21.暴かれた真相(四日目、日中)
小間使い葵子「二日目の夜に菊川さまが亡くなられた事の真相は、想い先であった鈴代さまの死を悼んでの自殺です。菊川さまは、片想いであらせられたのです!」
後家都夜子「そして、二日目の夜に吸血鬼から襲撃されたのが、実は、わたしであったというのね!」
小間使い葵子「そうです。きっと吸血鬼たちは、都夜子さまが天文家であることを期待して、あえて感染させるという手段を選択したと推測されます。鬼からしてみれば、当てずっぽうで誰かを襲うしかありませんでしたからね」
書生和弥「それじゃあ、吸血鬼たちが感染を狙っていた晩に、たまたま、後追い自殺が生まれてしまったというわけか?」
小間使い葵子「その通りです――」と、小間使いは嬉しそうに微笑んで、先を続けた。
小間使い葵子「そして、それが真実であるならば、わたくしたち生き残りの中に、もう一人、嘘を吐いていらっしゃる方がみえます。それは……、琴音お嬢さまです。お嬢さまは、片想いではございません!」
令嬢琴音「あんたね――、まあ……、何をいうん?」
普段はおっとりしている令嬢が、顔を真っ赤にして、怒りをあらわした。
書生和弥「つまり、都夜子さんの正体は、感染させられた村人であって、オリジナル吸血鬼ではなかったんだ! ああっ、よかった……」
思わず、僕は、拳を握りしめて、天を仰いでいた。
小間使い葵子「ただ今のわたくしの説明こそが、全ての事実を説明する唯一の答えです。そして、今日の夕刻の処刑では、わたくしと和弥さま、都夜子さまの三人が一致団結をして、残りの吸血鬼を処刑しなければなりません。
女将さまは、わたくしの観測によれば、村人ですから、必然的に使徒であることになります。同時に、猫谷さまが吸血鬼であり、そして、もう一人の吸血鬼が、琴音お嬢さま、ということになります!」
書生和弥「そうか。猫谷氏が、もう一人の吸血鬼だったということか?」
小間使い葵子「わたくしたちの勝利のために吊し上げるべき人物は、ただ一人。
それは――、琴音お嬢さまです!」
後家都夜子「わたしが感染吸血鬼ということは、今日の夕刻に、うっかり使徒である女将さんを処刑してしまうと、夜にお嬢さまが、和弥さんか葵子さんを襲うことで、オリジナル吸血鬼と健在な村人の総数が同数となって、吸血鬼側に逆転勝利されてしまうわけですね。
結局、処刑すべき人物は、琴音お嬢さま以外にはあり得ない、ということだわ!」
令嬢琴音「和弥さん――。小間使いの口車に乗ったらあかへんよ!」と叫ぶと、琴音は異様な眼光で僕を睨みつけた。
書生和弥「お嬢さん。申し訳ありませんが、僕は葵子さんの意見に同感です。
僕は、探偵宣言をした志乃さんを、なぜ吸血鬼が襲わないのか、ということに関して、ずっと疑問を持っていました。吸血鬼にとって、探偵は極めて厄介な存在です。初日は、もう一人の探偵候補であった大河内君が殺されたので、その時点では、僕は悩みませんでしたが、二日目に菊川さんが死んでいたことや、三日目に将校が殺されたことが、僕にはどうにも不可解でした。菊川さんや将校よりも、志乃さんを殺す方が、明らかに吸血鬼には分があると思えるからです。
でも、葵子さんの推理によって、疑問は氷解いたしました。吸血鬼が志乃さんを生かしておいた理由、そして、僕がただの村人である事実を説明できる唯一の解答が、葵子さんの提案された推論だからです」
令嬢琴音「そうなん。残念やわあ。うち、ほんまに和弥さんのことが……」と、令嬢梅小路琴音は、妙にしとやかな表情を、僕に差し向けた。その後、令嬢は小間使いの前につかつかと歩み出て、にっこりと微笑むと、小声でポツリと本音を呟いた。
令嬢琴音「やっぱ、昨日の晩に、あんたを殺しとけばよかったわ!」