二枚目は散惨
タクト視点
教室に入ると、いつもなら先に席に座っている目黒の机が空席になっていた。
「あ、今日は目黒は休みなんだね。」
「あぁ。風邪でな…………。まぁ、ゴールデンウィークには治るだろう。温泉旅行予定してるし。お前等も来るか?勿論男女の部屋は別にするけどな。」
夏音が疑わしげに声を出した。
「どこの……温泉?」
すると、希留葉は自慢げに、
「熱海だよ。熱目黒の父さんが毎年貰ってくるんだから、子供達で遊んでこいってことらしい。高校生だから友人も増えるだろうって余計に貰ったらしい。と、いうわけで俺達で行こうってわけ。」
と、旅館のパンフレットを私達に渡してきた。
「兄妹いたら誘っても問題ないぞ~。俺も好葉連れて行ってるし。」
「………愚姉が二人いますが今上はアフリカ、もう一人は失恋したとかで樹海に行ってます。」
………自殺したいほどの失恋のショックって大きいのだろうか…………?
「まぁ、最近は分かりやすくなっているらしいですよ?樹海の道。なんでもわら人形が泉へのルート順にうたれているらしいですから。あ、勿論五寸釘でですよ。」
それはいる情報なのかな………?
「そういえば好葉の部屋の中に藁があったな………。後マネージャー達の写真も………きわどいやつあったからコピーしたけどさ。」
「いやするなよ。好葉ちゃん悲しむよ、多分。」
「うっせーよ!!俺はモテねーんだからな!!目黒と違って来るもの拒まず去るもの追わずなんていうパラダイスは無理なんだよ………なんだよ、せっかくモテたくてサッカー始めたのに………。」
すると仁が、
「そんなパラダイスは幻想。」
と呟くと希留葉はさらに暗くなったのか、うおわぁ~と叫びながら激しく泣いた。
「泣くほどの事じゃないと思うけどなぁ~。」
「うっせーよ!!身近な妹にすら嫌われている俺の気持ちが分かるはずがねぇんだよ~。」
すると、仁が急に立ち上がり大きく息を吸った。
「うっせえんだよ!!!男がウダウダ泣くんじゃねぇ!!女ができんだぁ?顔が良くないからだめだぁ!?んな根性叩き直してやろうかぁ!?こんの根性なしがぁ!!顔も性格も人望も特技もねぇ奴の事も考えろやこのやろうが!!」
…………仁の放った男らしい低く少しドスの利いた声は、仁の前髪すら上に上げるほどだった。
そして、初めて見た仁の顔は、女の子とは呼べない。
イケメンと呼ばれるような、男らしく、女の顔の要素が、喉仏が無いことだけだった。
「………す、すみません………。あぁ、ここも転校かなぁ………。気持ち悪がられるし………。」
急に仁の声は小さくなる。それと同時に、女の子らしい声が出ていた。
「わ、私は素であの声と顔で…………。声は小さくしないとお、女の子らしくできないから…………。それで前の高校ではすぐに男女って空気になって………。」
クラス内がシーンとなる。
「…………俺はそんなお前も受け入れてくれる人がいると思うけどな。少なくとも、俺は受け入れるし、女子もこの人間関係に軽い奴らならすぐに馴染めるさ。」
…………と、誰だったっけ………?
「お、お前、誰だっけ?」
「いや知ってるだろ柏木!!俺は秋原 秀一だ!!一ヶ月ぐらい同じ教室ならば同姓でも覚えろ!!」
「すまん、ずっとオタイチで覚えてたかもしれない。」
「………まぁ、ギャルゲーは最強の学問だが。現実では体験できない物を全てやれるからな!!!勿論、俺の愛用している勉強道具は萌単シリーズだ!!」
あれは確か、ラノベとかゲームとか作っている業者が作ったノートなどのことだろう。
萌えキャラの声優さんが英単語の音声を作っていたり、萌えキャラがデフォルメされたイラストで図解されていたり…………。テーマは多分勉学にも萌を!!とかだと思う。
「それだけで成績優秀になれるお前が分け分からん………。」
「はぁ?で、結局何が言いたいんだよ!!私を馬鹿にしたいだけなのか?こんな体と顔が合っていない私を笑いたいだけなのかよお前等はぁ!!!!」
その後照西先生がきて仁は静かになった。
…………まぁ、今日はこんなんで終わってしまった。
翌日………。
「…………目黒復活してるね…………。」
「ま、自分に何も言ってこないから楽ですよ。」
目黒は大の下手物好きだ。なので夏音やアーシュには何も言わないだろう。
「どうしたんですか?真名部さん。」
「…………な、に?」
「元気なさそうですけど。」
「………関係ないですから。」
「いや、関係はありますけ…………。」
「あぁん?うっせんだよ。私はもうこのクラスに入れねぇかもしれねぇんだ!!もう関係なくなるっつの!!」
仁がまた怒鳴り、そのままどこかに逃げていく。
目黒はビクンビクンと体を震わせながら追いかけていった。
………。
私は、それをじっと見ることしかできなかった。
「………多分大丈夫だろうよ。あの二人なら。」
柏木か秋原のどっちかがそう呟いた。
「まさかいきなり告白とかしないよね………?目黒君………。」
これも誰かの独り言だ。
仁「………私は、ずっと普通の顔になりたかった。普通の女の子の声のまま皆と笑い合いたい……。けど……。」
次回 異常の二人の愛の告白 前編
照「って、久しぶりの出番これだけですか?一言もしゃべってないんですけどぉ~。」
コ「物語は子供達が主役なんだ。………私だって本当は出して貰いたいというか海覇を見返せるチャンスが欲しい……。」
照(ガチガチ自分が主役になる気満々ですね………。」