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小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
出題編
5/23

5.どちらが本物?(初日、日中)

高椿子爵「おお、ついに告白してくださいましたか!」と、いつになく興奮した口調で、子爵が喜びをあらわにした。

行商人猫谷「お志乃さんの探偵告白を、確認しました。でも、せっかくだから、残った二人の意見も聞いときたいな。蝋燭作りさんよ――、あんたは探偵でないと告白してくれるのかい?」

蝋燭職人菊川「いうことは何もない。鬼たちに、無駄に手がかりを提供するだけだ」

行商人猫谷「そう来ると思ったぜ。じゃあ、別嬪べっぴんさん、あんたのご意見を伺いたいな」と、猫谷は未亡人のふくよかな胸元に横目を移した。

後家都夜子「わたしも、お答えしたくありません!」

行商人猫谷「ちょっ。まあ、いいだろう。とどのつまり、志乃さんに対抗して、探偵だと告白する人物はいない、ってことだよな?」

 猫谷の発言に異議を唱える者はいなかった。それを確認すると、探偵宣言をした柳原志乃が一歩前に踏み出た。

女将志乃「ということで、ここからはあたしが会議を仕切らせてもらうわよ。夕刻もだんだん押し迫っているし。さて、みなさん。さっそくだけど、本日の処刑投票で誰に投票するつもりなのか、ご意見を伺いたいわ」

霊媒師鈴代「吊るし上げるのはよそ者に決まっとる! ほうれ、そこの若僧よ――」

 鈴代が待ってましたとばかりに雄叫びをあげた。

書生和弥「そんな、めちゃめちゃだ。だいたい僕は、これまで発言もほとんどしていないじゃないですか?」

土方中尉「若者よ、得てして、無口な者は吊るされやすくなるのだ。生き残りたければ、何か発言をすることだ」

書生和弥「そんなこといわれても……。みなさん、信じてください。僕はただの村人です!」

行商人猫谷「おいおい、自分の正体までばらしちゃって。お前、気は確かなのか?」

書生和弥「はっ、つい……」

 後ろにいた子爵が、苦笑いをしながらいった。

高椿子爵「さあて、和弥君の今のリアクションは、果たして真実なのか、はたまた名演技なのか? どちらなのでしょうねえ?」

後家都夜子「いずれにせよ、和弥さんが黒(吸血鬼側の人物)だという事実は、ひとつもありませんわ」

行商人猫谷「まあ、そういうことになるな……」と、猫谷はやや不満げに返事した。

女将志乃「それじゃあ、あたしからしゃべらせてもらうわ。前にも白状したようにあたしは探偵です。だかられっきとした村側――、すなわち白(村側の人物)です。

 こんなあたしが、これまでのみなさんの発言を思い返して、一番黒っぽいと感じる人物は、何となくだけど……、大河内さんなの! 特殊能力者が告白すべきかどうかの議論に関して、意見を二転三転させているのが、とっても気になるのよねえ……」

土方中尉「確かにそうだ。片想いの時には、告白に反対だといっておきながら、探偵の時は、賛成に回っている。意見に一貫性が感じ取れない」

 それを聞いた大河内青年は、顔から血の気が一気に失せ、真っ蒼になった。

執事大河内「待ってください――。わたくしはとっさに物事を判断するのがいつも苦手で、考えているうちに訳がわからなくなることもございます。一貫性がなかったといわれれば返す言葉もございませんが、決して、あの時の発言は意図的なものではございません!」

行商人猫谷「なるほどな――。片想いの告白を積極的に唱えたのは、高椿の坊ちゃんと土方中尉、それに葵子だった。それに対して、強く反対をしたのが、蝋燭屋と大河内君だ。一方、探偵の告白を押した人物が、高椿子爵に土方中尉、そして大河内君だ! 反対は、蝋燭屋にお志乃さんに霊媒師……、別嬪さんも反対色が強そうだったかな? やはり、大河内君だけが、一貫性がないことになってしまうな……」

霊能者鈴代「ならば、今宵の生贄いけにえとすべきは、まず第一に書生、それから次に執事じゃな」

土方中尉「それでは、処刑すべき人物として、余は大河内青年を一番に押す。理由はみなと同じである。そして、次に怪しき人物は、蝋燭師だな。理由は、言動が協調性に欠けるからだ」

女将志乃「それじゃあ、中尉さまの発言のように、みなさん一人一人に、今日処刑すべきと思っている人物を、順に二人ずつあげていただきましょう。あたしは、第一に大河内さん。それから……、二番目は、都夜子さんね。優等生ぶった発言が、さっきから鼻に付くのよ!」

高椿子爵「ふふふ……、みなさん、だんだん本音が出てきましたねえ。

 ところで、わたしの意見ですが、みずからの正体を告白された勇気ある方々には、今日の処刑を行うべきではない、と考えます。すなわち、片想い告白をされた琴音さんと、探偵告白された志乃さんについての処刑は絶対に避けるべきです。さらに、村人宣言をした書生さんも、まあ、今日の処刑を無理をして行う必要はない、と考えます。

 さて、残った八名の人物――。その中には、このわたしも含まれておりますが――、天文家を誤って処刑することだけは、何としても避けねばなりません。だから、万が一、天文家が処刑されそうに、議論が進行した場合には、やむを得ませんから、天文家の方は正直に正体を明かしてください。もちろん、そうはならなくて、天文家が潜伏しているのが、一番理想的なのですがね。

 そして、わたしが処刑投票しようと思っている人物は、まずは大河内君ですね。現時点で最も黒っぽく思われます。そして、二人目の候補をあげろといわれるのなら……、蝋燭職人の菊川さんです! 中尉がおっしゃる通り、あらゆる言動が場を乱そうとしているように思えます」

 令嬢が申し訳なさそうに割り込んできた。

令嬢琴音「本音いうと、大河内はうちの大切な執事やからね。殺されちゃうと、うちとしては、困っちゃうんよ……」

行商人猫谷「俺の意見をいわせてもらう。処刑の第一候補はやはり大河内君だ。このまま、弁解がなければ、おそらく彼の処刑は確定的となるだろう。だから次の候補をあげろといわれても困るが、あえていえば……、そうだな、高椿のお坊ちゃんってとこかな。ちょっと、仕切りの手際が上手すぎるのが……、まあ理由だな……」

 すると、ずっと押し黙っていた青年執事が、肩で大きく息をした。

執事大河内「ここまで追い込まれれば仕方ありませんね。今日の告白は極力避けようと思っていましたが……。みなさん、本日、わたくしを処刑なさってはなりません。わたくしの正体は、探偵です! これまで伏せておいたのは、今晩の吸血鬼による襲撃を怖れたからです。しかし、処刑されてしまっては元も子もございません」

 この驚くべき発言には、さすがにあちこちからざわめきが湧き起こった。

霊媒師鈴代「おぬし、今になって、何を勝手なことを……。みなの衆、惑わされてはいかんぞ! 追い込まれたうさぎの、苦し紛れの戯言ざれごとじゃ」

執事大河内「どう取られようと仕方ございませんが、わたくしをたった一日だけでもいい、生かしていただければ、わたくしが真実を語っておりますことがた易く証明できると存じます。探偵のお仕事は、まことの探偵にしかできません。探偵をかたれば、きっとそのうちにボロが出ることでしょう。そうですよね、七竈の女将さん……?」

女将志乃「面白いわ。そのお言葉、そっくりあなたにお返ししましてよ。執事さん――」

行商人猫谷「これは、これは……、探偵告白が二人になっちまったぜ。いよいよ、面白いことになってきたな。しかし、大河内君が探偵宣言をしてしまうと、本日の処刑者を誰にするのか、もう一度はじめから検討し直さなければならないな」

令嬢琴音「どうするの? もうすぐ夕刻よ。うちたちが決断する時が迫ってるんよ」

蝋燭職人菊川「それでは、自分の意見をいわせてもらう。ここにきて我々は、片想いと探偵と称して、すでに三人の人物が名乗りをあげてしまっている。実に遺憾いかんなことだ。彼ら三人のうちの誰かが、今晩の吸血鬼のあわれな餌食となってしまうであろう。初日から特殊能力者が宣言をするのは、村側にとって極めて危険な行為だ。しかしながら、それをさりげなくうながした人物が、この十一人の中に潜んでおる。もう、おわかりだろう。そう、高椿子爵である! 彼こそが、このような危機的状態を招いた張本人なのだ。自分は高椿子爵こそ、今宵の処刑すべき唯一の人物であると思う。そして、探偵と宣言した以上、信用するしないにかかわらず、本日の大河内青年の処刑は撤回すべきだと思う」

高椿子爵「これは、これは……。このわたしが標的にされるとは夢にも思っていなかったですよ。大河内君が探偵宣言をしたのは、単に追い込まれただけである可能性もあります。探偵宣言をするならば、志乃さんが探偵だと宣言された直後に反論するのが筋なのに、ここまで引き延ばした彼の主張は、全くあいまいなものですよね。されど、本当に探偵であるならば、今日処刑するわけにはまいりません。探偵の告白が対抗してしまいましたから、まずは天文家の方にお願いしたい。探偵宣言をされた志乃さんか大河内君のどちらかを、今晩、必ず観測していただきたい。少なくとも一人は嘘つきであることが確定ですからね」

後家都夜子「子爵さまは、お二人のうちのどちらを観測して欲しいと考えておられるのですか?」

高椿子爵「それは天文家の判断にお任せします。わたしがここで指定すれば、吸血鬼たちの行動に影響を及ぼすからです」

女将志乃「天文家の方にいいたいことがあるわ。今晩見張るのは大河内さんがお勧めよ。あたしを見ていても白であることが判明するだけよ。大河内さんはおそらく吸血鬼ね。彼を夜中に見張っていれば、きっと空に飛び立つお姿が観測できるわ」

後家都夜子「わたしは正体を告白された、琴音さん、志乃さん、大河内さん、そして和弥さんの処刑は避けるべきだと思います。そうなると、第一候補は、申し訳ありませんが、高椿子爵さまとなってしまいます。わたしは初日からの役職の告白に関しては、基本的に反対でした。だから、子爵さまの積極的なあぶりだしの示唆には、納得がまいりません。それから、次の候補は土方中尉さまです。彼も役職の告白に積極的でした。だから、わたしの視点からはどうしても黒っぽく思えてしまいます。いずれにせよ今宵の投票では、子爵さまに入れる予定です。天文家には、志乃さんを観測していただきたく思います。理由は、志乃さんが味方であることがはっきりすれば、村側にとって心強く思うからです」

令嬢琴音「うちも、まず子爵さまが怪しく思うわ。それから、次に怪しいのが小間使いの葵子! 大人しそうな仮面の下で何を考えとるのか、ぜんぜんわからんのよね」

霊媒師鈴代「うむ……。そういうことなら、今夜血祭りにあげるのは子爵じゃ!」

行商人猫谷「琴音お嬢さまから、直々に子爵の吊し上げの申し出があったということは、子爵はお嬢さまの恋慕のお相手ではない、ということでしょう。それなら、俺も安心して子爵の坊ちゃんに投票させてもらいますよ。次点は、後家の別嬪さんといったところかな。これについては、特に強い根拠はないよ……。令嬢のお相手を間違って殺しちゃいけないから、吊るすなら女性になるのかなという程度だ。気にしないでくれ……」

土方中尉「ふむ、令嬢の恋慕先も注意せねばならぬということか……。余は、蝋燭師を一番手にしたいと思っておったが、それならば、申し訳ないが、一番手は高椿子爵とさせてもらう。二番手は蝋燭師だ」

小間使い葵子「わたくしは、ご主人さまを信じたく存じます。ですから処刑投票先は、女性から選べということになりますと……、役職宣言された方は除かなければなりませんから、わたくしと鈴代さま、都夜子さまということになってしまいますね。わたくし自身を推挙することはありえませんので、申し訳ありませんが、一番手は鈴代さま、二番手を都夜子さまとさせていただきます。ああ、どうしましょう……。何ら根拠のある意見ではございませんので、発言自体がはばかられます。本当に申し訳ございません」

高椿子爵「どうやら、わたしが黒であるということで議論が進んでしまっているようですな。みなさんがわたしを推挙する理由が、特殊能力者の積極的なあぶりだしということでしたが、能力者を間違って処刑してしまうリスクと、初日の議論が停滞して時間が無駄に過ぎていくことの方が、わたしは不利益だと考えます。依然として、わたしが今日とった行動は、最善を尽くしたものだと確信しております。

 さて――、とはいっても、このままむざむざ殺されるわけにもまいりませんので、告白させていただきます。わたしは天文家であります! ここまで隠してきたのは、もちろん天文家が名乗り出るメリットがなかったからであります。ですから、今宵、わたしを殺さないでいただきたい」

行商人猫谷「いまさら、そんな手に乗るかよ! 坊ちゃん、悪あがきもはなはだしいぜ!」

土方中尉「しかし、子爵殿が天文家宣言したからには、今夜の処刑は避けねばならぬな……」

行商人猫谷「おいおい、将校まで可笑おかしなことをいい出しやがる。そんなことなら全員が能力者宣言をすればいいってことになっちまうよ。血迷っちゃなんねえ!」

蝋燭職人菊川「猫谷のいう通りだ。子爵の発言はその場逃れのいいかげんなものに過ぎない。自分は依然として子爵を推挙する!」

霊媒師鈴代「そうじゃな。いまさら、いいわけしても手遅れじゃ」と、あくびをしながら霊媒師が頷いた。

土方中尉「子爵が候補から外れると、次に立場が苦しいのはあんただからな……」

霊媒師鈴代「何をいうか! わしは、確信をもって子爵さまを推挙しておるのじゃ。おのれ、ひよっこの分際で……」

書生和弥「僕も、子爵の突発的な意見に惑わされてはならないと思います。やはり子爵は黒であって、最後のあがきで天文家をあぶりだそうとしているように思います。仮に、子爵が天文家でなければ、この中にいる真の天文家の方には、子爵の発言が虚偽であるとわかっているわけですが、当然、今ここで、それを暴露することはできません。それこそ、子爵の思うつぼだからです。したがって、僕が処刑すべきと思う人物は、一番手が高椿子爵です。二番手は――、怪しいと思うのは大河内君ですが、琴音さんの想い先である可能性も考慮すると、はばかりながら女性から選ぶ方が賢明ですね。そうとなれば、鈴代さんですね。さっきから、根拠のないことで僕を何度か攻撃されていますが、その言動のいいかげんさがいかにも黒っぽく感じ取れるからです」

女将志乃「あらあら、子爵さまも大変なことになっちゃったわね。あたしの意見はいうまでもなく、あたしに対抗している大河内さんですけど、この流れじゃ、処刑は子爵さまになってしまいそうね。ええと、ここまでの発言によると、みなさんが予定されている処刑先の一番手は、あたしは大河内さんで、子爵さまを推挙しているのが、猫谷さん、和弥さん、菊川さん、琴音さま、都夜子さん、鈴代さん、それに中尉さまよね?」

土方中尉「うむ、少々血迷っていたようだ。余も当初の発言通り、子爵を一番手といたす」

女将志乃「そして、小間使いが鈴代さんを推挙しているわね。さて、あと意思表示していないのは、子爵さまと大河内さんよ。発言してもらおうじゃないの」

執事大河内「わたくしめも、自分が処刑されることは本意ではございません。ですから、申し訳ございませんが、高椿子爵さまを一番手に――、二番手はわたくしの職業を騙っていらっしゃる女将さんです!」

 子爵は、観念したかのように大きくため息を吐いた。

高椿子爵「わたしから見て最も黒らしき人物は、蝋燭職人の菊川さんです。彼は、巧みにわたしを血祭りに誘導しました。どうやら、今宵、わたしは処刑投票に選出されてしまうでしょう。全く、見事です。二番手は申し訳ありませんが、鈴代さんとさせていただきます。鈴代さんを選んだのは、お嬢さんの想い先の誤処刑を避けるためであります。

 死を直前にして、いろいろ名残なごりはありますが、わたしの無念は遺言に記載しておきますので、探偵の方に正確に確認してもらうことを願います」

 猫谷が子爵の肩をそっと叩いた。

行商人猫谷「あんたの無念はよくわかったよ……。さて、もうすぐ投票の時刻だな。他に意見のある奴はいるかい?」


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