アナザーストーリー 涼×恋 私の気持ち
恋視点
もう、いつからそうなったのか、私には分からなかった。今から思うと、逆にそうじゃなかった自分が想像できない。それほどまでに、この感情は、私にとって、当たり前の物になっていた。その感情は、声に出せることはだせるのだが、いまだに人前で出せた覚えはない。環境が環境だったからだ。
「私は、夕暮涼が好きだ。」
いや、少し違うかな…………。
「私は、夕暮涼が、大好きだ。」
この方が正しいと思える。
しかし、あのお嬢様の執事だったころから、その気持ちを隠さないといけなかった。
本当はずっと甘えたかった。
なのに、あのお嬢様は………いや、あの家はそんな時間を作ってはくれなかった。
涼は、いつもカッコよくて、優しくて、私のことも心配してくれた。
私は涼を守るために強く、賢くなっていたのに。
なんでその力をお嬢様を守るために使わなければならないのだろうか?といつも思っていた。
私が守りたいのは涼だけなのに。
涼がお嬢様だったら良かったのに。
そんな願いを何回も紙に書いては破り捨てられず、日に日にその紙の枚数は増えていった。
あの時は腹がたったなぁ。
涼のせいじゃないことを、涼に責任を負わせたあのお嬢様も、あのなぜかそのお嬢様を弁護したあのメイドも。
たしか、お嬢様の悪ふざけで贋作らしい壷をお嬢様が割ったときの話だ。確か………まだ5歳ほどの時だ。
あの時に音を聞いてかけつけたあのメイドの親は、あの時にいた人物で自分の娘の責任ではないということを立証しようと、すぐに涼を悪人に仕立て上げた。あのメイドは、人一倍あの家に執着していたからなぁ…………。
思えば、あの時から涼は鋼谷家の使用人であることが嫌になったのではないか?そう思えるきっかけにもなっただろう。
鋼谷家の使用人に休みの日は無い。時間は一応あるが。
そして、私はいつも燕尾服で、たまに普通の女の子が着るような服を着ていることもあったが、涼はSPという役職からか、スーツでないときはいつも白いTシャツにジーパンだった。
だから、おしゃれという物をやったことが無い。
夜神は、隣を歩くのに相応しいようにとそれなりの服を着ていたと思う。私はめんどくさいから適当だったことが多かった。髪はオールバックで決められていたけれど。だから、結構変人に思われたんだろう。
あの腹がたったときに、私はなにも仕返しできなかった。
そのことがくやしくて、ただ強くなった。
気がつけば、涼よりもできると言われるようになっていた。しかし、私はそう思っていない。
涼は、あの時から段々と冷めていたのだ。
だから、涼を守ろうと一生懸命だった私と必要最低限の力しか出さない涼は、他の人から見れば当然私が凄いと思われただろう。
でも違う。涼は、勝手にやることを自分で制限している。
だから、私でも涼よりもいい動きをすると言われるのだ。
そして、あの事件が起きる。
多分涼は、本能とかではなく、仕方なく前に立ったのだろう。涼がお嬢様の事を心から守ろうなんて思っていないだろう。だから、私は涼を守るために銃の前に飛び込んだ。
私は、涼を守れるなら、死んでもいい。守れたなら、後悔は無いと思っていたから、あぁ、死んでしまうのかなと、銃によって空いた穴からでる血を見ながら、涼を守れたことによる達成感を感じながら、涼のぬくもりを感じながら、そっと目を閉じた。
目を覚ますと、そこは病室のベッドだった。
近くには涼が、椅子に座りながら寝ていた。
執事とSPの寝る場所はかなり離れていたのだから、当然かもしれない。
初めて涼の寝顔を見れたなぁと思いながら、そっと起きあがって、涼のおでこに唇をそっと当てた。
自分からやっておきながら恥ずかしくてすぐにうつ伏せになり枕をギュッと抱きしめ羞恥にもだえていた。
あれからほとんど毎日涼がお見舞いに来てくれた。
涼の剥いてくれたリンゴの味も、あーんと私がわがままを言って食べさせてくれた病院食の味は、今でも簡単に思い出せる。これまで食べてきたどんな食事よりもおいしく感じた。
やっぱり私は涼の事が大好きなんだって再認識できる。
それから、涼は、この家を出ていくと言った。
それを聞いて、私もついて行こうと思った。
ここで着いていかなかったら、私は多分一生物の後悔をしてしまうだろう。
だから、退院してから、すぐに自分の服をワンピースに変えて、涼の部屋から忘れている生理道具を持ってきた。
「涼~。私も連れて行ってよ~。」
と、私は、涼と一緒に愛の逃避行?をする事ができた。
どうせ追っ手は来ないだろうけど、私はそんな気分でバスや電車に揺られた。
これから、同棲生活が始まることに、非常にワクワクしていた。
恋「これが、私の気持ち。まぁ、いまだに伝えられないでいるけどね………。」
「次回からは高校に通うようになるけど、その前に住むところを決めないとね………。」
「次回、二人きりならば。」
「当然涼は私がお世話するから……でも、彼氏とかできたら、ソイツコロスカモ………。」