第99話 捜索
■ヴァイス視点
――割者『国喰い』
高枝の方の伝言により、国喰いが動き出したことを知った俺達は、その動きを調べるために旧王都を出発した。
大体の方向は高枝の方が教えてくれたので、その方面の人里を回り目撃情報を集めるのが目的だ。
領主も人手を回してくれているようだが、街の外に詳しい人材というのは貴重だ。
国と国を繋ぐ旅団か、街から街へと渡り歩く“密猟団”でもない限り、小さな村まで把握している者は少ない。
だから俺とルメールは、ちょうどいい人材を連れて、三人でクシナド王国の端の方にまでやってきていた。
途中に立ち寄った街の酒場で、近くの村に住む狩人が巨大な化け物を見たと騒いでいたという話を聞き、その狩人の住む村を目指して境界を進んでいた。
街と街を繋ぐ整備された街道と違い、小さな村へと続く道は整備もされていない獣道だ。
馴染みのない土地とわかりにくい道筋は、俺とルメールだけなら何度も迷っていただろう。
ルメールを背負う俺の前を迷わず進む男に、思うことは山ほどあるが、有能なのは間違いない。
「……そないに熱心に視線向けられたら、生きた心地がせぇへんのやけど」
そう言いながら振り向いた細めの男――エリオは、その顔の左半分に火傷跡を刻んだ顔で困ったように呟いた。
「マリネに手を出しておいて、今生きていられるだけ幸運だと思いなよ?」
棘のあるルメールの声に、エリオは両手を上げて降参の意を示す。
「勘弁してくださいなルメールの姐さん。姐さんの殺気は寿命が縮みますんでほんま……」
頬を引きつらせるエリオ。
ルメールはあまり他人に興味を示さないが、そんなルメールにとってもマリネは特別だ。
人形の身体を得たばかりのルメールと、幼かったマリネは一緒に育ったようなものだからな。
なので、明確な悪意を持ってマリネを狙ったエリオに、こうして定期的にくぎを刺すのだ。
俺としてもさっさと首を落とした方がいいと思ったのだが、状況的にエリオほどおあつらえ向きの人材がいなかったのだ。
とは言え、それだけなら裏切りかねないこいつを牢屋から出す必要はなかったのだが……。
「お前が真面目に仕事をしてる分には、お前の弟分は何事もなく過ごせるから安心しろ」
「……ほんま、それだけは頼んますわ」
俺の冷ややかな言葉に、縋るような声が返ってくる。
エリオの弟分である熊獣人のベルンの減刑と、身の安全の保証。
それを提示したら、エリオは二つ返事で協力すると申し出てきた。
その言葉には、確かな想いが込められていると思った俺は、エリオを連れていくことを決めたのだ。
その判断は正しかったと思う。
意外にも手を抜かずに真面目に働くし、地理には詳しく鼻も利き、予想以上に優秀だ。
なので、ルメールも最初の頃ほどは殺気を向けたりはしていない。
……初対面の時は、エリオが震えて呂律が回らなくなるほどだったが。
その結果格付けがしっかりされたからか、その時からエリオはルメールを姐さんと呼んでいる。
「それにしても、なかなか見つからないね国喰い」
「あの巨体だ、もう少し簡単に見つかると思ったんだがな」
ルメールの言葉に、俺は二十年前に刻み込まれたあの異形を思い浮かべる。
――王城を食い破って現れ、夜空を割り開き、月に届かんばかりに巨大な蛇。
間近で刻み込まれた印象が強すぎるから、正確な大きさは分からないが旧王都の王城跡地を見返せば巨大なのは疑いようがない。
「わいらが花劇団を追っかけとる途中にも、はるか遠くで蠢く竜を見た、っちゅう噂話は聞こえとったんやけど……」
先を進むエリオが、ぴたりと動きを止める。
「どうした?」
俺の問いをエリオが手で制し、その細い目を閉じて、眉根を寄せて集中する。
「……噂話ちゅうんは、やっぱりするもんやな」
何かを嗅ぎ取ったのか、僅かに目が開かれる。
「嗅いだこともない、嫌な匂いや」
その視線は、俺達が目指している村の方向に向けられていた。




