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第5話 名


(んー……やっぱり〈ダンジョン倉庫〉は手に入れたものをしまえる倉庫的なものっぽいな)


 戦いも終わり、男はひと段落したところで手に入れたスキルを確認する。


(出し入れは風景(ビジョン)内なら自由に選べるみたいだ。上限があるかは、今はわからないか)


 その倉庫は異次元の倉庫。しまった物体はどこかへと消えてしまうが、ダンジョンの中ならどこからでも取り出すことができる。もちろん、中に入れたモノの状態は、男が好きなように確認できる。


 それらを確認してから、戦果である狼の死体を男は〈ダンジョン倉庫〉にしまった。


(〈ステータス鑑定≪魔物≫ Lv.1〉は――なるほど。リムサたちのステータスが見れるわけか……レベルだけだけど)


 風景(ビジョン)越しにスキルを使ってみれば、リムサたちそれぞれのステータスが数値として浮かび上がった。


〇『リムサ』

 ・Lv.3

〇『ボルドク』

 ・Lv.2

〇『ケルノスト』

 ・Lv.2

 

(リムサだけレベルが多いのは……ねずみの分かな。よくわかんないけど)


 今のところ、〈ステータス鑑定≪魔物≫ Lv.1〉では、鑑定対象の名前とレベルしか見えない。これもスキルのレベルが上がれば、見える項目も増えるのだろうかと男は考える。


 けれど。


(……まあ、名前が見えるだけでも十分だな)


 彼らにつけた名前が、鑑定結果として表示される。男にとって、それだけで十分すぎる結果だった。


(さて、〈戦闘指揮 Lv.1〉は今のところ検証しようがないから措いておくとして――)


 おそらくは、狼との戦いのように、三匹へと指示を出せるようなスキルだと、男はあたりを付けた。


 そして、最後。

 〈複製魔法〉――


(魔法があるのか、この世界には)


 それは男の前世にはなかった概念だ。いや、名前だけは存在したけれど、空想の産物として扱われ続けた代名詞。


 それがスキルとして追加された。


(複製……物を増やすのか?)


 増やすもの――と考えて、真っ先に思いついたのがさっきの狼。もしもあれを増やせるのだとすれば、毛皮も食料も無限に手に入ることになる。


(よし、使ってみるか! いけ、〈複製魔法〉!!)


 早速男は〈複製魔法〉を使ってみる。

 もちろん対象は、感覚的につながっている〈ダンジョン倉庫〉の中にしまった狼だ。これでうまく行けば、無限に狼の素材が手に入る――と思いきや。


(なっ……力が抜け……)


 魔法を使ったその瞬間、男の体が全体を強烈な脱力感が襲った。もしも手足にがあれば、立っていることもできず、這うことも叶わないような、そんな状態。


(こ、これは……あれか? 魔力的な力が、俺の中から消費された的な……)


 (うめ)くように喋る男は、脱力感に苦しみながらも結果を確かめる。結果は――


(ふ、増えてはいる……けど……使うたびにこんな調子じゃ、流石に実用的じゃないな……)


 魔法と言えば、魔力を使って使うモノ。その法則が正しいかは男にはわからないが、使うたびにこんな調子じゃあ、流石に封印せざるを得ない。


 とはいえ――


(敷布団の代わりにはなるか……?)


 〈ダンジョン倉庫〉の中で、狼が勝手に解体されていく。ダンジョンとしての機能なのか、はたまたこれもスキルの力なのか。そうして解体された狼の毛皮を、男は魔物たちのために作ったベッドに敷いた。


(まあ……それっぽくはなったかな)


 石でできた部屋の中、いくつかの石の家具と、毛皮の敷物が寝床として敷かれている。そんな簡素なつくりだけれど、今の状況で拘ってはいられない。


(ボルドクとリムサは毛皮を半分にすればいいか……)


 通常の人よりも少し背が高いぐらいのケルノストに対して、ボルドクとリムサは人の半分もないぐらいの背丈しかない。対して、複製した狼の毛皮はボルドクよりもやや大きいぐらい。


 ケルノストには狭い寝床になってしまうけれど、ボルドクとリムサには広すぎるだろうと考えて、半分ぐらいに切る。ちなみに切ったのは〈ダンジョン改築〉の力によるものだ。


(ここをこうしてっと――そういえばこいつらって寝るのか?)


 それとなく内装を整えたところで、そんな不安に襲われる男であったけれど、それが杞憂であったかのようにボルドクが部屋の中に入ってきた。


 そしてきょろきょろと部屋の中を見回すボルドク。そして寝床を見つけると、ボルドクは一直線に寝床へと飛び込んでいった――一番大きな毛皮の上へと。


(それケルノストの奴!!)


 と男が叫ぶけれど、やっぱり声は聞こえない。そのまますぅすぅと寝息を立ててしまった。


(あー……流石にこっちの毛皮じゃケルノストが寝れないよ……)


 ボルドクの自分勝手な行動に、頭を抱えてしまう男。けれど続いて部屋の中に入って来たケルノストは、ボルドクが眠っているのを一瞥した後、男が椅子のつもりで作った立方体の上に座り、腕を組んだような姿勢で停止した。


(ね、眠っているのか……?)


 ケルノストはスケルトンだから表情がわからない。それこそ瞼がないから目を閉じないし、肺がないから呼吸もしない。だから眠っているというよりも、昨日を停止していると言った方が良さそうな姿だ。


 それから少しして、ぽよぽよと遅れてやってきたリムサが、のそりのそりと部屋の中を移動したかと思えば、ボルドクの上に覆いかぶさった。


(ちょ、食べちゃだめだって!)


 じゃれているのか、それとも捕食しているのか。どちらとも取れない様子に男は慌てる。そこでうざったらしそうな鳴き声を上げたボルドクが、リムサを蹴り飛ばしてしまった。


(ああ!?)


 驚く男。宙を舞うリムサ。ぶよぶよと不定形の体を揺らして右から左へと横切ったリムサは、ぼよんと壁に当たって跳ね返った。それからぷよぷよと地面に着地する。


(だ、大丈夫……だよな? スライムって怪我とかするのか?)


 果たしてダメージ的な問題はないかと心配になる男だけれど、その心配を余所にリムサは再び動き出し、今度はボルドクの傍らに寄り添うように移動した後、そこで動きを止めた。


 眠っているのだろうか? こちらもやはり口や目がないのでわからない。

 なにはともあれ――


(ま、俺が作った部屋には、満足してくれたようで安心した……)


 その場のノリで作った部屋だったけれど、こうして戦いの後の休息所として使ってくれるのなら、十分その役割を果たしていると言えるだろう。


(にしても)


 眠る三匹を見て、男は思う。


(名前、か)


 リムサ、ケルノスト、ボルドク。

 この三匹は、それぞれが名前を得て、ステータスにもその名が刻まれた。

 名前が、三匹の存在を確立している。


 とすれば。


(俺にも名前は必要かな)


 自分に自分で名前を付けるというのは、どうにも気恥ずかしいものがあるけれど、このまま名無しで居るのもあれだし、新しい世界で前世の名前を使い続けるのもどうかと思った男は、思い切って自分自身に名前を付けることにした。


(そうだな――)


 男は名乗る。


(ジオ。ダンジョン『ジオ』――それが、俺の名前だ)



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