第12話 戦力増強
旧鼠。
インプ。
ゴブリン。
オーク。
(これは……いやまぁ、元より戦力増強のつもりだった以上、造るけど――どんな魔物が出てくるんだ?)
いつの間にか増えていた〈魔物創造〉の選択肢に困惑を隠せないジオ。思い返せば、一番最初に三匹を創造してからここまで、一度もこのリストを見ていなかった。
これからは定期的に確認しようとジオは自省しつつ、リストの魔物を一つずつ創造していく。
(旧鼠……そういえばリムサが一番最初に倒したのって鼠だったな)
思い出と言っていいのかわからないけれど、ダンジョンの最初のレベルアップの犠牲者となったのは、迷い込んだネズミだった。
まさかあれの魂が魔物として蘇るのか!? と考えると少し申し訳なくなってくる。
(とりあえず創造っと)
そうしてチュウと出てきた旧鼠は、普通のネズミにしてはかなり大きな体をしていた。とはいっても人間サイズなんてことはなく、よくて中型犬ぐらいだ。
(そう言えば、前と違って最初から魔物の種類に名前がついてたな。旧鼠は確か――前の世界だとネズミの妖怪だったはず。もしかして、俺の知識を参照して、知識にある名前を使ってたりするんだろうか)
そんな妙に気の利いたスキルに感心しつつ、創造した旧鼠へと名前を付ける。
(うーん、じゃあスミネ、かな?)
相変わらずのネーミングセンスを発揮するジオであった。
チュウと鳴くスミネ。スミネを見て、なんだなんだとボルドクたちが近づいてきた。
(仲良くできるかな? まあ、喧嘩することにはならないとは思うけど……とりあえず次だな)
スミネのことはボルドクたちに任せて、次の魔物を創造する。
(インプ……悪魔だったっけ?)
創造と同時にキキキという高い笑い声が聞こえてきた。
現れたのは子ヤギのような顔をした魔物だ。体型は以前のボルドクのような半獣半人で、背丈は大体一メートル弱ほど。小さな翼をパタパタと動かして飛んでいた。
(飛行ができるのか。いろんなことを任せられそうだな)
飛べるというアドバンテージはすさまじい。まあ、厳密に何に使えるかと問われても、すぐには答えられないジオだけれど。
(お前はアムだな)
そうして名付けられたアムもまた、ボルドクたちの輪に混ざっていった。ちらりと様子を見てみれば、どうしてそうなったのか、ボルドクがスミネを頭の上にのせていた。
ぷるぷるとボルドクの頭の上で震えているスミネが可哀そうだけれど、だからといってジオにできることはないので、再び魔物を創造する。
(ゴブリン……と言えばファンタジーの代名詞だよな)
ファンタジーを舞台にした作品なら、かなりのスケルトンやスライムに並んで多く出てくる魔物ゴブリン。果たしてどんなゴブリンが出てくるのかと、わくわくした気持ちで創造する。
(……なんか違うな)
ふふふーふと、こちらもまた笑うような声をあげて現れたゴブリンだけれども、噂に聞く野蛮な魔物と言った雰囲気とはどこか違う、落ち着いた物腰を感じ取れる佇まいをしていた。
もちろん、緑色の体色や小柄な体格などは聞いた通りだけれども――まあそこは個性の範疇だろう。
(うーん……リングラだな)
少し悩んで、ゴブリンはリングラと名付けられる。そしてリングラもまた、ふふふーふと落ち着いた様子でボルドクたちの方へと歩いて行った。
ボルドクたちと言えば――少し騒がしいと思ってそちらを見てみれば、新入りのアムがボルドクの首根っこを掴んで宙に浮かせていた。
ギャウギャウと暴れるボルドクだけれど、気にする様子もなくアムはキキキと笑いながらボルドクを宙吊りにして遊んでいる。どうやらアムは悪戯好きのようだ。ちなみにさっきまでボルドクの頭の上に居たスミネは、暴れるボルドクの頭から落ちないよう、必死に捕まっていた。その顔は、どこか涙目を浮かべているようだった。
さて、やっぱりジオにできることは何もないので、最後の魔物の創造をする。
(ひとまず創造はこれで最後だな)
いくら狩りで食料を供給できると言っても限度がある。そのため、ひとまず四匹だけと線引きをして、オークを創造した。
(うん、こっちは想像通り)
ぶひという鳴き声と共にオークが創造される。
かなり大きな体躯だ。身長だけなら、人並みに背丈のあったケルノストすらも超えていて、概算すれば190はあるだろうか。肉付きもよく、腕も足も胴体も、大木のように太く強靭だ。
(よし、ロックだな)
そうして最後の名づけも終わり、ロックもまたボルドクたちの方へと歩いて行く。のっしのっしと、今までにない重量感のある足取りは、なんだか頼もしい。
そういえば、さっきの騒ぎはどうなってしまったのか。場合によっては〈ダンジョン改築〉を使って――と考えていたけれど、どうにも騒がしい気配を感じられない。
一体どうなったのだろうか。
ジオはボルドクたちの方を見た。
(いや、本当に何があったんだよ……)
見てみれば、重なって倒れ伏すボルドクとアムの上に、君臨するようにリングラが座っていた。それはまるで女王が玉座についているようにも見えるけれど、アムが悪戯でボルドクを宙吊りにしていたところからどうしてこうなったのか。
ともかく、何とか無事に地上に戻れたスミネは、精根尽き果てたように灰色になって地面に臥せっていた。いや、鼠だから最初から灰色なのはそうなのだけれど。
(まあ、仲良くできそうだな!)
なんだかいろいろと言いたいことがあったけれど、最終的には喧嘩している様子もないことから、まあいいかと流したジオであった。
「ぶ、ぶぅ……」
そんなジオの横では、一番の新人であるロックが、困惑と不安を隠し切れない顔をして、力なくそう鳴いたのだった。




