20. ウェスアの夕日
この世界には多彩な気候が存在する。たとえば、南のダイムガルド帝国などは、広大な砂漠に覆われた大地が広がる熱帯の国。北のセンテ・レーバン王国は、空気が乾いていて冷たく、冬になれば雪に閉ざされる国。その中でも、ガモーフ神国は、比較的安定した気候の国である。
気温は穏やか、豊富な水と湿潤な風は、「巡礼の道」と呼ばれる街道がのどかな野原であることに代表されるように、緑の多い国だ。
だが、そののどかさとは裏腹に、ガモーフの自然にも、ここ数年来、変化が生じていた。山の緑徐々に減り、青い海はごくわずかに濁りを帯び、農耕や漁業などに徐々に被害をもたらし始めていた。アルサスたちも、ここまでの道すがら、枯れた森などを目にしている。
しかし、そんな異常現象は、なにもガモーフに限った話ではない。もともと、厳しい気候環境にあるセンテ・レーバンでも、ダイムガルドでも、作物が実らなかったり、井戸の水が干上がったり、動物が姿を消したりと、異常な現象が各地で見られた。
なぜ、このような事態になったのか。おそらく、そう問えば、人々の口を突いて出てくるのは、十年前に起きた「ヨルンの悲劇」を口にするだろう。
だが、過去のことをぼやいても仕方がないことだというのは、誰もが思う共通の認識でもあった。それは、緑が減り、動物が姿を消し、魔物が人里を徘徊し、作物が実らない、などの異常現象は各国の辺境に深刻な貧困を引き起こし、小さな怨嗟の声すら生まれ始めており、ひたひたと忍び足で迫り来る、世界の危機という予感があったからだ。
そんな、事態に声を上げたのは、ウェスア大教会の大司祭ウルド・リーだった。ベスタ教の大司祭は、宗教国家であるこの国の、事実上のナンバーツーである。彼は、女神アストレアに仕える身として、公然の説法会で、ガモーフ神国の王である「法王」の政道を批判した。
「今、この世界に生きる私たちは、女神アストレアさまに試練を与えられている。異常気象、異常現象、それによって、小さな村や、漁村などは、貧困にあえいでいる。ところが、我らを導くべき法王さまは、神の都に居るにもかかわらず、神をないがしろにする悪臣の甘言に惑わされ、何の対策もおとりにならない。今こそ、過去の遺恨を棄て、隣国センテ・レーバンやダイムガルドと手を取り合って行かなければ、我ら憐れなる人間の仔は、女神さまの試練を乗り越えることは出来ないだろう」
その政道批判は、遠くガモーフ神都まで届き、法王に仕える大臣たちの顰蹙と怒りを買うこととなってしまった。ただちに、大臣たちはウルドの大司祭解任と反逆罪逮捕のため、ガモーフ神衛騎士団をウェスアに派遣した。
あわや、ウェスアの門前町で、ガモーフの二大騎士団である教会騎士団と神衛騎士団が衝突する、という事態にまでなったが、これを収めたのはほかならぬ、ウルド大司祭本人だった。自ら、牢に入ることで、争いを鎮めたのだ。
それが、約一週間ほど前のこと。ちょうど、アルサスとネルが出会った頃だ。法王は、この事件に関して、つよい情報統制を敷いた。そのため、ちょうど同時期に、どの国の領地にも属さない空白地帯にいたアルサスたちはウェスアで起きた事件の事をまるで知らなかった。
「とまあ、そういうわけで、今ウェスアに行っても、教会にはは入れないし、礼拝も出来ないのよ」
ウェスア大教会へと続く巡礼の道は、「弧月湾」と呼ばれる弓なりの海岸に沿ってぐるりと巡る。夕暮れに染まる凪の湾内を眺めながら、アルサスたちにウェスアの現状を教え終わった馬上のフランチェスカは、一息ついた。
「それで、巡礼者がひとりもいなかったんだね。でも、ウェスアの大司祭さまと、神都の法王さまが喧嘩するなんて、前代未聞の大事件だよ。ガモーフ神国の長い歴史の中で、そんなこと一度もなかったはずだよ」
フランチェスカの馬の傍を歩くルウが、頭の中にある歴史書を紐解く。ルウもまた、ルミナス魔法学校の図書館に篭っていたため、ウェスアでの大事件を知らなかった。
「常に、法王さまの傍には、ウェスア大教会の大司祭さまがいて、常に水魚の交わりのように、互いを支えあって、国と信仰を守ってきた。それが、ガモーフ建国以来の伝統なんだ。とくに、今の法王さまと大司教様は異母兄弟で、お互いに誰よりも深く信頼しあっているはずだよ」
「あら、よく知ってるわね。ルウくんはガモーフの歴史に詳しいのかしら?」
「まあね。歴史を勉強するのも、大事なことだから」
フランチェスカに褒められたのが嬉しいのか、ルウはふふんと鼻を鳴らす。そして、後ろを振り返った。
「でも、センテ・レーバンの歴史なら、アルサスの方が詳しいかもね。だって、アルサスはセンテ・レーバン生まれなんでしょ?」
ルウのやや後ろを歩くアルサスは、不意に話を振られて、少しだけ驚いた顔を見せる。ずっと、フランチェスカの話に耳を傾けながら、彼女の馬の背に同乗させてもらっているネルの様子を伺うとともに、警戒のアンテナを張り巡らせていた。
「あ、いや。俺は勉強嫌いだったからな……」
と、適当に返すアルサス。すっかり、ネルもルウも、フランチェスカたちに気を許しているようだが、アルサスは、フランチェスカの異様な親切さを、却って訝っていた。
本当に、ただの親切心なのか? いや、傭兵部隊のギルド・リッターは人助けをするギルドなんかじゃないことをよく知っている。今もアルサスのさらに後方を馬に乗ってついてくる、ベイク、ランティの二人組みは鋭い視線をアルサスの背中に投げかけてくるのをひしひしと感じていた。それは、アルサスがフランチェスカに向ける疑いの視線と、よく似ている。
「でも、わたしは大司教さまの仰ること、よく分かります。わたしの住んでいた村でも、家畜のリャマが病気になったり、畑の作物が育たなかったりしていました。村長さまたちも、頭を抱えていました」
馬上のネルが言う。すると、フランチェスカは、手綱を引いたまま目だけネルの方に向けて、
「ネルちゃんは、どこの出身なのかしら?」
と尋ねた。ネルは、答えてもいいのか、アルサスに視線を送ったが、アルサスは答えてくれない。それどころではないようだ。
「辺境のラクシャ村です」
仕方なく、アルサスの返事を待つ前に、ネルは答えた。
「ラクシャ、あそこは……」
ネルの答えに、フランチェスカが何か言おうとしたその時、話に割って入るかのように、ベイクが声を上げる。
「隊長! ウェスアが見えてきましたぜ!」
と、ベイクの太い人差し指が、指差す先に見えるのは、弧月湾のほとりで夕日にに輝く石英の塔であった。それこそが、ウェスア大教会のシンボルであり、湾を見下ろすベスタ教の鐘つき堂である。ウェスア大教会の歴史は古く、ガモーフ神都が国家の首都ならば、ウェスアはベスタ教の中心地である。そのため、教会堂の周りには、門前町と呼ばれる、都市が広がっていた。
「大きな町だよ。商業と産業、それに信仰がひとつに集まっている。街に住んでいる人たちはみんな、ベスタ教の敬虔な信徒で、彼らの生活のリズムを刻むあの塔の鐘は初代大司祭さまが作ったといわれる、ミスリル(※7)の鐘なんだ」
「ルウくんは何でも知っているのね。街に着いたら、ひとまずお医者さまのところへ行きましょう。いい医者を紹介するわ」
フランチェスカは、ダイムガルド人特有の浅黒い顔に、優しげな笑みを浮かべ、「ありがとうございます、フランチェスカさん」と慇懃に頭を下げたネルは、フランチェスカの親切にお礼を述べた。
そんな二人を横目に、アルサスはウェスアの全景を見つめた。ベスタ教とともに、歴史を刻んだ町並みは、夕日によってオレンジ色染まっている。
妙に恥ずかしくて、誰にも言ったことはないが、アルサスは、この時間帯の穏やかで静かなひとときが、昔から好きだった。「魔法の時間」それは……そう、それは妹から教えてもらったのだ。人も草木も街も空も雲も、あらゆるすべてものが、同じ色に淡く染まり、美しく輝く時間帯、だから「魔法の時間」と呼ぶのだと。
だが、センテ・レーバン見た夕日も、ガモーフでみる夕日も、見える夕日は同じ赤色をしているものの、何故か、アルサスは不安を拭いきれなかった。
「お腹すいたね。アルサス、街についたら、何かおいしいもの食べようね」
不意に、ルウが歩速を緩めてアルサスの隣に来ると、小声で言った。どうやら、フランチェスカたちに救われてから、妙に黙りこくったアルサスの事を気遣ったみたいだ。ルミナスから数日間、共に旅をして分かったことがある。ルウは普段、賢い自分の事を鼻にかけたような物言いをするが、時折、もっと子どもらしくないことがある。それが、まさに今、アルサスの事を気遣い、顔色を伺うルウの姿だ。
ルウは、まだ物心がつく前から、魔法の才能を見出され、ルミナス魔法学校に入学し、以来ずっと両親と離れ離れで暮らしてきた。そんな彼が年上の同級生たちに囲まれて、身につけた、ひとつの処世術なのだろう。本当なら、図書館で古書を読み漁るよりも、友人たちと走り回っている方が楽しい年頃だ。かつて、アルサス自身がそうであったように。
「じゃ、大盛り定食な」
アルサスは冗談を口にしながら微笑むと、ルウの頭をわしわしと、撫でてやった。
ギルド・リッターの腹のうちは分からなくとも、ネルとルウの身だけは守ってやる……。それが、すべてを捨てて、あいつに何もかも押し付けてしまったのに、一番肝心なことを迷い続けている。そんな自分に、今出来ることはそれしかない。
ぐっと、こぶしを硬く握りながら、アルサスは、馬上でネルと楽しげに会話を交わすフランチェスカの横顔を睨みつけた。
アトリア連峰に沈む夕日を左手に、センテ・レーバン王都からの街道をゆっくりと進む騎馬の一団があった。戦闘を進む白馬には、鞍のアタッチメントに、小さな旗がつけられている。剣と盾、立国より数百年、群雄割拠した八百諸侯を武力で統一した、センテ・レーバン王国の国旗である。そして、国旗の上には赤いひも状のリボンがくくりつけてある。それは「使者」を意味する、万国共通のサインだ。
つまり、白馬が率いる一団は、センテ・レーバンの使者の一団である。
その白馬にまたがるのは、一人の青年だ。名はクロウ・ヴェイル。年の頃は二十歳を直前にして、栗色の髪の下の顔はまだ少年のあどけなさを残してはいるものの、鼻筋の通ったなかなかの精悍な美男子である。そんな彼は、銀色に、ブルーのラインと金の飾りがあしらわれた鎧を身に纏っている。銀色の鎧はセンテ・レーバン騎士団共通の甲冑であり、ブルーのラインは「親衛騎士団」をあらわしており、襟首にあしらわれた金の飾りは部隊長の証である。
「クロウ隊長。もうじき、アローズ関所です。陽が暮れるまでには、到着できそうですね」
青年の名を呼び、前方に見えるアトリアの谷を指すのは、彼の隣を併走する副官だ。顔立ちの整ったクロウと並べば、野獣のように見えるが、クロウが最も頼りにしている、歴戦の戦士でもある。
「親書はここに。魔法使いギルドと戦をするわけではないですから。不用意に、剣を抜くようなことがないように、隊の者たちにも徹底しておいてください」
クロウが肩から提げた筒には、魔法使いギルドへ宛てた宰相府の親書が入ってる。クロウ隊の任務は、これをアローズ関所で待つ、魔法使いギルドの使者に手渡すことだ。その上で、宰相閣下の指示通り、センテ・レーバン王国と、ルミナス島での一件は、何のかかわりもないと伝える。
事情の委細を聞いているわけではないが、宰相閣下の命令を伝達したメッツェ参謀官は、妙にいらだっていた。その理由を問いただすつもりはないが、十中八九、センテ・レーバン王国はルミナス島の一件に関わっている。魔物を使役して、ルミナスを襲わせる。それに何の意味があるのか……? 思わず考えようとしたクロウは、騎士のするべきことではない、騎士は命令に忠実であればいい、という自分への戒めを思い出して、メッツェに問いただすことはなく、アローズへ旅立った。
「しかし、ライオット宰相閣下も人使いが荒い。細かいことは何も教えてくれないのに、アローズへ行けといわれたかと思えば、戻って来いといい、そしてまた、アローズへ出向けと。これでは、宰相府の小間使いじゃないかと、口にする者たちもいます」
副官は、渋い顔をしながら、部下たちを振り返った。みな騎乗してはいるものの、突然の命令に辟易しているのは目に見えていた。
「ライオットさまの陰口を叩いても仕方がないでしょう、副官。今は、これをお届けするだけです」
と、クロウがこともなげに言うと、副官は嘆息を返してきた。
「隊長は真面目すぎます。他の隊長のように肩の力を抜いてください」
「小間使いが出来るということは、この国が平和だということですよ。もう、十年前のようなことがあってはならない。これからの騎士の務めは、戦をすることではなく、平和を守ることです」
「やはり、隊長は真面目すぎますな」
副官の声は、アトリアからの風に流されて消えていく。
やがて、その風が夜風に変わる頃、クロウ隊はアローズの関所へと入った。関所内は、小さな町となっている。とはいっても、関所はそもそも生活する場所ではないため、住居などはなく、簡易の宿場や酒場が軒を連ね、旅人を待っている。その、メインストリートの突き当りには、感嘆には乗り越えられない高い壁と見張り櫓が設置され、空白地帯との境にあたる大門がある。すでに出入国管理の時刻は過ぎているため、門は固く閉ざされていた。
ここは、センテ・レーバンの玄関口でもある。国境を越える方法はいくつかあるが、そのどれもが峻険な難所であるアトリア連峰を山越えしなければならず、魔物に出くわしたり、自然の猛威に阻まれたりする。また、ここより東にあるアトリア最高峰「シェラ山」のふもとには、ここと同じような谷間があるが、こちらはガモーフと直接国境を接しているため、要塞が築き上げられて、外国の旅人はおろか、センテ・レーバン人ですら、通過する事を許されていない。
つまり、安全に国境を越えるには、アローズを通過するのが一番良い方法である。そのためか、閉ざされた関所の門は、大の男が寄って集っても、開けることは容易ではないほど巨大だ。それゆえ、「アローズの大門」と呼ばれている。
その大門の傍に、大きな建物がある。アローズの出入国管理局の建物だ。ここで、通行手形を提示し、問題がないと判断されれば、門をくぐることが許されるようになっている。そのため、入り口にはつねに、屈強兵隊が立っている。
彼らは、クロウの一団が到着したと知るやいなや、居住まいを正して、クロウを出迎えた。
「クロウさま、魔法使いギルドの方々は、当館の来賓室でお待ちしております」
「分かりました。馬をお願いします。僕……いや、私の付き添いは副官だけ、他の者はここにて待機。大事にはならないから、休息でもとっていてくれ」
クロウは部下たちに指示を与え、馬の手綱を兵隊に預けると、副官を従え管理局の建物へと足を踏み入れた。
来賓室とネームの打たれた部屋で待っていたのは、黒いローブの正装に身を包んだ、魔法使いギルドの使者である。彼らは、意外にも歳若いクロウが入ってきたことよりも、彼が騎士の格好をしていることに驚いているようだった。
「これは、これは、親衛騎士さまがおいでくださるとは思いもよりませんでした」
席を立ち、使者の男はクロウに頭を下げる。やや皮肉が込められていることに、クロウは気づいていた。そもそも、こういった外交ごとは、外交官の仕事であり、騎士団の仕事ではない。それは、つい先ほど、隣に居る副官に言われたことだ。
「此度は、わざわざルミナス島よりおいでくださいました。こちらが宰相府よりの親書にございます」
慇懃な言葉を並べつつも、クロウは筒に入れられた親書を取り出した。すると、使者は少しばかりそれを受け取るのを拒んで見せた。
「宰相府から? 我らギルドは、王陛下さまに此度の一件の説明をいただけるものと思っておりましたが」
「ご存知の通り、先王はさきごろご逝去されました」
「しかし、次代にはご正室の御子であらせられる、シオンさまがおつきになるのでは?」
やや、使者の目の色が変わるのを、クロウの隣に控える副官は見逃さなかった。
「ご使者どの! それは内政干渉ですぞ。まだ、次代の王は決定しておりません。シオンさまはまだ幼い上に、われらには……」
「副官! 余計な事を言わないで下さい!!」
ピシャリと言葉を遮ったクロウに、あからさまにしまった、という顔をした副官は「失礼しました」と言ったきり口を噤む。
「とにかく、宰相閣下が現在、わが国の最高意思決定者であります。その閣下からの親書にも書かれている通り、わが国は此度の一件とは何の係わり合いもありませぬ。これ以上の詮索は、ギルドへの正式な遺憾の意として表明せざるを得ませんと、ギルド長さまにお伝えください」
「なるほど、それは我々魔法使いギルドも望まないことでございます」
クロウから親書の入った筒を受け取った、魔法使いギルドの使者は、センテ・レーバン側の真意を悟ったのか、クロウの言葉に意外にもあっさりと引き下がった。
「しかし、近頃、センテ・レーバン王国は軍備を拡張しているという話しも聞きますが? その脅威がある限り、納得したとしても、疑念は拭い去れませぬぞ」
「分かっております。しかし、軍機ゆえ、専守防衛のためとしか答えられません。もっとも、我ら王国も、ギルドと事を起こしたいとは思っておりません。穏便に、済ませられるならそれに越したことはありません」
クロウはそう言って、ダメ押しの一手を懐より取り出す。出立前に、メッツェから渡されたものだ。金一封、即ち賂の類である。使者を金で買収する。政治としては、常套手段の一手である。しかし、その事を知らなかった、苦労の傍に控える副官は少しばかり驚いた顔をしていた。
穏便に、その意味を噛み砕くように、使者は賂の入った封筒を受け取ると、ニヤリと歪んだ顔を正し、使者然とした口調で、
「左様にございますか。では、親書は確かに、ルミナス魔法学校校長であるギルド長さまにお届けします」
と言った。
あっけなく使者との談合は終わり、管理局付きの兵隊につれられ部屋を後にすると、来賓室は静かになる。
「賄賂とは、政治家どもの考えることは、理解できませんな」
副官が憤りを言葉に乗せる。
「僕もです。だけど理解しなくても、いいんじゃないですか? 僕たちは、国を守る騎士団として、その任務をそつなくこなす、それだけでいいんですよ」
クロウは、小さく笑った。だが、その笑顔は、どこか自嘲にも似た色をしていた。
「そのような物言い、お父上が聞かれたら、お嘆きになりますぞ」
「苦言はよしてください、父は十年前に死んだのですから。死んだ人は、もう嘆くことも怒ることもできやしません。それより、副官。直ちに、王都へ引き返します。その前に、エーアデ通信を使って、メッツェさまに報告。『首尾は上々』と」
クロウはそう告げると、副官の返事を待たず来賓室を出て行った。
※7 ミスリル……この世界で採掘されるレアアースのひとつ。魔力を帯びた金属鉱石として知られている。
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