第20話 柔らかな白銀の毛織物と、至高の窯焼きピザ
第20話 柔らかな白銀の毛織物と、至高の窯焼きピザ
穏やかな朝の陽光が、無名の浜辺に打ち寄せる波をキラキラと輝かせている。
洞窟の拠点、その広大なリビングの丸窓から差し込む光を浴びて、僕はゆっくりと目を覚ました。ベッドの横では、クロとアカが相変わらず無防備な姿で高いイビキをかいている。
外からは、ウィィン、ウィィンという微かな駆動音と、土を耕す音がリズミカルに聞こえてきた。昨日創り出した魔水晶の従者、ゴレとレムが、すでに畑の世話を始めているのだろう。
「おはよう。今日もいい天気だな」
僕はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
朝の身支度を済ませてテラスへ出ると、ゴレとレムがパタパタと走り寄ってきた。
(マスター、オハヨウゴザイマス。水魔稲ノ二期作目、順調ニ生育シテイマス。家畜ノ健康状態モ良好デス)
「ありがとう、二人とも。助かるよ」
彼らの滑らかな陶器のような頭を撫でてやると、目元の青い光が嬉しそうに明滅した。
今日の予定は、昨日思いついた二つの大きな計画を実行に移すことだ。
一つは『柔毛羊』の毛を使った新しい衣類の作成。
もう一つは、新鮮なミルクを使った『チーズ』の精製と、それを用いた『ピザ』の調理である。
僕はまず、ゴレとレムを連れて牧場へと向かった。
立派な木造の牧舎の中では、甘乳牛たちがのんびりと干し草を食み、その奥で柔毛羊たちが巨大な綿あめのようにモフモフと寄り添って眠っていた。
「よし、まずは羊たちの毛刈りだ。放っておくと毛が伸びすぎて動けなくなるらしいからな」
僕は『万能創造』で、鉄と魔力を組み合わせた特殊な『魔導バリカン』を創り出した。刃先に微弱な風の魔力を纏わせることで、皮膚を絶対に傷つけず、毛だけを滑らかに刈り取ることができる優れものだ。
眠っている羊たちに近づき、そっとバリカンを入れる。
スルスルルッ……。
まるで雲を削り取るように、純白でフワフワの毛が驚くほど簡単に剥がれ落ちていく。刈り取られた毛は、ゴレとレムが器用に集めて巨大なカゴに収めてくれた。
数分で六頭すべての毛刈りが完了した。スッキリとした姿になった羊たちは「メェェ」と気持ちよさそうに鳴き、身軽になった身体で牧場をピョンピョンと跳ね回っている。
「すげえ量だな……。しかも、手触りがとんでもない」
カゴに山積みになった白銀の毛に手を入れると、まるで極上のシルクとカシミヤを掛け合わせたような、信じられないほどの柔らかさと温かさが伝わってきた。しかも、魔力を帯びているためか、微かに発光しているようにさえ見える。
僕はその大量の羊毛を工房へと運び込んだ。
ここからは魔法の独壇場だ。
「不純物除去、繊維抽出、及び撚糸!」
空中に浮かべた羊毛から、ゴミや脂が弾け飛び、純白の繊維だけが抽出されていく。それらがシュルシュルと絡み合い、あっという間に細くしなやかな毛糸の束へと変わった。
さらに、以前森で採取した『天雲綿』と『鋼蜘蛛の残り糸』を織り交ぜる。羊毛の保温性と柔らかさ、天雲綿の通気性、そして鋼蜘蛛の糸の絶対的な耐久性。これらを組み合わせた『究極の複合素材』の完成だ。
「よし、これで新しい服を創ろう」
僕が現在着ている開拓服も素晴らしいが、これだけ極上の素材があるのだ。リラックスタイムに着るための肌触り重視のルームウェアと、今後の探索や作業に向けた、より強靭でお洒落なコートを創りたい。
頭の中でデザインを描き、魔力を注ぎ込む。
空中で糸が複雑に編み込まれ、みるみるうちに形を成していく。色は、森で採取した植物の染料を魔法で定着させ、落ち着いた深いネイビーブルーと、温かみのあるキャメル色に染め上げた。
完成したのは、肌に吸い付くような滑らかさを持つネイビーのルームウェア上下と、機能的なポケットを多数備え、動きやすさを極限まで追求したキャメル色のロングコートだ。
早速ルームウェアに着替えてみると、あまりの心地よさにため息が漏れた。
「……人をダメにする服だな、これは」
冬場の寒さも、この服が一着あれば全く問題ないだろう。エンチャントで『自動浄化』と『温度調節』も付与してあるため、一生着ていられる代物だ。
服作りを終えると、次はいよいよ『チーズ作り』だ。
牧場で甘乳牛から搾りたての新鮮なミルクを大量にバケツに汲んでくる。
キッチンに戻り、ミルクを巨大な鍋に入れて適温に温める。通常、チーズを作るには「レンネット」と呼ばれる酵素が必要だが、僕には『万能創造』と『解析』がある。
森で採取してきた特定の香草から、ミルクのタンパク質を固める成分(植物性凝乳酵素)を抽出し、鍋に投入した。
「凝固促進、及び水分分離!」
魔力を流し込むと、真っ白なミルクが瞬く間に豆腐のように固まり(カード)、黄色みがかった液体と分離した。
固まったカードを取り出し、熱湯の中で練り上げていく。
ビヨォォォン……!
魔法で温度と質感をコントロールしながら練り込むと、チーズがまるでつきたての餅のように美しく伸び始めた。
「よし、完璧な『モッツァレラチーズ』の完成だ」
冷水に落として形を整え、ツヤツヤの白い球体がいくつも出来上がった。さらに、残りのカードに塩を加え、魔法で『超時間熟成』を施すことで、旨味が極限まで凝縮された硬質な『パルミジャーノ風チーズ』も創り出した。
「チーズができたなら、あとは『窯』だな」
僕はテラスの一角に移動し、耐熱性の高い岩石と粘土を空中に浮かべた。
ピザを焼くためには、五百度以上の超高温をドーム状の空間で均一に保つ必要がある。
「ドーム型窯構築、及び火魔石の熱源配置!」
ズゴゴゴッという音と共に、テラスの端に立派な石窯が組み上がった。内部には、微細な魔力で数百度の熱を発生させる火魔石を計算し尽くされた配置で埋め込んである。薪を燃やす必要もなく、スイッチ一つで一瞬にしてピザ焼きに最適な温度に達するチート仕様だ。
準備はすべて整った。
時刻はちょうど昼過ぎ。太陽が高い位置から海を照らし出している。
僕は特設キッチンの調理台に立ち、ピザ生地の準備を始めた。
昨日精製したばかりの小麦粉に、水、特製天然塩、そして魔法で培養した酵母を混ぜて練り込む。魔力で一瞬にして発酵を終わらせ、フワフワになった生地を空中に放り投げ、遠心力で薄く丸く広げていく。
「ソースは……トマトがないから、これで代用するか」
森で採ってきた、トマトに似た酸味と旨味を持つ『赤玉果』をすり潰し、オリーブオイルの代わりになる植物油とガーリック風の香草、塩で煮詰めた特製トマトソースを生地にたっぷりと塗る。
そして、トッピングだ。
一枚目は、王道の『マルゲリータ風』。
たっぷりの特製トマトソースの上に、先ほど作ったばかりのモッツァレラチーズをちぎって乗せ、バジルに似た爽やかな香草を散らす。
二枚目は、『異世界シーフードミックス』。
地底湖で獲れた『水精水晶海老』と、海で獲った『幻影魔蛸』のスライス、そして『白銀大貝』をこれでもかと乗せ、上からパルミジャーノ風チーズを削りかける。
三枚目は、『突角豚の特厚ベーコンと深水魔蓮の和風マヨネーズピザ』。
鳥の卵と油で作った自家製マヨネーズソースをベースに、分厚いベーコンとシャキシャキの蓮根を乗せ、錬成醤油をひと回し。
「いくぞ!」
僕は木製のピザピール(巨大なヘラ)に一枚目のピザを乗せ、五百度に熱された石窯の中へ滑り込ませた。
ジワァァァッ……!!
石窯に入れた瞬間、生地がプクゥッと膨らみ、ソースがグツグツと沸き立つ。
わずか一分少々。
チーズがトロトロに溶け、生地の縁にヒョウ柄のような美しい焦げ目がついたところで、一気に引き出す。
強烈な小麦の香ばしさと、焦げたチーズの暴力的な匂いがテラス全体に爆発した。
(お、おおお……!? 主よ、なんだその丸くて平べったいものは! すさまじく良い匂いがするぞ!)
(黄色い脂とも違う、なんとも言えない濃厚な匂いだ! 早く、早く食わせろ!)
昼寝から目覚めたクロとアカが、目を血走らせながらテーブルに詰め寄ってきた。ゴレとレムも、興味深そうに目元の光を点滅させている。
「これは『ピザ』っていうんだ。熱いから気をつけろよ」
僕はピザカッターで八等分に切り分け、一切れをクロの巨大な口に放り込んだ。
(……ッッ!!? な、なんだこれはぁぁぁっ!!)
クロが目を見開き、尻尾を千切れんばかりに振る。
(サクサクの土台から、酸味のある赤い汁と、ドロドロに溶けた濃厚な脂のようなものが絡み合って……口の中が旨味の洪水だ!! なんだこの伸びる白い塊は!!)
「それがチーズだよ。牛のミルクから作ったんだ」
(あの草食獣からこんな悪魔的な美味さのものが生まれるのか!? おかわりだ! もっとよこせ!)
アカにもシーフードピザの一切れを与えると、美味さのあまり翼をバッサバッサと羽ばたかせ、テラスに突風を巻き起こした。
(美味い! エビとタコの旨味が、このドロドロの塊に包まれて、口の中で一つに溶け合う! 主よ、これは我がこれまでの鳥生で食った中で最も至高の料理だ!)
二匹が狂喜乱舞している間に、僕も和風ベーコンピザにかぶりついた。
「……はぁ、たまらん」
ザクッとしたクリスピーな生地の食感。その直後に、ベーコンから溢れ出す強烈な豚の脂と、マヨネーズのコク、醤油の香ばしさが一気に押し寄せてくる。深水魔蓮のシャキシャキとした食感がアクセントになり、重たいはずのピザを無限に食べさせてしまう。
僕たちは、次々と石窯で焼き上げられる焼きたてのピザを、日が傾くまで無我夢中で貪り食った。
コーラがないのが悔やまれるが、代わりに地底湖の純水に果実の果汁を混ぜた特製ジュースで喉を潤す。
腹がはち切れそうになるまで食べ終えた頃には、西の空が美しい茜色に染まっていた。
「……食った食った。大満足だ」
僕は新しく創った極上のルームウェアに身を包み、テラスのリクライニングチェアに深く沈み込んだ。
傍らでは、クロとアカが腹を出して大の字になり、満足げな寝息を立てている。ゴレとレムが、テーブルの上の食器を器用に片付けてくれていた。
衣、食、住。
すべてが僕の理想通り、いや、それ以上のスピードとクオリティで完成していく。
親戚のしがらみも、家柄の呪縛もない。
ただ、自分の創り出した最高の環境で、大切な相棒たちと共に笑い合う日々。
「……次は、この服を着て、まだ見ぬエリアの探索にでも出かけてみるか」
僕は夕日に向かって呟きながら、満ち足りた思いでそっと目を閉じた。
僕の異世界スローライフは、黄金の糸と至高のピザによって、さらに幸福の度合いを深めていくのだった。
【ステータス】
名前:なし
年齢:18(肉体年齢)
職業:開拓者
レベル:61
HP:1350/1350
MP:∞/∞
スキル:
・万能創造Lv.18
・魔力無限
・空間転移Lv.6
・全ステータス補正(大)
・地球の知識
・解析Lv.15
・空間拡張Lv.6
・重力操作Lv.4
・従魔契約(Lv.8)
・水流操作Lv.5
【所持拠点】無名の洞窟(各種インフラ・石窯完備)、開拓農地、牧畜エリア、地下迷宮
【従魔】
・クロ(雷影狼・特Aランク)
・アカ(焔翼の獅子鷲・特Aランク)
・甘乳牛(4頭)
・柔毛羊(6頭)
【従者】
・ゴレ、レム
【所有物】究極の複合素材ウェア、自家製チーズ、その他極上食材・魔道具多数
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