第98話 新人
■マリネ視点
「ようこそ、チュートリアルの酒場へ! いらっしゃい、新しい来訪者さん」
「えっと、うん」
わたしがそう言って手を取ると、その女の子はびっくりしながらも素直についてきた。
戸惑い方や、着ている服から来訪者はわかりやすい。
特に今回は、那砂の着ている服に似ているからなおさらだ。
いつもならヴァイスに丸投げするんだけど、一か月前ぐらいから不在なんだよね。
『もしも来訪者が来たら対応は優斗と那砂に任せる』
そう言い残して、ルメールと“もう一人”を連れて三人で旅立っていった。
よりにもよってそいつを連れていく? とは思ったけど、ヴァイスなりの考えがあるみたいだから黙ってた。
うぅ、そいつを思い出すと今でも尻尾が逆立っちゃう。
今はそんなことより、わたしの尻尾を目で追っているこの女の子を二人の所に連れて行かなきゃ。
「優斗! 那砂!」
酔っ払いをあしらいながら、酒場の奥の方に進むと、二人が仲良く座っていた。
「あ、マリネちゃん! もしかして休憩時間?」
両手でジョッキを掴み、果実酒を口にしていた那砂が首をかしげる。
来たばかりの頃の気弱さはどこに行ったのか、すっかり一人前になって、落ち着いた表情が頼もしい。
「……いや、那砂。先輩としての初仕事みたいだ」
腸詰を噛みちぎり、エールで流し込んだ優斗が目ざとくこの子に気付く。
危なっかしかった子供らしさはどこに行ったのか、今の優斗は見るからに頼りがいが溢れている。
……うん、成長しすぎだね二人とも。
ヴァイスが愚痴るのもわかる気がするよ。
二人とも、女の子に気付いた瞬間、目配せして席を立つ。
立ったことで見えた、二人の制服姿に少し安心したのか、女の子が息をこぼしたのがわたしの耳に聞こえた。
「初めまして、俺は優斗。日本からこの世界にやってきた転移者――来訪者で、あなたと同じような境遇だ」
「同じく初めまして、那砂って言います。優斗くんと一緒にやってきた来訪者です。何でも聞いてくださいね」
二人の落ち着いた、親しみのこもった声に、女の子の表情が和らいだ。
「えっと、初めまして。私は、陽葵っていいます」
少し自信なさげな可愛らしい声で、陽葵が名乗り。
軽く深呼吸をしてから、私達を見て、意を決するように。
「ここには、私の大事な人を探しに来ました!」
その覚悟のこもった声に、私達三人は顔を見合わせた。
陽葵の話を聞く為に休憩に入ったわたしは、優斗と那砂と一緒に一通りの話を聞いた。
「うーん、聞いたことないなぁ」
双子の妹に、幼馴染の男の子。
その二人の名前も教えてもらったけど、わたしには聞き覚えがなかった。
物心ついたころからチュートリアルの酒場で暮らしているわたしは、旧王都に現れた来訪者のほとんどを知ってる。
陽葵は五年ぐらい前だと思うって言ってたけど、その当時の来訪者に陽葵の探し人はいないと思う。
「マリネちゃん、確かクシナド王国に現れる来訪者の大半は旧王都のあの広場なんだよね?」
「そうだね。少なくとも旧王都の来訪者はあそこに現れるよ」
昔は王城の一部で、その中でも隠された場所だったらしい。
国喰いの一件で王城が崩れて、広場もしばらく野ざらしだったけど、シンザキ達が領主と相談して、普通の人は立ち入れないようにしたとか。
「じゃあ、二人はこの街にはいないんだ……」
目に見えてしょんぼりする陽葵。
「来訪者はここ以外にも色々な場所に現れるし、諦めちゃだめだよ」
クシナド王国の来訪者は確かに、大半がここ旧王都に現れる。
でも、それ以外の国にだって来訪者は沢山いるし、クシナド王国内でも旧王都以外に現れる事もある。
うーん、ヴァイスが居たら聞けるんだけど、仕方ない。
「とりあえず、陽葵はここで寝泊まりすればいいよ。来訪者を歓迎するために、この酒場はあるからね!」
チュートリアルの酒場は来訪者を歓迎します!ってね。
「あぁ、俺達も陽葵ちゃんの人探しに協力するよ」
「私達も先輩方にお世話になった身ですから、遠慮なく頼ってくださいね」
優斗と那砂も、初の来訪者の後輩に先輩風吹かしちゃって。
今にも泣きそうだった陽葵が、安心したのか目に涙を浮かべながら笑みを浮かべ。
「うん、頼らせてもらうね、先輩達に!」
深々と頭を下げた。
……勢いよく下げすぎて、テーブルに頭をぶつけたのは見なかったことにしてあげよう。




