第1話 開帳
ある男の目が覚める。
(んあ……どこだ……ここ……?)
男は記憶を確かめる。
(俺は確か……死んだはずじゃ……)
ならばここは天国か、いやいやまさかの地獄なのか。
なんか地獄っぽいな。岩だらけで。
洞窟のような場所だ。小川のような水が流れてる場所もあれば、苔むした行き止まりもある。
(死後の世界ってホントにあったんだなぁ……)
なんてことをのほほんと思う男。
しかしなんだか、様子がおかしい。
(なんだろう……何かがおかしい)
おかしい。
なぜ自分は身動きをとれないのか。
それなのに、まるでその洞窟の中を歩いているように見ることができるのか。
幽霊になってしまったからなのか、ここが死後の世界だからなのか。
(いやいやなんか絶対おかしいって! 喋れないし! ここどこなの! まじで!)
いよいよ不安になってきた男は、助けを求めるように叫ぶけれど、その声はどこにも響かない。じゃあ自分は何なのか。答えてくれるのは、ただただ頭の中に流れてくる洞窟の風景だけ。
まるで監視カメラの映像を見ているみたいだ。
(だ、誰か助けて――!!)
ぬるっ。
(っっ?????)
(え、いまなんかぬるっとした? え、ほんとになに?)
ふと訪れた変な感触に眉をひそめる男。
すると答え合わせをするように、洞窟の風景があるものを映し出した。
――なんかよくわからない丸い物体を。
(うわなにこれ!?)
色は濁った灰色。ぶよぶよとしていて、不定形で、若干濡れている――
(スライム?)
粘液質の不定形生物。
男の想像が間違っていなければ、それはスライムと呼ばれる怪物であった。
(にしてもちょっとグロテスクというか……それにしてもこのスライム、どこから出てきたんだろう?)
青いしずく型でもなければ、丸っこくてクッションのように可愛らしい姿をしているわけでもないし、ゼリーのような質感のまま変身しそうにもないそれは、ぶよぶよと動き、のそのそと移動する。
(今のぬめっとしたのはこれの感触だったのかな? でも、なんで感触がしたんだろう……)
男は風景としてスライムを見ているけれど、その風景の中に男はいない。なのに感触がした。なぜだろうか。
(……わからん)
わからなかったので後回しにした。
とりあえず、スライムの観察をする男。
(おっそいなぁ、こいつ)
ぶよぶよのそのそと動く足取りはまるでカタツムリのよう。
(うーん……どうしたらいいんだろう)
さて、ただスライムが動くのにも飽きてきた男だ。
もしかしたら風景に何か映るかもしれないと期待して、彼は洞窟の他の場所も見て回る。
すると洞窟の端の方に、彼は一匹のねずみを見つけた。
果たしてどこから入り込んだのか、しきりにあたりを見回すねずみ。
(お、今度はこいつを見てるか)
そうして、スライムからねずみの観察に切り替えた男は、また長い時間をかけてねずみを観察――
(あ、スライムだ)
観察しようとして、近くにスライムが居ることに気づいた男。
(意外と近くに居たんだな~)
とまあ、のほほんと観察対象のことを考えていると――突如、スライムがねずみへと襲い掛かった!
(こいつ……動くぞ!?)
跳ねるスライム! ねずみは悲鳴を上げることもできずにスライムに覆われ、そして――
(……ぐ、ぐろ……)
そして、スライムに食べられてしまった。
弱肉強食という自然の営みなのだろうけれど、男には少々ショッキングな風景であった。
もぐもぐもぐもぐ。咀嚼するように動くスライムの体を見れば、少しだけ透けて見える体内で、ねずみが溶けていく様子が見える。
そしてそれが完全になくなったとき――その声はきこえた。
『ダンジョンレベルが上がりました』
『〈ダンジョン Lv.1〉→〈ダンジョン Lv.2〉』
(はい?)
システム的なアナウンス。
聞こえてくるレベルアップの通知。
それは祝福のように、あるいは歓迎のラッパの音のように、男の耳を揺らす。
『スキルを獲得しました』
『〈魔物創造 Lv.1〉を獲得しました』
『〈ダンジョンアイ〉を獲得しました』
『〈ダンジョン改築 Lv.1〉を獲得しました』
続くアナウンスに混乱する中、男は一つの答えにたどり着いた。
(え、もしかして俺――)
(俺、ダンジョンに転生したの?)
ちゅーと、死んだはずのねずみの声が聞こえた気がした。
はじめまして。
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