概念が現れた
僕は今朝、寝ている自分の上に違和感を感じた。
なんというか、知らない間に物が動いてたとき、それが何かはまだわからなくても、あれ何かが違う、と感じることがあるだろう。
そんな感じだった。
僕がそれを意識したくらいで、腹に重みを感じた。
決してそんな重いわけじゃないんだけど、いや、あからさまに何か乗ってるよね、と感じるくらいには重い。
確認すべく、静かに目を開く。
なにもなかった。
そう思った次の瞬間に空気にさざなみが起きて、僕の上に1人の少女が跨っていた。
…目が点になった。
もう一度、寝よう。きっと、疲れてるんだ。それにあんな夢を見たから、そのせいだ。
だっておかしいだろう。
普通にまずありえないし、今の子、どう見ても彼女に見えるのだ。
ありえない、あいつはもう死んでるんだから。
僕の幻覚だろう。…まあ、幽霊って、可能性もなくはないかもしれないけど。
二度寝することもできずに僕は目を再び開いた。
かすかな重みが消えてないことでもうわかってたけど、そこに1人の少女がやっぱりいた。
「…どなた?」
「わたしは、概念。概念の端くれ」
あいつではないらしい。あいつは概念なんかじゃないだろうから。というか、概念って名前か?
「概念…って名前か?」
「違う。犬を犬と言い、あなたを人間というのと同じような定義」
「ごめん、よく意味がわからない」
わかってもいけないと思う。
「知ってる。あなたはそういう人間だから」
そういう彼女にかすかな表情の変化が起きる。それは僕の知ってるあいつの表情だった。
あいつ…なのか?
「お前は七瀬真冬なのか?」
自分の質問がおかしいのはわかる。でも、少し期待を掛けずにはいられなかった。
「そうでもあるし、そうでもないとも言える。彼女は概念の一部であり、だから概念の一部であるわたしの中にもきっと存在する」
僕は疲れてるのだろうか。
とりあえずやれることからやろうと思う。
「えっと、とりあえず僕の上からどいてもらえる?」
「何故?」
「重いし動けないし、怖いから」
僕の切実な願いを聞いても彼女は全く動じなかった。でも必要性は認めてくれたみたいでどいてくれた。
上半身を起こす。
でも、状況は変わらなかった。
「えっと…お帰りになられてくださいますでしょうか?」
「もう帰ってるわ」
「…どこに?」
「すべてに。まず離れることが難しい」
頭が痛くなりそうだ。病院に行くべきだろうか。
「あんたが何者でどこから来たのかはわかんないけど帰ってくれ!」
「わたしは概念」
…もう、だめかもしれない。