厄介な負ける幼馴染役をやりたい!
平和である。
世間では、幼馴染の女というのは邪魔者らしい。
病弱な幼馴染を優先する婚約者に嫌気がさすとか、家族みたいなものだからと言って適切な距離を取ってくれないだとか、そんな感じで、目の上のたんこぶなんだとか。
それで最終的には婚約者ごと捨てられるか、幼馴染の女がこてんぱんに負けるらしい。
何それ、面白そう。
私もなりたい!負ける幼馴染の女!
「というわけなんだけれど、エウリー誰かいい人いないの?」
「僕を巻き込もうとしないでくれる?」
「私の幼馴染はあなたしかいないじゃない」
「僕の幼馴染もコレットしかいないけれど、そんな修羅場イヤだよ」
「あら、刺激的で楽しそうだと思ったのに」
ふうと息をつくと、エウリーは目の前でもっとため息をついた。
学園のカフェで2人で座っているのを、遠巻きに見られている。
エウリーは顔はいいもんね、身分はそこそこだけれど、本人だけ見るなら相当いい方だろうし。
幼馴染としてしか見ていないけれど、エウリーってモテるのかしらね。
あの中に、エウリーに思いを寄せている方がいたとしたら、私って今もうすでに邪魔者じゃない?
あれ、厄介な幼馴染役になれているのでは?
どうしましょう、わくわくするわ!
「なんでそうなるんだ…。君は自分の名誉を傷つけていいわけ?」
「そうなるなら、それはそれで運命なのではなくて?」
「そんな運命、自ら突っ込んでいくなよ…」
「退屈よりいいじゃない」
「黙っていれば可愛いんだから、それを最大限に活かす方向で頑張ってくれよ」
「最強に可愛い最悪な幼馴染になれるわね」
「だから…!」
エウリーはいつもの諦めた目で、仕方なく紅茶を飲み始めた。
「具体的には、どうなりたいわけ?」
ぐったりしながらも、私の話を聞こうとしてくれるこの幼馴染はやっぱりいい人ねと思いながら、私はにっこり笑った。
「どうせなら、私1人がキッパリ断罪される展開希望かしら」
「……もうそれ以上何も言うな。僕は聞かなかったことにするから」
「邪魔者は邪魔者らしく鮮やかに退場したいじゃない」
「君は、将来の社交や結婚が面倒くさいだけだろ?」
「まあ、そうとも言うわね」
平然とそう言うと、エウリーは眉間に手を当てた。
「ねえ、コレット。君は他の生徒になんて言われているか知っている?」
「なに、怖い」
「『花の精霊嬢』だよ」
「不名誉な呼び名ね」
私は表情を変えずに不満を漏らすと、エウリーは苦笑した。
「淡いピンクの髪と緑の制服が、花を連想させるんだって。言っただろ?黙っていれば可愛いうえに、君は外面は完璧なご令嬢だ。女子の憧れと男の視線が今日も絶えないわけだ」
エウリーは私がそれでは喜ばないとわかっていて説明するのだから、無茶振りへの反撃のようだ。
「私、飾り人形になりたいわけではないの」
「知っているよ」
そこだけ優しい声音でエウリーは言った。
それ以上は、厄介幼馴染役の話は聞いてくれなかった。
ちょっとハラハラドキドキしたかっただけなのだけれどねぇ。
エウリーに恋はしていないけれど、恋敵に思われるぐらいには仲がいいと思う。
互いにまだ婚約者がいないから、こんな気安い距離だけど、エウリーに婚約者ができたらきちんと距離をとるつもりだ。
ただそれをしなかったら、私は嫌な幼馴染になれて、私の評価もひっくりかえって、犠牲と引き換えに自由が手に入るんじゃないかと…、少しだけ思ってしまったのだ。
本当に、つくづく貴族令嬢に向いていないんだから。
「あ、あの…!コレット様!」
廊下を1人で歩いている時、数名の女性陣に声をかけられた。
何かしら?
「どうかいたしましたか?」
可憐な令嬢の仮面を被って、微笑んだ。
ああ、エウリーが言っていた黙っていればってこれのことね。
「あの…、その、不躾なことをお聞きしたいのですが…!」
先頭の女子がモジモジしていて、他の方も少し顔を赤らめている。
「エウリー様とのことなんですが!」
えっ!まさか、この方たちエウリーのことが好きなのかしら!?
わ、私、嫌われ幼馴染役に格上げした…!?
「やっぱり、お2人は恋仲なのですか?」
きたーーーー!!!
「だって、お2人とってもお似合いなんですものっ!」
は。
「皆、憧れているんです!」
「幼馴染で恋仲なんて、素敵ですわ!」
「子どもの頃に結婚の約束をしたとか、そういったことはないのですか?」
「きゃあ!それ素敵ね!」
「大きくなったらお嫁さんになってね、みたいなことがあったら、ときめきますねえ!」
…………なんか、応援されている。
そうじゃなくて、こう、エウリーに近づかないでくださいまし!のような、罵倒とか…。
「やはりそろそろ婚約されるのですか?」
「いいえ、そのような話は…」
「では、これからなのですね!私たち、ずっと応援していますわ!」
……厄介幼馴染役って、難しいみたいだわ。
「…それで、あなたと恋仲だと思われていたのだけれど」
「まあ、仕方ないんじゃない?学園でコレットが自ら話しかけに行くのは、僕くらいなものだし」
「悪かったわねぇ、友達がいなくて」
「コレットは、高嶺の花だと思われているから」
「だからって、なんでこんなに持ち上げられているのよぉ…」
「控えめ令嬢の思考がぶっ飛んでいるなんて、誰も想像しないからじゃない?」
「あなた、目障りなのよ!みたいな鮮烈なセリフを言われてみたかったわ」
がっかりしても表情に出さずに、今日もカフェでお茶を飲んだ。
前よりも、女性陣の視線が増えた気がする。
エウリーに恋しているとかじゃないのよね、きっと。
はああ。
「それなら、本当に僕と婚約する?」
エウリーの爽やかな言葉に、紅茶を吹き出しそうになった。
「は」
「僕といればずっと無茶なことを言っていられるし、まあ叶えてあげられるかは別だけど、退屈はしないんじゃない?」
「……本気?」
「気安い相手の方が、君にとってはまだマシだろう?」
「……厄介で負ける幼馴染になりたかったのに」
「コレットがなれるのは、なぜかみんなに祝福されちゃう幼馴染だよ、たぶん」
エウリーは、なんでもないように笑った。
「社交、手伝ってくれる?」
「もちろん。コレットの苦手なことはだいたいわかるし」
「はああ、こんなはずじゃなかったのになあぁ」
私のため息に、エウリーはいつものように笑うのだった。
了
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