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小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
解決編
19/23

19.出口なき迷宮(四日目、日中)

書生和弥「三日目の議論で、猫谷氏は、自分が天文家であり、土方中尉が吸血鬼であることを観測した、といいました。しかし、その土方中尉は、昨晩、殺されてしまいましたから、絶対に吸血鬼ではありません!

 すなわち、さすらいの行商人猫谷庄一郎氏は、明らかに嘘を吐いていたことになり、彼が吸血鬼か使徒のどちらかであることが、はっきりと断言できるのです!」

令嬢琴音「うん。そうそう。確かに、そうやわ……」と、令嬢がうなずいた。

書生和弥「これからは、猫谷氏が黒であるという事実をもとに、推論を進めていくことにしましょう。

 今、問題となっている論点は、志乃さんと葵子さんのお二人が黒であることが可能かどうか、でしたよね。

 そこで、志乃さんが吸血鬼Qであり、葵子さんが使徒である、と仮定してみます。その時は、猫谷氏は、必然的に吸血鬼Kであることになり、当然、葵子さんは、猫谷氏が吸血鬼Kであることを認識していたことになります。

 しかし、現実に葵子さんが取った行動は、白である土方中尉を助け、さらに、ボスである猫谷氏を、物の見事に処刑へと導いたのです! これは、明らかに矛盾する行動であり、すなわち、志乃さんが吸血鬼Qであり、かつ葵子さんが使徒であるという可能性は、完全に否定することができます。

 以上を総括すれば、次の事実を僕たちは得たことになります。それは――、志乃さんと葵子さんのうち、嘘を吐いているのはたった一人である、ということです!」

小間使い葵子「和弥さま。お見事な推理ですわ……」

女将志乃「それで……、和弥さんは、あたしと小間使いのいったいどちらを信じてくれるのかしら?」

 ここで僕はひとつ咳ばらいをいれた。四人の美女たちの真剣なまなざしを浴びて、悪い心地はしない。

書生和弥「いよいよ、最大の山場になってきましたね。それでは順番に可能性を絞っていきましょう。

 まず、嘘を吐いているのが志乃さんで、葵子さんは真実を語っている、と仮定してみます。すると、葵子さんは天文家であり、彼女の発言は全て信頼できることになります。すなわち、志乃さんと僕は吸血鬼ではなくて、都夜子さんが吸血鬼であるということです。さらに、志乃さんは嘘を吐いていますから、志乃さんは使徒であることが確定します。

 ところで、都夜子さん以外のもう一人の吸血鬼は、いったい誰なのでしょうか? それは、必然的に猫谷氏ということになります。理由は、彼は天文家でないにもかかわらず、天文家であるかのように偽証したからです。真の天文家は、葵子さんですからね。

 しかし、ここで疑問が生じます。昨日の処刑投票で、吸血鬼Qであるはずの都夜子さんが、吸血鬼Kであるはずの猫谷氏に投票する、と意思表示されていることです」

令嬢琴音「それって、単なるカムフラージュなんじゃないの?」

書生和弥「覚えているでしょうか? 昨日の処刑投票は、まさに、ぎりぎりの攻防でした。当然、カムフラージュなどをする余裕はありません。結局、都夜子さんは、仲間をわざわざ吊し上げてしまったことになります」

 すると、突然、七竈亭の女将が、勝ち誇ったかのように笑い出した。

女将志乃「あはは。それって裏を返せば、小間使いが真実を語っている可能性が否定された、ということよね?」

書生和弥「はい、そういうことに、なりますね……」と、僕は素直に認めた。ちらりと横目で、葵子の顔色をうかがったが、小間使いは至って冷静な面持ちで、何やら思考に没頭しているようであった。

後家都夜子「和弥さん。それならば、逆に、志乃さんが真実を語っているという推論には、矛盾は生じないのでしょうか?」と、都夜子が訊ねてきた。

書生和弥「やってみましょう――。志乃さんが真実を語り、葵子さんは嘘を吐いている、と仮定します。すると、志乃さんが探偵であって、彼女の発言通り、今日までに亡くなった六人全員は、吸血鬼ではなかったことになります。さらに、生き残っている能力者宣言された三人の中で、嘘を吐いている人が、必ず、いなければなりません。当然、その人物は、葵子さんであるということになります。

 さらに、彼女が騙った天文家は、亡くなった六人の中に、きっといるはずです。同時に葵子さんは吸血鬼でなければなりません。なぜならば、使徒はすでに死んでしまっているからです。使徒は当然、嘘を吐いていて、なおかつ村人であるはずの、猫谷氏ということになります。

 さらに、生き残っている五人の中には、もう一人、吸血鬼がいるはずです。それは、志乃さんではないので、すなわち、僕と琴音お嬢さんと都夜子さんの中のいずれか、ということになります。でも、この場合には、都夜子さんは吸血鬼ではあり得ません。なぜなら、吸血鬼である葵子さん自身が、都夜子さんのことを吸血鬼だと断言するはずがないからです。ということは、もう一人の吸血鬼候補は、僕か、琴音お嬢さまです。

 それでは、この状況で三日目の議論を思い出してみましょう。使徒である猫谷氏の巧みな話術で、僕たちはみな、将校に投票しようという雰囲気ができていた。そして、そこに割って入ってきたのが葵子さんでした。ところがですよ、もし彼女が吸血鬼だとすると、あの割り込みは全く理にかなっていない愚行となってしまうのです。

 理由を説明いたしましょう。猫谷氏の発言が嘘であることは、吸血鬼側には筒抜けだったはずです。なぜなら、吸血鬼たちは、将校が鬼でない事実を知っているからです。つまり、吸血鬼たちは、猫谷氏が仲間の使徒であることを認識していたことになる。そして、三日目の夜には、吸血鬼と猫谷氏を除いた三人の誰を殺しても、吸血鬼側の勝利は確実だった。

 こういうわけで、葵子さんの取られた行為は、彼女が吸血鬼であるという事実に、はっきりと矛盾します。結局、葵子さんが嘘を吐いていると仮定しても、事実がきちんと説明されることはないのです……」

令嬢琴音「面妖めんようなことになってきたわねえ。じゃあ、答えはないってこと?」

 令嬢のつぶやきを耳にして、僕は頭を抱え込んだ。ここまでの推理は、何も間違ってはないはずだ。しかし、全ての事実をきちんと説明する解答は、依然として見つかっていないのである。もはや、ここまでか……。

 ピンと立てたひとさし指を唇に当てて、しばらくの間、黙り込んでいた小間使いの表情が、ふっと和らいだ。

小間使い葵子「ようやく、わかりましたわ。和弥さまのご説明が、とても参考になりました。どうやら、全てを説明する答えが、見つかりましたよ!」


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