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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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クラーラの求婚者~筋肉がすべてではありません~

作者: 高瀬あずみ
掲載日:2026/03/05

暴力表現が一部あります。

魔法が少しだけあるなーろっぱ。


 私、クラーラ・アンドルリークへの求婚者は多い。下は騎士爵家の次男から、上は侯爵家の四男までと幅広い。別に誇りたくなどなかったのに。

 実家を継げずに、下手をすると貴族と名乗れなくなるような、嫡男以外に大人気なのだ。そう。子爵と身分は低いが、歴とした跡取りの総領娘が私。


 身分も財産も地位も。容姿や性格と同じように、その人の“個性”のうちだと私は思っている。

 顔も性格も良い貧乏騎士爵家の次男と、顔も性格もよろしくないけど実家が大金持ちでもある侯爵家の四男の、どちらを選ぶかって問われたら、大抵の女性は後者を取るんじゃないかと思うから。


 なので、子爵家の跡取り娘であることもまた、私の個性であり長所。そうとでも思わないとやっていけなかった。主に、同性からのやっかみが酷くて。


「ご覧になって。またクラーラ様が大勢の求婚者に囲まれておいでよ」

「なかなかお相手を決められないのは、ああやって見せつけるためかしら」

「あの程度の御面相であっても、跡取り娘であるだけでちやほやされますのね」

「よろしゅうございましたわね。跡取りでなければ、きっとどなたにも振り向いてはいただけなかったでしょうに」


 こんな風に言われるのが日常なんである。彼女たちも婚活に必死だから、なんて広い心で許したりはできない。彼女たちが“嫁入り”するには不適切な求婚者しかいないのに陰口叩かれてはね? 一部のお仲間(跡取り娘)からは、さっさと決めて残りを放出しろという圧も感じるけれど。

 そう。私以外にだって、家を継ぐ予定の令嬢は何人もいる。そして彼女たちにも複数の求婚者がいる。ただ私の場合、その数が桁外れなだけで。


「クラーラ様はあんなに地味でいらっしゃるのに」


 これは陰口でなく、事実である。茶色の髪に茶色の瞳。庶民にも多い色目であり、金髪碧眼がもてはやされる貴族界隈では下に見られる色だ。

 でも言わせて欲しい。顔が悪いわけではないと。整っているのだ、容姿は。髪色のせいでぱっとしないだけで。その髪だって、ゆるやかなウェーブが掛かった艶髪で、見苦しいほどではないと。



 そして学園入学する十五にもなったのに私の婚約者がいないのは、父のせいである。

「クラーラが気に入った相手を選ぶとよい」

 これだけ聞くと娘思いの父にしか思えないが、実態は娘に丸投げしているだけだ。家長だろうと詰め寄ったところで、

「クラーラの判断の方が信用できる」

 そう言われておしまい。まるで貴族家当主に相応しくない男、それが父なのだ。

 そんな父が子爵家を背負って来られたのは母の功績が大きい。


「適材適所というのですよ、クラーラ。あの方は騎士として剣を振るうことで輝く方なのです。子爵家当主として縛り付けるのは国家の損失にもなりましょう。なればこそ、わたくしが些事を引き受けるのですわ」


 伯爵家から嫁いできた母は、そうして子爵家の仕事を一手に引き受け、見事に治めている。元々、我がアンドルリーク家は武門の家系。書類仕事や数値での管理は代々苦手にしてきた。それを補うために選ばれたのが母。些事などとはとんでもない。子爵家が回っているのは母がいてこそ。


「ひとたび戦場に立てば、人心の把握も戦略の構築もお出来になるのですから、まったく向かないわけではないのです。苦手意識を強く持たれているだけ。ですがクラーラ。あなたがアンドルリークを継ぐに当たって、婿に求められるのは強さとなりましょう。そうでなければ武門の誇りを持つ者たちがついてきません。だからこそ、あなたにはわたくしの知るすべてを教えましょう」



 そんな頼もしい母ではあるが、私の婚約者を決めてはくれない。

「相性というものは、たしかにあるのです。例えばあなたは学問に優れた男性に憧れているようですが、そういう方はアンドルリークを望まれません。なおかつ、会話を交わし仲を深めようとしても、“あなた”が壁を感じるのではなくて?」


 母の慧眼には頭が下がる。実は貴族の通う学園で憧れの先輩がいたのだ。知的で物腰も柔らかく、いつも微笑みを湛えた伯爵家の三男。父やその部下、親戚の男性連中とはまったく違う、そつなく上品な有様にぽーっとなってしまったのは確かだ。押したらいけるのではないか、と正直、思ってはいた。けれど実際に話してみれば、先輩は主導権を握りたい人種だと感じてしまい、自ら立つことを教え込まれた私とは反発するであろう予感が消せないままに終わる。流されて委ねてくれる人ならば良かったのに。


 故に、自己顕示欲が強く、権力を欲する求婚者は弾くしかない。残るのは父と同様の筋肉信奉者たちだ。好みじゃない、というだけで切り捨てられたらどれほど良いか。実際にそうしたら求婚者がいなくなる。婿は必要なのだ。


(せめて筋肉は少なめで……)


 礼服を着た時に、はち切れそうなタイプは遠慮したい。実際にそうではなくとも、頭が悪そうだと捉えられるのが貴族社会である。他家に侮られるのは我慢ならない。父ほど突き抜けていれば、また話は違ってくるのだが。



 憂鬱な気分でひとり、学園の裏庭で黄昏ていた。裏表のある令嬢たちも、押しかけて来る求婚者たちも振り切って、ようやく手に入れた一人の時間。

 けれど、我が身の不幸を嘆く愉しみは、近づいてくる喧噪にあっさりと霧散する。咄嗟に姿を隠してしまったのは、もはや習性と言うべきか。


「まったく、貴様を目にするとイライラする」

「……」

「ああっ? 聞こえないぞ、はっきり言え!」

「僕、は、あの……」

「弱いくせに反論するつもりか?」


 明らかに、人を殴った音がした。背後にあったであろう茂みが、倒れた身体を支えきれずに折れていく音も。


 物陰から覗くと、加害者は知っている人物だった。私の求婚者のひとりである筋肉――ではなく、子爵家の次男坊だ。彼は、茂みに埋まった人物の胸倉を掴んで引き上げ、地面に転がす。


「男のくせに情けないな、おい」


 そうして今度は蹴りを入れ始めた。それも何度も。

 彼は私の父の信奉者であり、私の前では今のような陰湿さをまったく見せなかった。さわやかな笑顔で私を口説こうとはしてきたが。


(そう。こっちが本質なのね)


 私は気配を消して、抵抗できない相手を甚振ることに集中している彼の、背後から軸足を払う。相応の右足への痛みは無視して、バランスを崩して仰向けに倒れた彼の鳩尾(みぞおち)に向かって、勢いをつけて体重を乗せて肘を落とした。入った、と確信する手応え。見ると口から泡を吹いて気絶している。そして被害者もまた――。


「しっかりして! すぐに救護室へ運ぶから!」


 私はアンドルリークの嫡女である。普段は令嬢然としていても、咄嗟に手も出る、足も出る。ましてや、体術の教師に事欠かない環境で育った、あの父の娘だ。どれほど男であったらと嘆かれたことか。


 薄目を開けて朦朧としている被害者は、我が身を守るために身体を丸めていた。まだ腫れあがっていない顔は、それでもこのままでは悲惨なことになりそうな状態で、一刻も早く冷やして治癒して貰わねばならない。殴られた顔、蹴られた背中に向けて冷気を送る。それから自らの肉体に魔力を巡らせて、肩へと担ぎ上げた。大柄でも長身でもないのは幸いだ。私自身は女性としても小柄な方なので、身体強化したところで、男性相手だと運ぶ際に地面に引きずってしまうことが多く、結果、余計な怪我を増やしてしまったりするから。


 現場が裏庭だったこと。救護室が裏庭から近かったことも幸いした。更に、救護室に詰めていた治癒師が顔見知りであったので話も早い。

 貴族の子女を預かる学園だからこそ、何かあっても困らないように、交代で実力者が派遣されるとは聞いていた。その通り、騎士団の遠征にも同行する腕の良い治癒師だ。事情を話して、後を託す。部屋を出る段になって、放置してきた男のことを思い出して報告。忘れたままであれば、学園に入り込んだ不審者にやられたとか、見当違いな騒ぎが起こったかもしれない。危なかった。




 そのまま立ち去った私は、家に帰って子爵家次男の釣り書きを返却。そして、そんなことがあったと忘れてしまった。母からの後継者教育と学園生活で忙しいのだ、これでも。


 思い出したのは新たな求婚者が現れたからだ。


「あの時は助けてくださってありがとうございます。僕はダヴィト・バイガル。男爵家の五男になります」


 脳内で貴族名鑑をめくる。バイガル男爵家は地方貴族だ。あまり余裕もない(平たく言えば貧乏)のに子沢山の家系で、当然、学費の支払いすら厳しいはずだが、長男以外は順次、奨学生として通っているらしい。寄り親の伯爵家からして中立で、政治的にも問題はない。


 改めて、倒れている時にはろくに見なかった彼を眺める。


(栄養が足りてないんじゃないかしら)


 同い年のわりに背が低く、ほっそりと言うよりもガリガリに近い。確か、バイガル家の所領のある地方で数年前、大きな災害があったのではなかったか。奨学生になれるならば領地に置いておくよりも王都の学園に行かせた方がマシ、という事だろう。ただし、奨学金はほぼ学費と寮費にしかならないはずで。しかも実家からの送金は期待できそうにないとくれば。他家の懐具合を予想するのは品が無いが、相手が敵対する場合に備えての情報収集はしておくに越したことはない。


「治癒師の方から助けてくださったのがアンドルリーク嬢と聞いて、遅くなりましたがお礼を。そして僕が手も足も出なかった相手を軽々と倒すあなたに心を奪われました。我が家も僕自身も、あなたにもアンドルリーク家の益にもならない存在だと承知しています。でもどうか、求婚者の片隅に置いてもらえませんか。そのためなら、なんだってします」


 視線はまっすぐで、そこに偽りがあるようには見えなかった。誠実、なんて単語が頭をよぎる。


「忠告しますわ。“なんだってする”、などとおっしゃっては、ご自身の首を絞めることになりかねません」

「ご心配、ありがとうございます! ですが、僕にできることは限りがありますが、あなたのためなら、なんだってしてのけます!」


(これは馬鹿正直という奴かしら。悪い人につかまって売り飛ばされそうな怖さがあるわ)


 私が悪人ならどうなっていたか。売り飛ばされるのならば、いっそ。

 きっと彼があまりにも細くて。あまりにも弱々しくて。だから憐れを誘われたのだと思う。奨学生になれるくらいの頭があれば、将来は文官試験にも合格する可能性は高いだろう。けれど、今のような様子であれば、きっと彼は侮られる。あの子爵家の次男坊と同じような低俗な輩に。


「そこまで言うのであれば、授業の終わった後、我が家においでなさい。そうして指示に従ってもらうけれど、よろしい?」

「はい! がんばります!」

 何をさせられるのかさえ問い返さない彼が、一層不憫になった私である。



 我が家に連れ帰ったダヴィトを私は父に引き合わせた。

「性根は悪くありません。根性もあるかと。ただしこれまで十分な環境がなく、真っ新な状態でもあります。ぜひ、お父様にご指導いただきたいのです」

「クラーラからの頼み事なぞ初めてではないか? 任せておけ! まずは栄養と体力。よいか若者。修行の道は終わりなき試練の連続よ。厳しき毎日、手加減はせぬぞ?」

「はい! よろしくお願いいたします!」


 こうして私はダヴィトを虎の穴……もとい、父に任せた。あれで、人を育てるのも中々上手い。彼が付いて行けるかは、かなり不安ではあるのだが。脱落するにせよ、父に師事したと言うだけで、ダヴィトにも箔が付く。うちの父はあれでも騎士団の団長。そして当代の剣聖であるからして。だからこそ、私への求婚者は多いのだ。




 それから、私とダヴィトに個人的な交流もまったくないままに月日が流れた。

 家で、学園でたまに見かける彼はいつだってボロボロで。ただ見る度に体つきがしっかりしてきたように思えた。意外だったのは、彼が父の指導に食らいついて離れなかったことか。


「あれは、ダヴィトは見込みがある」


 滅多に個人を褒めない父には珍しく、名指しで告げた頃には一年以上が経っていた。

 食事事情も悪く、体力すら危うく、剣術も体術も縁がない、どちらかと言うと頭脳労働者系と思われた彼が、たった一年やそこら修行をつけられただけで、剣聖である父にこうまで言わせるとは。


「彼には剣の才能があったのですか?」

「なかった! というよりもそれ以前だった! まったくの無垢、白紙であった。それ故に貪欲にすべてを吸収して己のものとしようとする精神力が良い。強さは心があって初めて成り立つのだ!」


 その素直さと向上心から、父の部下たちからも可愛がられ、そうして。学園生活の最後を飾る行事、騎士団への登竜門、剣術大会へとエントリーするまでになった。予選から本選まで、すべてトーナメント方式の勝ち抜き戦。一部の既に認められた実力者は本選からの出場となる。けれど、剣を使うとも思われていなかったダヴィトは予選からの挑戦だ。


 途中から学園寮を出て、我が家で騎士たちと寝起きしているのは聞いていたが、本館で暮らす私とはほぼ接点がなく、まともに顔を見たたのも二年ぶりである。


(随分と……育ったこと)


 観覧席から見下ろして、真っ先に思ったのがそれだった。明らかに同年代の男子よりも低く細かったダヴィトは、今や周囲の騎士候補者たちと遜色がない。成長期と重なったのも良かったのかもしれないが。父やその部下たち筋肉達磨を見慣れている私からすれば、まだ細いとは感じられたが、背丈は順調に伸びたようだ。我が家の男たちは『よく食べ、よく動き、よく眠る』を掲げている。それが嵌ったのだろう。



 この大会には、私の求婚者が何人も出場している。残念ながらこの二年、婚約を決めかねて停滞していた。おかげで周囲の令嬢からはすっかり嫌われてしまっている。求婚者の半数にはお断りをして減ってはいるのだ。残ったのはいずれも父の信奉者というか筋肉教信徒たちで、誰であっても大差がなかった。決定打がないまま来てしまったが、できれば婚約は学園在学中に決めておきたい。


(でも彼らの中から、選ぼうという気になれないのよね)


 それならばいっそ全員断ろうかとも思ったのだが、それは母に止められた。


「遠い異国のことわざに、『男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』というのがあるそうです。彼らもあなたも成長しているのですから、もう少し焦らず様子見してごらんなさい」



 尊敬する母の言葉だから従ったが、私の目には残った求婚者たちは同じようにしか見えず。だからか無意識に、大会では一番害の無さそうなダヴィトの戦いぶりに注目していた。


 けれど、やがて観覧席から見下ろすほぼすべての人間がダヴィトから目が離せなくなっていく。


 どんな体勢になってもぶれない体幹。広い視野と先を見通す目で常に数手先を取る。揺るがない巧みな剣筋。迷いのない足さばき。

 そうして勝ち上がっていく度に、周囲の温度が上がり熱狂の渦が巻く。予選から本選へ。本選を勝ち抜いて、ついには決勝まで駆け上がる。そこにはドラマと、そしてロマンがあった。未来の英雄の誕生の予感が会場を震わせる。


 やがてダヴィトが相手の剣を跳ね飛ばして決着すると、地鳴りがするほどの歓喜が坩堝の中のように沸き立った。もはや、隣の声すら聞き取れない大歓声の中、私は対戦者の唇を読む。


「なんで、貴様がっ……!」


 かつてダヴィトに殴る蹴るの暴行を加えた子爵家の次男がそう呟いて、勝者となったダヴィトに背後から殴りつけようとするのを見た。見ていたのは私だけではない。悲鳴が上がる中、振り返りもせずにダヴィトが避け、彼の手首を掴んだ。それだけで動けなくなる相手。もうすべてが逆転してしまったのだ。


 決着のあとのこの暴挙に、観客は怒り、そして審判は子爵家次男に失格を宣言した。愚かな行動にさえ出なければ、大会の準優勝者として彼もまた騎士団が迎え入れたであろうに、その未来さえ潰えさせて。




 大会が終わった後、私はなんとなくダヴィトと出会った裏庭へと向かった。

 自分の中にも興奮は残っている。彼の奮戦は、父や我が家の騎士たちを見慣れている私の目さえ惹きつけた。きっと彼はまだ強くなる。そうして、どこまで行くのだろう。


 そんな感傷に浸っていると、背後の茂みを鳴らして当のダヴィトが姿を現した。


「クラーラ様! 僕、優勝しました!」

「ええ。見ていましたわ。素晴らしかった。おめでとうございます」

「そ、それでですね、改めてクラーラ様に結婚の申し込みしたいんですが!」


 ダヴィトの目には確かな熱があって。けれどそれはきっと。私が残った求婚者を受け入れられないと思った理由と、同じなのではないかと恐れた。


 貴族に残るためというのが半分。残りの半分は剣聖である父の義息子(むすこ)になりたいから、彼らは私に求婚しているのだ。彼らの英雄である父への尊敬だか崇拝だかな気持ちは大きくて。もはや信仰に近い。


 ダヴィトは直接父に指導された。その様子を見ていたわけではないが、想像はつく。


「嫌なの。貴族でいたいから、父の義息子(むすこ)になりたいからって、それで私に求婚されるの」

「え、いや僕は」

「あなたなんて父の直弟子だもの。暑苦しいあの父の信奉者の仲間入りしてしまったんでしょう!?」

「そりゃ、師匠のことは尊敬してますよ? でも」


 彼の言葉を遮って吐き出した。

「誰もかれもが“私”を見ないくせに、“私”に求婚してくるのはもう沢山なの!」


 悔しくて、それが許せなくて涙が後から後から零れる。貴族女性としても子爵家後継としても、これほど感情的になるのは褒められたことではない。でも。私を素通りするばかりの求婚に、もう心は限界だったのだ。



 硬く乾いた指先が頬に触れてきて拭う。驚いた拍子に涙が止まった。令嬢に対しては不作法にすぎるが、下心からの行動ではなく、咄嗟に私を心配して手が伸びた感じだと受け取る。


「僕は、最初からクラーラ様に求婚していますよ? ほら、ちょうどこの場所でした。あなたが僕を助けてくれたのは。そして僕が告白したのも。あなたは強いだけじゃなくて、情けないだけだった僕を助けて、分不相応な願いを口にした僕に道を示してくれた。僕が一番認めて欲しかったのはあなたです。僕は、クラーラ・アンドルリーク嬢と結婚したいのであって、子爵家とか師匠と結婚したいわけじゃないです」


 その目が。二年前と変わらずまっすぐで。だから。

「“私”を見て欲しいの」

「ええ、見てますよ」

「“私”を知って、“私”を欲しいと思って欲しい」

「欲しいのは、あなただけです」


 だから私は、彼に甘えることにしたのだ。

「その言葉が嘘じゃないなら」

「あなたに嘘なんかつかない」

「それじゃあ、私はあなたを選ぶしかないわ」


 少し屈んだ彼が、こつんと額を合わせてきた。

「唇はさすがに、結婚前だと師匠に殺されるんで、今はこれだけ」

「ふふっ、変なの」

 額から伝わる熱が、私の身体も心もじんわりと温めていく。


「後は、馬車まで手を」

「エスコートじゃなくて、手を繋いでくれる?」

「お望みのままに」


 繋いだ手は、何度も肉刺(まめ)を潰した証に、ごつごつと分厚い。私の手を握りつぶさないよう、慎重に包んでくれている。もう私が助けなくとも、彼は自分を、そして私を守れるのだろうと確信させる感触に、ただ私は微笑んで彼を見上げた。




 私とダヴィトの婚約は驚く程あっさりと整った。残っていた求婚者たちも、大会でのダヴィトの様子に自ら求婚を取り下げていったのだ。父がダヴィトを直弟子だと宣言したのも大きかったのかもしれない。


 ダヴィトは、娘や妹のような私を(さら)って行く腹いせに、父や兄弟子たちに散々(しご)かれながらも笑っていたそうで。ついにはぼろぼろの状態で私の部屋に放り込まれて行った。


 心配して駆け寄った私に、

「膝枕してくれたら治ります」

 なんて言うダヴィトは、案外大物かもしれないと思いつつ、要望に応えてしまった私の方こそ甘いのかもしれないけれど。

 結婚式までキスさえお預けなんだからと言い訳して、二人で寄り添い、指折り数えてその日を待つ。



 もうクラーラ・アンドルリークの求婚者は一人だけになった。

 筋肉はやや控えめらしい。



クラーラがエルボーかました時には身体強化してません。でも、無防備になった鳩尾に、勢いと体重掛けたら、小柄な女性からの攻撃もそれなりに効くんじゃないかと。しかも、きちんと体術習ってる人間の攻撃だし。両手を組んで後頭部を殴るか迷いましたが、頭部は不味いかなと。いや、内臓に影響あっても不味いんですが。まあ治癒師もいるし。

学園内での不祥事は、子爵家がもみ消しました。男爵家には慰謝料という名の口止め料が払われた模様。ダヴィトが実家に受け取っておくよう伝えました。おかげで災害復興がいくらか進んだようです。


父は生ける英雄。国中に信奉者がいる。主に野郎に。おかけで父の周囲は常に暑苦しい。物理的に。

クラーラは小柄ですが、華奢だとは言ってない。実は骨太なのが悩み。護身とストレス解消も兼ねて、毎日体術のおさらいはしているので、太っているようにも見えない。剣を持つと令嬢らしい手にならないので、無手を選んだ。本人自覚はないが相当に使えるのは遺伝か。裸馬すら乗り込なす。

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― 新着の感想 ―
あまりいいカードが配られなかったとしても、それにくさらず強い心を持つ。 ダヴィトのような男を“真に強い男”というのだろうな、と感じました。 確かな実力も備わったダヴィト、クラーラと幸せになって欲しいで…
こんにちは。 弱いものが強くなっていく。 王道ですが、やはりこういう話はいいですね。 ダヴィトもすごいですが、父親に彼を委ねたクラーラもすごいです。
うわー!こう言うお話大好きです! クラーラも魅力的ですが、パパもママもダヴィトも全員素敵。 冒頭部の、『身分も財産も地位も個性だと思っている』と言う導入からそりゃそうだよねって引き込まれて、でもそれ…
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