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第21話 ダンジョンの戦い


(よっしゃ一個目の分断成功!)


 ダンジョンに侵入した【旅路の黄金鐘(ゴールドベル)】を分断に成功したことに、ジオはぐっとガッツポーズをして喜んだ。


(あとはシルバとゴルドを分断すれば完璧だけど――)


 各戦場を風景(ビジョン)を通して俯瞰する。その内、ケルノストとリムサが請け負った戦場を見て、ジオは思う。


(頑張れよ、二人とも……!)



 ◆



 分断された洞窟の中、リムサとケルノストの前に、ゴルドとシルバの二人が立つ。


「むぅ!!」

「はっはぁ! ぬるいぜスケルトン!」


 ゴルドの剣が躍るように振るわれ、それをケルノストの骨の剣が受け止める。ガチン! 硬質な音と共に、暗闇を照らす火花が散った。


「まだまだァ!」


 ゴルドが剣を振ったそのすぐあと、その後隙を埋めるようにシルバが剣を持って襲い掛かる。


「ぐぬぅ!」


 ケルノストの剣が、辛うじてゴルドの剣を弾き、シルバの剣を受け止めた。

 とてつもない威力の一撃だ。剣を受け止めると同時に激しい衝撃がケルノストの全身を貫き、ぎしぎしと全身の骨が悲鳴を上げているような音が聞こえてくる。


 たった二撃。

 されど、それだけでわかる彼らの実力。


 間違いなく、あの三人よりも強い。ケルノストは骨でそう感じた。


 ケルノスト一人で受け持つにはあまりにも強い相手。けれどケルノストは、一人で戦っているわけではない。


「リムサ嬢!!」

「あいな!」


 ケルノストに呼ばれて、リムサは準備していた攻撃を開始した。


「これぞスライム流戦闘術!」


 閉塞感のある洞窟内部。天井は低く、壁は近い。そんな戦場にあって、リムサは考えた。


――あ、これ床だけじゃなくて壁とか天井に張り付いたら強いんじゃね?


 液状化したリムサの体が洞窟内部に広がっていく。床、壁、天井――それは戦場そのものを支配するように。


「必殺のスライム空間殺法~!」


 戦場を取り巻くように広がったリムサの体から、拳の形をしたスライムが飛び出した!


「飛び道具か!」


 液状化し、薄く広く伸びたリムサの体を元として発射されるはスライムの拳。けれど侮るなかれ。それは質量を持った魔物の拳。ヒューマンスライムに至ったリムサのそれは、人間が放つそれと何ら遜色ない威力を発揮する!


「ゴルド! 右を頼む!」

「了解シルバ! 背中は任せたぜ」


 しかし相手は手練れの冒険者ゴルドとシルバ。

 ケルノストへの攻撃から一転して、背中合わせに四方八方から飛んで来るそれへと対応した。


 剣が躍る。

 下から上から左右から。彼らは自分たちに襲い掛かるそれらを、半分ずつ分担して対応することによって、一人じゃ捌ききれない量の飽和攻撃すら乗り越えてしまった。


「――リムサ嬢に倣おうか」


 けれど彼らに襲い掛かった攻撃はリムサの物だけではなかった。


「我が剣に名を付けよう――『骨剣流刀術』――」


 ケルノストが構える骨の剣に、魔力がまとわりついて行く。本来、剣に魔力を纏わせ、魔法の如き力を発揮するには長年の研鑽が必要である。


 剣と身を一体化する秘儀。けれど彼が持つ骨の剣は、自らの体から削り出した一品。もとより身であった剣にとって、魔力との一体化など造作もない技である。


 故にその剣は魔力を纏い、常識外の破壊力をその刀身に宿す。

 その名は――


「――『破骨』」


 天高く振り上げられた切っ先が、上段から二人の冒険者に襲い掛かる。その一撃は、ダンジョンすらも両断せんとばかりに魔力のきらめきを迸らせ――


「合わせろシルバ!」

「おうよゴルド!」


 けれど、ほぼ同時に打ち合った二人の剣に阻まれて、彼らを切り裂くに至らなかった。


「ぬぅ……!! 互角!」


 ケルノストもリムサも強くなった。

 進化とレベルアップを経て、更には自らの特性を十全に発揮する術まで身に着けた。けれど――


「こりゃすげぇ! 確かにこいつらに負けたってんなら、納得だな!」

「だが俺たちのコンビネーションが負けるわけがねぇ!」


 けれど、どれだけの進化も、術も、策も――この二人の前には無力に終わる。

 これがシルバとゴルドという冒険者の実力。

 ケルノストの脳裏に不安が過る。


「やはり、こやつらも分断すべきか……!」


 このまま戦い続けたところで、こちらの攻撃はすべて切り伏せられてしまう。そのうえ相手の攻撃は強烈無比。それを隙のないコンビネーションで繰り出してくる様はまるで嵐のよう。


 打つ手は、ない――


「リムサ嬢! 拘束して奴らを引き離すことはできぬか! 少しでも距離が取れれば、神が壁を作ってくれるだろう!」

「むりぽ~。床から近づいてもあの剣に切られると再生できない感じする~。たぶん、ケルノストとおんなじ魔力の剣だよあれ」

「流石に奴らも手練れ……!」


 どちらか一人であれば、ケルノストとリムサの力で押し切れる。けれど二人合わさると――勝ち筋は途端に消えてしまう。


 どうやったところで無駄。そんな予感がぬぐい切れない。


「せめて――この二人を分断できれば!」


 いや、分断したところで無駄だ。

 これだけの実力者。分断したとて、リムサとケルノストが一対一で勝てる様な相手ではない。二対一ならばまだしも、一対一で勝てるわけがない。


 押し切れる攻撃力も、躱しきれる素早さも、守り切れる防御力もない。


 活路が、見出せない――


「あーあ! あともう一人いればなー!!」


 リムサが叫ぶ。

 あともう一人。

 あともう一匹。


 この戦場を変えてくれる、仲間が居れば、と。


 その言葉は、果たして誰に向けられたものか――


「くぅん……」


 ただその言葉は、手出しができないまま立ち尽くした一匹のコボルトに、しっかりと届いていた。


 

 

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