第3話 三匹の住人
骨。
獣。
スライム。
(……創れるのはこのあたりか)
〈魔物創造 Lv.1〉を使うと、またもや不思議な全能感が男の中に入り込んでくる。
そして、男の頭の中に、今創造できる魔物たちが浮かび上がってきた。
(スライムはいいとして……獣と骨は――コボルトとスケルトンかな?)
浮かび上がってきたイメージを男が言い換えると、それは文字を歪み、骨はスケルトン、獣はコボルトへと姿を変える。
(これは……俺の認識で存在が固定化されたのか)
しかも変わったのは名前だけではなく、朧げだった姿までくっきりとスケルトンは人骨の戦士となり、コボルトは二足歩行の犬として男の脳裏に映し出される。
(名前があるから、それは存在できる……どこで聞いた話だっけかな。でも、この世界だと、名前ってのは大事なのかもしれない)
そう考える男は、ちらりとスライムの方を見た。
(スライム……スライム……よし、今日からお前はリムサだ)
スライムのリムサ。アナグラムを使った安易名前だけれど、名付けたことに満足した男は、次にスケルトンとコボルトにも同じことをする。
(コボルトのボルドク、スケルトンのケルノスト――)
同時に、ダンジョンの中からコボルトのボルドクとスケルトンのケルノストが現れる。
コボルトは現れた瞬間からはぁはぁと息を漏らし、獲物が居ないかと周囲を見回し、ケルノストも似たようにかちゃかちゃと音を立てながら、男が見ていた風景の中に入ってくる。
どちらも魔物という言葉の通りに、恐ろしく、グロテスクな雰囲気を醸し出していた。
けれど、リムサたちは鉢合わせても、お互いを襲う気配は見せない。あくまでも彼らが襲い掛かるのは、ダンジョンの中に入ってきた外敵だけのようだ。
(よし、お前たち三匹が、俺の箱庭の最初の住人だ! いやぁ、わくわくするなぁ!)
魔物たちは少し怖いけれど、それでもダンジョンを盛り上げていく仲間として、男は彼らに親愛を覚えていた。
(あ、そうだ。流石に部屋もあった方がいいよね……)
そう言って、男は〈ダンジョン改築 Lv.1〉を起動する。
(四畳半ぐらいでいいかな。ケルノストは背が高いから、少し天井も高めにして――座れるところと寝れるところ。あとテーブルも欲しいよな)
地図の上から消しゴムをかけるように壁に穴を空け、その中に空洞を作り、机や椅子、ベッドを成形していく。
(あ、寝るにしても布団がない。んー……そう言うのも作れないし、どうしたもんか)
しかし残念なことに、使える素材は石だけで、ふわふわとした毛布やまくらなんてものは用意できなかった。それがどうにももどかしい。
草でもいいから藁のように編んで、敷布団のようにできればいいのだけれど――そう思っていると。
「ワンッ」
(ん?)
そこでボルドクがワンと吠えた。
見た目は狼のようなボルドクだけれど、その鳴き声は少し可愛らしい。
はて、しかしなぜ吠えたのだろうか?
(あ)
と、そこで男が風景を見てみれば、ダンジョンの中に侵入者が居た。
(流石はボルドク。野生の獣みたいな感覚だ)
男はボルドクを褒めるけれど、その声が届いている感じはしない。男はダンジョンで、ダンジョンには発声器官なんて存在しないから当たり前だけれど、少し寂しい気分だ。
ともかく、男は風景の先に居る相手を見た。
(野生の狼……かな?)
狼が二匹。ゆっくりと、洞窟の中を歩いている。
それらは牙を剥きだしにし、獲物を探すように周囲の気配を探っている。
敵だ。
このダンジョンの平和を荒らす敵。
狼たちがリムサたち三匹の前で、白い牙を露わにした。
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