターの手を取った。

 いきなりの行動にヴィクターの心拍数が上がる。

 何が始まるのか、起きるのか、全くわからない。

 じっとヴィクターを見つめたまま、ノルンは彼に告げた。


「私は、ヴィクターさんに、恋をしてしまったようです」


「……え……?」


「ヴィクターさんは、私がこのような気持ちになってしまったのは、迷惑でしょうか?」


「いいえ! ……その、突然でしたので、驚いてしまったというか……。俺で、ノルン様は構わないのですか?」


「それは、どういう意味ですか?」


 ヴィクターは、恥ずかしそうに、ノルンに告白する。


「俺は、ノルン様にお会いした時から、ずっとノルン様の事が気になっていました。しかし、俺とノルン様では身分が違います。ですから、その気持ちは確かに光栄な事です。俺がそれを受けても、構わないのですか? その、俺が、ノルン様に仕えるという事と、永劫傍にいる事に、なると思うのですが」


「私は、もし叶うのでしたら、とても嬉しいのですが」


 ヴィクターは、ノルンの返答があまりにも即答すぎて、驚く。

 構わない、嬉しい、ノルンはそう言った。

 けれど、本当にそれは構わないのだろうか?

 少し不安だった。


「その、許される、事なのでしょうか? 俺と、ノルン様がもし、……その、お付き合いをするとなれば」


「それは、私にもわかりませんが、咎める人はいないだろうと思います」


「その根拠はどこから?」


「生前の父と母が、言いました。〝恋愛は自由である。身分など関係なく、それは自らの選択した人生だ〟と」


 生前の父と母。

 初めて出て来た単語だった。

 ヴィクターは、それに関しては深く聞いてはいけないと思った。

 恐らく、それはノルンの過去に繋がる事なのではないかと思ったからだった。

 けれど、恐らくノルンの両親は寛大な人間だったのだと感じた。


「ですから、私は構わないと思うのですが」


 なぜかその言葉が、筋が通っているように感じて。

 ヴィクターは少し考えたあと、ノルンに言った。


「俺でよければ、あなたの傍に、居させてください。ノルン様」


 そう言うと、今まで表情を変えなかった彼女が、少し嬉しそうに微笑んだ気がした。

 気のせいだったのかもしれない、でも気のせいじゃないのかもしれない。


「嬉しいです、ヴィクターさん」


 ノルンはそう言った。


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