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チュートリアルのある異世界へようこそ!  作者: しなとべあ
第三章 ペルムシエルの花劇団
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第96話 閑話:ルメール

ビスクドールのルメール。


鉄槌のルメール。


それが、今のぼくの呼び名。


そして。


それが、今のぼくの全部。




ぼくに残ってる最初の記憶は、ぼくを掴んだ君の手の温もり。


ずっと土に埋もれて眠り続けていた鉄槌を、君が見つけ出してくれた日。


それがぼくと君との出会いだった。


そんな大事な記念日だったけど、残念ながらぼくは寝ぼけていて、君の手の温もり以外の記憶がない。




ぼくが目覚めたのは、出会いの日から何日か経ってからだった。


綺麗に磨き上げられたぼくを、君が開拓団の保管庫に運んでいるとき。


触れている君の手を伝って、ぼくの心の声が届いたのが最初の一言だった。


『誰?』


……今思えば、もう少しいい言葉があったとも思う。


この時は知らない誰かに運ばれていたから、だいぶ強い念を送った気がする。


君はびっくりしてぼくを取り落として、危うく足が潰れるところだったと後で聞いた。


拾った武器から声がしたら、不気味だったと思うし、驚いても仕方ない。




でも、君はぼくと対話を選んでくれた。


記憶がない。


自分が誰かもわからない。


そんなぼくと、君は真摯に向き合ってくれた。


今思えば、ぼくは嬉しかったんだとわかる。


ひとりぼっちで眠り続けたぼくを見つけて。


目覚めたばかりで混乱していたぼくと、向き合ってくれた。


とってもめんどうくさかったぼくから、逃げずに話し合ってくれた。


そんなの、嬉しいに決まってる。




鉄槌だけのぼくに、君は身体を用意してくれた。


触れるのも怖いぐらい、華奢で美しいビスクドール。


そんな美術品のような人形を、ぼくは何度壊しただろう。


この体に慣れるまでに、何度も滑って、何度も転んで。


綺麗な顔が台無しになるぐらい、土だらけにしても。


それでも、君は嬉しそうにぼくに手を差し伸べてくれた。


今、ぼくが自由に動けるのは、君のその想いが身体いっぱいに満ちたおかげ。


そう信じられるぐらい、君はぼくに寄り添ってくれた。


それに、君はぼくに目標を与えてくれたからね。


時々寂しそうな顔をする君の、頭を撫でてあげるって目標が。


だから、我ながら上達するのは早かったと思う。


初めて君の頭を撫でてあげた時の、驚きながらも泣きそうな君の顔は生涯忘れない。




君は、誰よりもぼくに近くて。


だからこそ、ぼくだけが君の気持ちを理解できた。


それは、ぼくと君が特別な仲間だと思えてとっても嬉しかったけど。


それがなくても、きっとぼくは君の為にあろうと思ったよ。


格好つけで。


背負い込み屋で。


後悔ばかりため込んで。


張り詰める程貯まった遺志で重い身体で。


後から歩く人の為に、道を切り開くべく誰よりも前を歩く君は。


迷子の夜に見上げた闇の中に光る、小さな星のよう。


一緒に歩いていたはずの仲間は、一人一人と欠けていき。


でも、一人として捨て置けないと、欠けた仲間はみんな君の重しになった。


手放そうとしないその重しを、代わりに背負うことは出来ないけど。


ぼくだけは、隣で君の手を取り支えるよ。


君がくれた体には。


ちゃんと、君を支える手も足もついているからね。


でも。


君が背負っている人達に嫉妬しちゃうから、できるだけぼくも背負ってもらおうかな。


ぼくの重みで、君の重みが少しでもまぎれたらいい。


そう、願いながら。




身を焼き、硬焼き、焼き入れて。


絡繰、糸巻、息巻いて。


鉄塊、鉄心、鉄火の如き。


鉄槌振るうは磁器人形。


我最愛の主人が為に、


全てを砕き尽くしましょう――!


――ヴァイス。


君が為に、ぼくはある。




ぼくはルメール。


鉄槌振るうビスクドール。


そして。


誰よりも格好いい背中の君――ヴァイスの、相棒だ。

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