ば、ばかぁぁぁぁ!
「さ、さあ!稔さん…」
瞳を閉じ、唇を僕の方へ向ける穂香
「いやいやいやいや」
僕はどうしようもなくパニクった
「あ、あの立花さん!?」
「穂香と呼んで下さい、どうかしました?」
「いや、その…」
「あ…もしかして、私の唇汚かったですか!?す、すみません…」
と、また泣きそうな顔をしてしまった
「いや違う!唇はとっても綺麗だけど…ってそうでなく!」
「?」
「その…何で、いきなりその…キ、キスなんて…」
言いながら、自分の顔が真っ赤になるのが分かる
「キス?へぇー、ちゅーってキスとも言うんですね」
「う、うん、まぁ…」
「何故と言われても…恋人同志はちゅーするのが当たり前だと」
「どんな当たり前だよ!…いや、丸っきり間違ってる訳じゃないけど」
「ではしましょう!」
唇を近づける穂香
「いや…えと…」
したくない…と言えば嘘になる、けど……
「とにかく、駄目だよ…」
と言って、穂香を軽く突き放す
「え?」
少し驚いた穂香
「な、何でですか?」
「だってその…あくまで『恋人のフリ』でしょ?僕達」
「…」
「だからさ、別になんでもない僕といやいやキスなんて、することないよ」
「…っ…」
「そもそも…僕のこと、好きじゃないでしょ?」
ぱしっ
と、穂香の平手打ちが僕の頬を襲う
「なっ…」
なにがなんだか分からず戸惑う僕
「ん、んんんみっ、稔さんの…ば、ばかぁぁぁ!」
ばしっ
また叩かれた、さっきよりも強く
穂香は顔を苺のように紅くし、そのまま帰ってしまった。
「……へ?」
こうして訳の分からないまま、僕の初デートは、僅か一時間足らずで終わってしまった…。