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第14話 そりゃ魔物だって喋るよ



 私に与えられたのは自由だった。


 形にとらわれない自由。

 生き方を選ばない自由。

 ありとあらゆる自由。


 けれどあらゆる自由を与えられても、そこから選び取ることができるのはたった一つだけなのだと私は知った。


 だから私は選んだ。


 自由を選べる力を――








 それはとある日のこと。


(今日は鹿か~)


 一日一回、狩猟に出る日課から帰ってきたリムサたちを風景(ビジョン)越しに出迎えたジオは、ボルドクとケルノストの二人がかりで担いで持ち帰った大鹿を見て、感嘆の声をあげた。


 毎日成果を得られるわけではないけれど、確実に魔物たち全員の腹を満たせるだけの食料は供給されている。


 しかも――


(やっぱりダンジョンの外でも順調にレベルアップできるな)


〇ボルドク

 ・Lv.19

 【コボルトファイター】


〇ケルノスト

 ・Lv.19

 【スケルトンナイト】


 〈ステータス鑑定≪魔物≫〉越しに二匹を見れば、一つの目標としていたレベル20目前であることがわかる。となると――


(リムサはもう少しか)


 一番最初に創造されたからか、ボルドクたちよりもレベルの高いリムサだ。ただ、レベルが上がるごとにレベルアップの速度は鈍化していて、タイミングによってはボルドクたちと同じレベルであることも多くなってきた。とはいえ、チームで狩猟をしている以上、一番最初にレベルアップするのはいつだってリムサだ。


〇リムサ

 ・Lv.19

 【ダンシングスライム】


(そういえば、最初に進化したときも物を食べてる最中のレベルアップだったな)


 微々たるものかもしれないが、何かを食べることでもレベルアップにつながるらしい。いや、もしかしたらそれはスライムの特性かもしれない。だからリムサ一匹だけ、他二匹よりもレベルが高いのかも。


 なんて思っていたら。


〇リムサ

 ・Lv.20

 【ダンシングスライム】

 ――眷属が進化します。


(来た、進化だ!)


 レベルアップ。と、同時に始まるリムサの進化。

 やはりジオの見立て通り、10レベルごとに魔物は進化するらしい。


 ともあれそうしてリムサは進化する。淡い光がリムサのスライムの体を包み込み、次なる姿へと変わる――


「ん……進化、した……」


(シャベッタァァァァァ!?!?!?!?!)


 リムサ、喋る。


「がうぅ?」

「ん。どしたのボルドク。私が喋るのがそんなに不思議?」


(不思議だよ!!)


 ボルドクに代わって大声で突っ込むジオだけれど、わかり切ったことだけれどその言葉は伝わらない。なのでジオには、進化したリムサの姿を見ることしかできなかった。


〇リムサ

 ・Lv.20

 【ヒューマンスライム】


(ヒューマンスライム……ってのはたぶん、人に擬態するスライムのことか?)


 或いは人の姿をしたスライムか。とはいえ、納得のいかない進化、というわけではない。


(ここ最近、人型でいたもんな~)


 目的は不明なれど、人の形で活動していたリムサである。そこから進化して、人の姿を獲得するのはある意味で自然か。


 ともあれ。


(いやぁやっぱり進化はめでたいねぇ)


 眷属の成長を、ジオは手放しで喜んだ。


「ふぅん……やっぱり……ちょっと甘い……?」


 ただ、くるりと回って進化した自分の姿を見るリムサはどこか不満げだ。

 一見すれば人間の少女。ただ、スライム特有の緑とも青ともつかぬ半透明の質感は変わらず、また衣服もみすぼらしい布切れだって、よく見ずともそれがスライムで出来た布切れの擬態であることがわかってしまい、簡単にリムサが人間ではないことがばれてしまう。


 なによりも、人間らしい表情がリムサにはない。

 どんな言葉を語っていても、その顔は無表情から一ミリたりとも変化していないのだ。


 どこをどう見ても、完璧な人間の擬態ではない。


「ま、いいか」


 ただ、不満げだけれど焦る気はない様子。

 それもそうか。まだまだリムサにも成長の余地はあるのだから。


「とゆーわけで――ボディ換装、パワーアップ。人型リムサここに爆誕。これからよろしくぅ」


 ばちこーんとウィンクを決めて、しかし堂々たる無表情のまま、仲間たちへ向けて、あまりにも抑揚のない声でそう言い放ったのだった。

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